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児玉誉士夫と丸の内『胡蝶』

戦後国士であるとか、右翼の大立者であるとかいわれ最後は、ロッキード事件の重要参考人として、更に被告人として病気と偽り、検察の調べから逃れ一度も法廷に出ることなく世を去った児玉誉士夫は戦時中、海軍大西瀧次郎の命を受け軍事物資調達の為に、中國人民から金銀・ダイヤまで強奪して、敗戦と成るや強奪した金銀・ダイヤを日本国内に運び込もうとした。然し、敗戦国は軍機や軍艦・戦争に関与した乗り物は使えない。児玉が考えたのは報道機関の飛行機である。右翼を標榜している者が、典型的左翼の『朝日新聞』の飛行機を利用したのである。報道機関と医療機関の飛行機や船舶は運行が敗戦に成っても許されていたからである。その『朝日新聞』の小型飛行機で中國人民から強奪した金銀・ダイヤを日本に運んだ。それを資金にして自由党と民主党が合同して、自由民主党が出来た。なにしろ、政党を作る為の資金を出したのであるから、戦後の政治を裏から動かすほど政治的影響力を持ち、虚像の児玉誉士夫が生れた。戦後はJHQにA級戦反として岸信介・笹川良一・等と共に逮捕され、巣鴨プリズンに入り取調べを受けるが、岸と共にCIAのエージェントになり、フリーメイソンに加入することで絞首刑を逃れた。

この事実は五十年後、公開されたアメリカのCIAの秘密文書であきらかになった。

児玉に死後、児玉の数ある二号の一人が、丸の内のビルの中に、日本庭園を部屋から眺める事が出来る料亭『胡蝶』を経営して、財界人や政治家が利用していた。

ここに私と稲川会本部長・岸本卓也と部落解放同盟解東京責任者である成塚靖雄の三人が、真ん中に大きな杉の木がある庭を眺めながら食事をした。

「岸本さん。ジャンボの件については、後援会長として深くお詫びを致します。会長さんに、この通りです」

といって成塚は正座をして、畳に手をついて深く詫びた。

「成塚さん。手を上げて下さい。ジャンボの件は会長が許したとは言っていないが、解かったとは言っている。日を改めて熱海にあなたが、挨拶に行けばよいでしょう」

「ジャンボの奴チキンハートな奴ですから、会長さんが面倒を見てやらないと試合に勝つことができません」

「勝負師の腹が座っていないのじゃ、どうしょうもないな」

「だからジャンボは、世界に出て行っても勝つことができないのです」

「困ったものですね」

岸本本部長は笑いながら、眼だけを上目使いに鋭く成塚から放さなかった。成塚は未だ、言われることがあるのかと心配そうな顔をした。

「処で成塚さん。あんた。『東京スポーツ新聞』の社主で元児玉誉士夫の秘書であった太刀川を知っていると以前、私に言った事がありますね」

太刀川恒夫は児玉が、ロッキード事件に連座して、連日報道陣から、児玉に家の玄関口でインタビューを受けた時に、それを一手に引き受けて報道陣を煙に巻いたように手練手管を持っている狡い男である。

結果的には児玉の死後、北海道の『千歳カントリークラブ』『東京スポーツ新聞』を私物して、現在は社主と成ってしまった没義道な者である。

然し、それだけではなく『東京スポーツ新聞』の株主である児玉誉士夫の実子を『東京スポーツ新聞社』から汚い手を使い追い出してしまっていた。この様な情報は私達ヤクザの所へは、直ぐに入ってくる。まして、師であり恩人でもある児玉誉士夫の実子を汚い手を使い太刀川が『東京スポーツ新聞社』から追い出したとなれば、この当時はCIAの秘密文書が公開されていない時であっても、黙っている者はヤクザはいない。岸本本部長は、太刀川と友人である成塚にはっきりと言った。

「児玉先生は内の総裁とどれくらい仲が良かったか、知っているだろう。東スポの件は総裁も太刀川は酷い奴だと言っている。問題が起きない内、成塚さん。太刀川に会って総裁が、心配していると伝え、善処させた方がいいだろう」

日本のドンと言われた稲川会の総裁が、この件を知っていると聞かされ成塚は一瞬、躊躇いの色を見せたが、暫く、考えて返事をした。

「良く解りました。太刀川とは、良い中で何でも言い合えるつもりでいますから、必ずこの件は伝えます。太刀川だって稲川会の総裁が心配をしているとなれば、言うことを聞かない訳には行きません」

『胡蝶』の部屋は庭が見えるように、庭側の衾は外されているが、各部屋が日本庭園を囲むようにして、作られているので、他の部屋には自分の部屋で話した事は聞こえないように作られていた。

(この様なビルの中で、如何してあんなに大きい木や植木を育てるのだろう。そのような管理法があるのだろうが、知りたいものである…)

話しが済むと今度はワインの話になった。成塚は自分の会社の会長室に畳一畳位のワインセラーを持っていて、ワインをコレクションしている。だから、ワインの話をさせたら留まる処がない。

岸本本部長もワインしか飲まないワイン通で、自分で飲むワインはフランスのブルゴニュー地方の『シャトッーラツール』である。私は両人ほどワイン通ではないが、フランスのブルゴゴニュー地方の『ムートンロートシルト』しか飲まない。

ワインが好きになると拘りが、出来てしまうのだろうが、成塚は私達よりワイン通であり、世界の美味しいワインなら何でも飲むと言った。

又、成塚はジャンボ尾崎の後援会長をして、ジャンボの事務所を自分の会社に置くような者である。当然、ゴルフは好きである。

暫くの間はゴルフ談義に花を咲かせた。

ジャンボが一八〇勝した時に記念パーティーを催す際、使いの者が熱海の会長に招待状を届けた時にこう言った。

「当日は、会長さんは遠慮をして下さい。代わりの者を寄こしてください」

ジャンボの使いの者を応対した本家班長はその儘の言葉を会長に伝えない方が良いと考えジャンボが一八〇勝記念パーティーを催す事だけを会長に伝えた。

処が、ジャンボの使いが来た時に傍にいた部屋住が有りの儘を会長へ伝えてしまった。これを聞いた会長は激怒した。

「俺はジャンボが好きだから、傷がついては可愛そうだと思って今まで、一度だってパーティーには行ってない。堅気の代わりの者にお祝いを持たせて行かせていた。その言いぐさはなんだ。ジャンボは今後、出入り禁止だ」

それを聞いた本家班長は慌ててジャンボの所に電話をかけた。

ジャンボは驚き直ぐに熱海に駆けつけた。然し会長は会う事は無かった。何度ジャンボが来ても会わなかった。如何したら良いのかとジャンボは考え木更津の中村一家の総長に頼みに行った。中村総長は千葉に住んでいるので、ジャンボとは旧知である。最初に会長の所にジャンボを連れて行ったのも中村総長である。

二人して会長の前に行き平身低頭したが、会長は中々返事をしなかった。その内、中村総長が涙を流し始めたので、会長は顔を横に向けながら口を開いた。

「解った」

会長が言った「解かった」という言葉は、中村氏の涙に対して中村総長のジャンボを庇う気持ちが解かった事であるとは二人とも解からなかった。

稲川会会長は心が優しい人である。然し、人間としての筋道を踏み外す者に対しては厳しい。普段は春風のように爽やかで、常に自分には秋の霜のような厳しさで慎んでいる人が、このジャンボの自惚れたパーティーの招待の時の言葉は、普段から、ジャンボを傷つけないように気づかっている会長の心を傷つけてしまった様である。

『胡蝶』で二時間は瞬く間に経過してしまった。ゴルフの話は尽きない。そこでは今度三人で、ゴルフを遣ろうという事に成った。

成塚は芸能界にも顔が効くと見えて誰か、芸人を連れて来ると言った。

「石原プロの渡は気持ちが好い奴だ。連れて来ては如何かな」

「渡は体が悪いから駄目ですよ。」

「俺は、賭けないとだめだ。賭けても良いというものと嫌いなものがいる」

たまゆら考えていた成塚は、賭けゴルフをしても良いという男を本部長に話した。

「松方なんか気持ちが好い奴です。弘樹ではどうでしょか」

「おいッ、松方ならいいではないか」

 

 

アクテオ上場の裏

大物総会屋の小川薫とは変わらない交際をしていた。時々、夕食を食べながら経済界の裏事情を聴いていた。六本木のイタメシ屋『ドマーネ』でムール貝のオリーブオイル焼きを鼻に汗をかきながら、食べていた小川薫が突然いいだした。

「建設機械のリース専門にやっている『アクテオ』と言う会社を知っていますか」

「認識不足で知らない。でも建設機械のリース屋というのは儲かるのだろう」

「何処の建設会社でも経費節減で、毎日使わない重機を置いておかぬようにしているからそれをリースする会社は好いよ」

「それで『アクテオ』が何だのだ」

「今度、株を上場する。後は言わなくても解っているだろう高田さん」

「それは、『武富士』のときのようにすることかい」

「ピンポン。大当たり今度は上手くやり、成功しましょう」

私は、同じ過ちを二度と繰り返したくなかった。『武富士』の件の様な結末は犯したくなかった。然し小川薫のリクエストにも応えてやりたかった。

「小川さん。俺は『武富士』の結果で懲りたから、今度は勉強のつもりで俺のところの代行をしている田中嘉人に、遣らせて見ようと思うのだが如何だろう」

「田中さんですか。いい若い者ではありませんか。彼なら上手にやってくれるでしょう」

「それでは、詳しい話を私は聞きませんから、代行である田中嘉人と至急あってみて話をして下さい」

こうしてこの件は、田中嘉人が十年の刑期を宮城刑務所で服役するように成る事に発展する。私の組の代行である田中嘉人と小川薫は会って、この話を如何するか決めたようであるが、内容は私と小川薫で『武富士』を攻めた時と同様であったと思う。後日になり、同じ宮城刑務所に服役した田中嘉人に聞いたところ、小川薫は横浜にある『アクテオ』の会社の社長の家を教えて、扉に拳銃を一発打って来てくれと言ったとの事である。髙田組の組長代行である田中嘉人は、高島睦と兄弟分の荒木健司を連れて横浜の青葉台にある『アクテオ』の社長の家に行った。二人を車に残して家の直ぐ近くまで歩いて行くと家の周りには、一見してヤクザ者と思える者が数人いて拳銃を取りだして田中に向けて誰何した。

「だれだ!」

「……」

田中は、小川薫の話に拠れば、警備などしているヤクザはいないと言っていたので判断に困った。

(取り敢えず引き上げるとしようか…)

踵を返して。車の方に歩いて行くと何人ものヤクザらしく者たちが、追いかけてきた。車に乗ると方向転換をして走り出した。すると背後から拳銃を発射する音が聞こえた」

「ダーンー」

田中の本来の目的は喧嘩をする為に来たのではないから、この様な住宅地で拳銃の打ち合いに成れば、大騒ぎになると思い全速力で車を走らせた。

東名高速に田中の車が乗る辺りまで『アクテオ』の社長宅をガードしていた者達は追ってきたが、高島の巧みな運転に捲かれてしまった。

(小川さんは何を言っているのだ。これでは遣られに行ったものだ…)

直ぐに、田中は小川薫のところへ電話をした。

「小川さん。話しが違うじゃないか。どこかのヤクザ者がいて、拳銃を俺に向けて撃ってきた。危ない所だったぞ」

小川薫は何を考えていたのかは分からないが、田中に返事をした。

「それは、しょうがない事ではないか。普段でも危険を承知のヤクザでは無いか。それ位で文句を言って来るのは筋違いじゃないか」

(この野郎。大物総会屋とか言われて、その気に成っているな。話しは違うお前の方が筋違いだ。少し怖い眼に合わせてやろう…)

田中は決断した。小川の事務所に拳銃を何発かお見舞いしてやると…

横浜から都内に入り、新宿の知り合いの店で、朝まで飲んでいた。朝日が上がる頃、兄弟分の荒木健司と舎弟の高島睦に言った。

「これから、日本橋室町にある『小川企画』の事務所に何発か拳銃を御見舞してやる。二人ともついて来てくれ」

「兄弟。頭に来ているなら俺も行くよ。何も言わないでくれ」

こうして、新宿から日本橋室町の『小川企画』の事務所に向かった。

小川の事務所に着いた田中たちは、高島を車に置いて、周囲の様子を窺がわせ荒木と二人で五階にある『小川企画』の事務所の前に立った。

二人は顔を見合わせると頷き徐に、スミス&ウエッソン三十八口径の引き金を引いた。スミス&ウエッソンは蓮根と言う弾倉に五発入っている。二人は全部の弾丸を撃ちこんだ。『小川企画』のドアはドアの形が無くなっていた。

「兄弟。帰ろうぜ」

エレベーターから下りると二人は、車の中で見張をしている高島に済んだことを合図して、車のエンジンをかけさせた。

「兄弟。スミス&ウエッソンは、馬力があり使い易くいいね」

「オートマチックの拳銃は、弾倉に玉が詰まることが多いし、いざという時には、リボルバー(回転式)の方が安全で良いな」

この様な話をしている内に、車はいつの間にか関越自動車道の練馬入口に来ていた。

「ここまで来たら、もう安全だ。警察も解らないだろう」

この事件は午後になり、テレビで頻りに報道していた。

私はその日、岸本本部長のゴルフコンペの『どんぐりの会』が茨城にある稲川会直参である中村富夫が経営している『十王ゴルフクラブ』で催されていたので、若い者を六人ばかり連れて参加をしていた。コンペが終わり車の中のテレビを見ると小川薫の『小川企画』が何者かに、襲撃された事を頻りに報道していたので直ぐに、小川薫の所へ電話をかけた。

「小川さん。誰があんたの事務所に、拳銃などぶち込んだのだ。もう一度あったらどうしょうもないから、家の若い者を何人かあんたの所に遣ろうか」

小川薫の頭のなかは混乱しているようで、小川薫は私まで疑っている様子が窺がえた。

「大丈夫だよ。今度来たら儂が一人でも、遣ってやる」

広島弁でがなりたてた。

(誰が小川さんの事務所に、拳銃をブチ込んだのだろうか。小川さんもあっちこっちで、言いたいことを言い出すから、憎まれている事は確かだ…?)

小川薫の事務所に拳銃をブチ込んだのは、誰であろうと考えながら車の後部座席であれこれと考えている内に、江南の家に着いた。

その儘の姿で髙田組事務所に行くと代行である田中嘉人がいた。

「親分。ちょっと話があるので聞いて下さい

「おうっ、如何した心配事でもあるのかよ」

「いや、そうゆうことではありません。実は例の『アクテオ』の件で横浜まで行ったら、反対に撃たれそうになりました。だから小川さんに言ってどうゆうのだと聞きましたら、おかしなことを言うので頭に来て事務所に拳銃をブチ込んできました」

まさかと考えていたが、私は、もしも、という事があり得ると思っていたので、驚きはしなかったが、今後、小川薫とどうして付き合って行けば良いのか解らなかった。

「親分すいません。親分の大事な友人を遣ってしまいまして…」

「小川より俺にとって、嘉人の方が大事だ!」

 

 

ジャンボ尾崎事務所襲撃

ジャンボの件は丸の内の料亭『胡蝶』で本部長を交えて成塚・私で話したわけであるが、成塚は直ぐに行動に表してくれた。その前に私に相談があったから、私は言った。

「例を示すと『東京スポーツ新聞』の太刀川が会長に挨拶に行った時、百万円持って行き本家にいた山崎秘書に突き返された。その上会長に合わせなかったことがある。その事を参考にして、熱海の会長宅を訪問すればよいだろう」

「手土産を持って行きたいと思うのですが、どのような物が好いでしょうか?」

「会長は観術品が好きですよ」

「人間国宝が焼いたツボがあるのですが、それではどうでしょう」

「好いでないですか。行く時には余分なことをしないで、さっぱりした気持ちで会長さんに会えば、成塚さんなら直ぐに知己に成れると思います。会長は細かいこと得意がり、話出していると嫌いますから、その点も心得ていたら良いと思います」

「有難うございます。熱海に行って来たらご報告いたします」

「ジャンボの件も成塚後援会長が、言って詫びればそれで解決するでしょう」

私は、会長に成塚の担当に成れと言われてからは、かなりの頻度で成塚の会社の行き雑談をして暇な時は時間を潰していた。だから、今度、成塚が熱海の会長の所に行きジャンボの事が許されれば良いと思っていた。成塚が熱海の会長の家に手土産として持って行った、人間国宝が制作したというツボを見て会長は言った。

「まるで古いものを見ているようだ。味があってよいものだ」

「気に入って戴き感謝しております。処でジャンボの件は私の監督不行き届きです。会長申し訳ない心からお詫び致します」

一瞬顔を引き締めた会長は、直ぐに微笑んで成塚に応えた。

「もう、済んだ事だからいいよ。それにしてもジャンボの奴、この所調子でも悪いのか。頑張らなくては駄目だ。成塚さん。ジャンボに私がしっかりやる様に言っていたと伝えて下さい」

「有難うございます。会長のその言葉を聞いたらジャンボも直ぐに、優勝をするでしょう」

「俺は、ジャンボファンだからな」

ジャンボの件は、これで落ち着いたと思った成塚は胸をなでおろした。

(こんなに、さっぱりしている会長を怒らせてはだめだな…)

東京で起きている経済界のことや何かを話して、二時間ばかりいた成塚は帰ろうとして、信子姐さんに挨拶をしようとし姐さんの部屋に案内された。案内をされて、直ぐに懐へ手を入れて封筒を出した。信姐さんは直に、他人から金が入っている様な封筒は受け取らない。成塚を姐さんの部屋に連れて行った。の山崎秘書が受け取った。

(随分。薄いから百万円位だろう。成塚は何を考えているのだろう。姐さんを舐めているのじゃないか…)

「姐さん。些少ですが台所の足しにしてください」

「悪いですね気を遣わせて」

姐さんが悪いですねと言っても会長の若い者としては、その行為は解るが、百万円程度では姐さんが舐められていると受け止めた。

早速、中谷たちの秘書仲間にこの事を伝えた。中谷は言ったという。

「成塚は髙ちゃんの受け持ちだから、一応この事は伝えた方が好いだろう。成塚の野郎二十二口径でも一発腰のあたり人ぶち込んでやれば解かるだろう」

この様な経緯があり、私に伝えてきた秘書仲間がいた。

「ちょっと、待ってくれ俺が成塚さんに良く話すから」

「皆が成塚の野郎。腰の辺りに、二二口径を一発ぶち込んでおけばよいと言っている」

困った事であると私は考え、その事を伝えた者に言った。

「暫く、待ってくれないか。俺が一応、成塚に話をするから…」

「髙ちゃん。舐められたらこの世界は終わりだ、稲川の凄さを見せてくれ」

「おいっ、おい、荒いだけが、ヤクザではないぞ。俺はやらないからどうしても、二十二口径をブチ込むのなら、あんたの所でやればいいじゃねーか」

この様な名分を立てて他人の協力者を敬遠させて行く者もいた。人間社会も同じなら、ヤクザの世界は尚更、その頻度が高くて荒っぽい。

(弱った事だ。どうしようか。本部長にでも聞いてみようか…)

本部長が経営している麻布のゴルフショップ二階で、私は本部長に相談をした。

「実は、成塚のことで秘書仲間がいろいろ言っているのです。あの野郎。本家に来て姐さんに失礼な事をしたと言って、成塚担当の私に成塚の腰にでも二十二口径をブチ込んだ方が好いと言っているのですが、私は成塚にそのような事は出来ません。如何したら良いのでしょうか」

「馬鹿奴らが、髙田があまり成塚と仲が良いので僻んでいるのだ。気にすることはないが、一番好いのは成塚に一億ばかり作らせて持って行かせれば、僻んでいる者達も何にも云えなくなる」

「そうですか。俺は成塚に少しばかりは、儲けさせて貰いましたが、他人に何とか言われる仕事はしていません。でも成塚のことは庇ってやりたいのです」

「解った。黙って成塚に一億作らせろ。その時は俺が会長に話してやる」

本部長の言葉を聞き私も面倒くさいから、その通りにしようと考えた。然しダイレクトに何処、何所に持って行くから、一億円作れとは私には成塚には言えない。私は足りない頭で散々考えた。その頃、丁度自分が経営している『大孝建設』が産業廃棄物の焼却炉を創ろうとしていて、建設資金の焼却炉の釜の装置が一億円であったので、それを理由にして、成塚から融資をして貰えばそれで好いと考えた。早速、成塚の会社へ行き私は事業計画を話した。その上で一億円の融資を頼み込んだ。

「焼却炉の釜が一億円です。どうしても資金が足りないので誠に烏滸がましいと思いますが、一億円貸してください」

成塚は二つ返事で、資金を貸してくれることを約束してくれた。処が元、共に上杉佐一郞の秘書をしていた、当時のヤクザに相談をした。この男は現在住吉会を破門されて岐阜刑務所に収容されている。

「稲川会の髙田に一億も貸すなら、俺に預けておいた方が好いだろう。髙田が返す訳がない」

と言ったとの事で私に貸すことに成っていた一億円は、貸さない事にしたという。その様な舞台裏があるとは思わず、私はこれで成塚も誰にも何を言われることが無くなると考えて喜んでいた。然し、話しが大きくてもヤクザの話は現金を見るまでは信用できないのが現実である。

私は約束の日に成塚の会社に、一億円を受けとりに行き断られてしまった。

「髙田さん。お金を貸すと約束をしておきながら、急に裏を返すようで誠に申し訳ない。実はあることがありまして…」

私は常にスーツの胸ポケットに入れてあるコルト二四口径の消音拳銃を出して成塚の胸に突き出した。

「言い訳はいらねーぜ。何か言い残し事があるのなら言って好いぜ」

私がコルトの護身用の消音拳銃を急に出したので、成塚も両手を上にあげて寂しそうな顔をした。

「それを出されては話に成りません。話しは最後まで聞いて下さい」

訳の解らない言い訳を続けていたのだから、成塚も恐怖心が湧いてきて話の脈絡が通じなくなっていた。これ以上、話しを聞いても仕方がないと考えて、この野郎と今後付き合いを止めればそれで良いだろうと思った。だが、この件はこれだけでは済まなかった。