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心広く体躯豊なり

この日の夕方ニューヨークのマフィアのボスであるジョージ・ダワチーノは中年の女性を伴って『アトランティス・パラダイス・アイランド』に来た。ゴットファザーの映画で見るような、洗練された服装はしていない。何所か田舎の叔父さんと言うイメージがした。 余りにも身なりが前に有った時と違ってしまっているので会長が聞いた。

「ジョージ、何かあったのか?」

通訳を通してジョージは喋り出した。

「実は、FBIに電話を盗聴されていて、俺が配下にカジノの上がりを三十パーセント持って来いと言っただけで逮捕された。現在は裁判中なのだが、アメリカは俺たちマフィアを逮捕すると全財産を没収する。稲川あんたがここへ来たのに何も持て成す事が出来ない。男として恥ずかしい」

頷きながらジョージの話を聞いていた会長は悲しそうな顔をした。

「落ちぶれて袖に涙が掛る時、人の情けの奥ぞこそ知るか…相馬、ジョージに三千万円ほど呉れてやれ」

相馬は慌てて現金が何憶も入っているバックを空けた。三千万円を別な小さなバックに入れるとジョージに渡した。ジョージは驚いたような顔をして英語で何かしゃべり会長に抱き着いた。

Thank you. I do not forget this favorthroughout the life」(ありがとう。私は、人生を通じてこの支持を忘れません)

素早く通訳が訳して会長に伝えた。

会長はニコニコしながら恥ずかしそうに言った。

「大げさな事を言われたら、こっちが照れるぜ」

とにかく、稲川会三代目・稲川裕絋会長は桁外れに大きい人物である。人物も大きければ体も大きい。そして何よりも人を思う心を持っていた。ジョージのワイフは涙ぐんでいた。ディナーはジョージ夫妻を連れて、私達と共に世界のセレブがメンバーである。『オーシャンズクラブ』に行き最高級料理を会長は振る舞ってくれた。

私は『オーシャンズクラブ』は映画007でジエムスボンドが、アストンマーチンで乗り付けたシーンが、鮮明に脳裏に焼きついていて、映画の中の人物に自分が成ったような気持ちに陥った。

ジョージはニューヨークに帰ったら直ぐに、ジョージのアンダーボスをしているチャリーをボディーガードに寄こすと約束をして帰って行った。自分たちのホテルに戻ると直ぐに、解散をして自由行動と成った。私は当然カジノに行こうと思った。

「本部長、カジノへは行くのでしょう」

「当然だ。だがお前とは行かない。ガラが悪いと中谷たちが言っていた。カジノはヨーロッパでは貴族やセレブの遊びなのだ。知っていないのだろう」

(本部長、私は知っていますよ。でもね、ここはリゾート地だからラフな格好をして気楽に楽しむところですよ…)

「ジャケットかスーツを着て行くのなら、連れて行くぞ」

「それではベルサーチの麻のジャケットでも着て行きますよ」

「おっ、気取ったな」

こうして、日本でも博奕を打たせたら、途轍もない張り方をする稲川会の岸本卓也本部長とその夜はカジノに行くことになった。バカラは日本の「おいちょカブ」と同じで九の数を最高とする。

従って、日本人には馴染易い博奕である。カジノにはバカラのテーブルが何台もあり、賭け金即ち、マックスが高いものと低いもの中位のものがある。マックスとは掛け金の賭け額の最高を示し解かりやすく言えばこのテーブルは百万円が最高でそれ以上は張れません。こっちのテーブルは五百万円まで、あっちのテーブルは幾ら賭けて来ても好いですよ。と言うものであり、岸本本部長は幾ら賭けてもカジノ側で受けますよと言うテーブルに着いた。

そして、バックの中から一千万円を取り出すとディラーに押しやり、へィ、チップと言い現金をチップに換えさせた。私も五百万円を同じようにしてチップに換えさせた。

元来、日本の博徒は友人同士や兄弟分が博奕で張った向う(反対)を張るものでは無いとされている。岸本本部長は自分なりの博奕に対しての張筋を心得ている。私も自分の張筋を心得ている。同じテーブルで岸本本部長の向こうを張る訳には行かない私は本部長の張る方へ張っていて見る間に五百万円分のチップが無くなってしまった。既に、本部長は一千万円のチップが残り百万円ほどに成っていた。

(本部長も相当熱くなっている。この辺で手を止めないと幾ら走る(負ける)が解らない…)

私は席を立ち本部長に言った。

「俺はもう持ち銭全部取られてしまいましたから、この編で手を止めます。その辺を良く見てきます」

私達のバカラのテーブルの周りには、大勢のカジノにいるお客が取り巻いていた。

こんな質問をして来る者もいた。

Are you a Chinese?」(あなたは中國人ですか)

私は答えた。

We are Japanese yakuzas.」(俺たちは日本のヤクザだ)

おおっ、と驚きの声が上がった。桁外れな金を賭けていたのは日本のヤクザであると解かったからであろう。ざわめきが起こったので面白いからさらに、私はスーツの腕をまくりからかう様に言った。

As for the Japanese yakuza, gambling is amain profession.」(日本のヤクザはギャンブルが本業である)

廻りで私達を取り囲んでいたお客は、腕の刺青を見たのと私の言葉に更に、驚いた様である。

「高田、お前英語ができるのか」

本部長はバカラの台から眼を放し、私を振り向きながら、珍しいものでも見るような顔をした。

「本部長適当ですよ。単語を並べているだけですから…」

「でもよう。話が通じるだけいいではないか」

「それよりこの辺で手を止めた方が、良いのではありませんか」

本部長は整った顔の眼をヤクザ同士の喧嘩の時の様に鋭くした。

「ここで辞めたら男じゃない。日本のヤクザが舐められる」

これ以上、言っても止める人でない事は、賭けゴルフをしていてよくわかっているから、私はバカラのテーブルから離れて、この広いカジノ内を見て回って歩いた。すると、ホテルの受付カウンターの近くにスロットマシンが、日本のパチンコ屋の台のように並んでいた。私はスロットマシンをやった事がないので、興味を持ちパンツのポケットに手を入れたら十万円あったのでスロットマシンのチップに換えた。

三十分もしない内に日本のバケツに似た容器に二杯チップが、満タンに成ってしまったのでこれは相当儲かったと思い。直ぐ近くにあるキャッシャーの者にハウマッチと聞いたらバケツ一杯三万円位だというのでがっかりした。

(こんなチンタラした物は、遣ってられない…)

換金に行くのも億劫になり誰かに呉れてやろうと思って周りを見渡したら。日本人らしき若い女性が二人歩いてきたので言葉をかけた。

「おうっ、これ呉れるよ。持って行き小使いにしなよ」

二人の女性は日本人の私に話しかけられた事といきなりチップを遣ると言われて驚いた顔をして少し躊躇った。

「何も取って食おうというのではないから、遠慮はするなよ」

二人はお互いの顔を見合わせて、頷き合うとお辞儀をして手を出した。チップが満タンに入っているバケツを受け取ると関西弁で礼を言った。

「おおきに、ありがとうございます」

「グットラック!」

 

 

ドル相場の違い

私がカジノ内を一回りして、本部長が殺気立って張り取をしているバカラのテーブルの所に戻ると本部長は私の顔を見た。

「もう三千万円やられた。髙田金はないか。あったら貸してくれ」

私はその日に五百万円獲られたが、未だ、部屋のセフティーボックスには八百万円持っていた。然し、冷静を欠いた本部長を見て金を持っていない振りをした。

「金は十万単位でしかありません。これではお土産も買えなくなりました」

「そうか何か良い考えはないか」

と聞かれても直ぐには答えは出ない。私は全神経を集中して如何したら、今すぐ、この場で金が出来るかを考えた。中々考えが浮かばず顔を前の方に向けると、キャッシャー室の上にドルの相場がデジタルで示されていた。そうか、これで行こう。俺たちが成田を発った時のドルと円は幾らであったか。現在は幾らであるか? 変動相場だから必ず差額が出てくるだろうと考えた。

「本部長、少しばかり待って下さい。幾らかはなると思いますから」

「何を考えているのだか解らないが、金になるというのなら行ってこい」

私は歩きながら差額と言う英語を考えていた。その内、天の啓示ではないが、差額と言うのはバランスである事が脳裏に浮かんだ。其の儘、キャッシャーの窓口に行き自分で組み立てた英語を話した。

Are the Japanese yen and dollar exchangerates different in Japan and the Bahamas?」(日本円とドル為替レートは、日本とバハマで異なるのか?)

私のつたない英語を聞くキャッシャー室の奥から責任者の様な金髪の中年の男が出てきた。私はキャッシャーの受付口にいた女性に言ったことを繰り返した。

Are the Japanese yen and dollar exchangerates different in Japan and the Bahamas?

It did it how.」(それが如何したのだ)

Return the balance of the dollar exchange」(ドル為替の差額を返してくれ)

金髪の中年は来た部屋の隅に戻って行った。どこかに電話をしている様である。

電話を終えて誰かに指示をされたと見えて、微笑を浮かべてチップを三百万円分持ってきた。

Please use this」(どうぞ、これを使ってください)

私は思いがけなく簡単にチップが手に入ったので気分が良かった。

Thank you」(有難う)

チップを手に持って本部長の所に行った。本部長は気持ちよさそうにチップを私から受け取り、とそのままプレイヤーの方に張った。

(何とかプレイヤーが出てくれ…)

私の願いもむなしく本部長が張ったプレイヤーは、バンカーにナチュラルナインが出たので負けた。諦めが付いたのか本部長は、日本にいる時に、他組織と会う時に使う上目遣いでディラー睨み立ち上がった。

並んでカジノの内を歩きながら、本部長は納得がいかない様子で私に聞いた。

「髙田、日本から金を三千万程、送るのには如何すればよいのだ」

通常は為替制限があるので高額の送金は出来ない。

然し『アトランティス・パラダイス・アイランド』は世界に名だたる伝統あるカジノである。日本にいて『アトランティス・パラダイス・アイランド』へカジノを遣りに行きたいと思っても為替制限があり、無制限には現金を国内から持ち出す事が出来ない。

そのような客の為に大きいカジノは、日本の銀行に窓口を設け日本国内で預金させるのである。国外に出る時は預金証明を持っていればそれだけで良く外国のカジノへ行き預金証明を堤出すれば現金に換えて呉れるシステムが出来ているのである。だから、このシステムを使いマネーロンダリングもできるのである。その様な事を知りながら私は本部長に応えた。

「俺にはややこしい事は解りません。通訳にでも聞いて下さい」

「いや、このままでは腹の虫がおさまらない。後、三千万だけ勝負をしてみたい」

「マカオのカジノとも違い。日本のカジノとも雰囲気が違う。如何様をされているのかどうかも見抜けない。このカジノは程々にした方が好いでしょう」

と言う私の忠告を無視し本部長は通訳に話しをして、カジノ経由で五千万円金を日本から送らせた。

翌日。再度バカラに挑戦したが又三千万円を負けた。

これで合計六千万円を負けたことに成る。

諦めがついたのか、ゴルフの賭けでカジノで負け分を取り返そうとして、翌日からの賭けゴルフのレートは高くなった。それでも本部長は、勝つことができなかった。瞬く間に一週間が過ぎ南国の楽園バハマを去ることに成った。イミグレーション無しで、ホテルのリンカ―ンコンチィネンタル・リムジンは、チャーター機に横ずけになり、会長始め私達は機内の人に成った。

ジェット機は低空飛行をしたので、サボテンだらけのメキシコの山々の地肌が赤いのが私達には良く見えた。

(バハマよ。グットバイ!)