005





















針川逮捕

愛警部は、その美しい顔を山中の方へ向けた。

「班長。もう好いでしょう」

「了解いたしました」

十組以上の男女が、まぐわっている中を山中班長と吉野は、何の違和感もなく、すーっと針川の近くに近ずいて行った。

交合中の男女は夢中で、誰も二人の存在を感じてはいないようだ。それは針川にしてもであり、髪の長い女性と背後から、まぐわっていて吉野が手を持って手錠をかけるまで気が付かなかった。

吉野は小声で針川の耳元で言った。

「銃砲刀剣類不法所持及び発射罪で逮捕する」

気が付いた針川は、頷くと己の一物をぬめらせ勃起させたままで頷いた。髪の長い女性は急に、針川の一物が抜かれたので恍惚感を感じたままの顔で、後ろを振り返った。

素早く、針川を般若窟の外に出し改めて山中班長が告げた。

「いい気持ちの所悪いが、警察まで来て貰うぞ。針川!」

何人と交合をしたのだろうか、覚醒剤をどれ位打ち何時間位やっていたのだろうか、爛々と光る眼をして、未だ、夢から覚めないような顔をした針川を見ていると吉野はぶん殴ってやりたかった。

愛警部も真言立川流の記録は、読んで頭の中で理解してはいたが、事実を真に当たりにして、これほどまで徹低して、行うのかと感心しない訳には行かなかった。

(諸経では、愛着は五欲の中に入り、人間を迷わす原因の一つであると説いているが、それを肯定する立川流とは、物凄い宗教だこと・・・)

針川を車の後部座席の中央に乗せ吉野が横に乗り、山中が運転をして、愛警部が助手席に乗りながら、車は一筋に秩父署に向い怒りを表現している様な、紅葉で紅に染まる両神の山々を後に、細い山道を走って行った。

勤務時間が、疾うに過ぎていたが、針川の取り調べは、最小限度しなければ成らない。

逮捕事実の確認と弁解録調書を取り、秩父署を出た時は、済んだ秋の夜空に星々が寂しそうに、精一杯煌めいていた。

翌日、午前中から、針川の取り調べは白澤が担当した。針川は覚醒剤が効いていたらしく、一晩中眠っていなかったと言って調べ室の椅子に座った。

「容疑は解かっているな。銃砲刀剣類不法所持と発射罪だ。これから私が聞く事に対して、正直に話して貰いたい。但し、自分に不利と思えば質問に答えなくても良い」

「今更、しらばっくれても、仕様がねーよ。自分でやった事は認めるから、早番に調書を書いてくれよ。俺は眠くてどうしょうもねーのさ」

覚醒剤を使用して、何人もの女性と飽くことなき交合を繰り返していた針川は、覚醒剤が切れて来るとリバンドで疲労感が、全身を包み唯、只管に眠りたいのである。

だから、白澤が調書を聞き取り書くのが、面倒で仕方がない。

「解った。状況は全部解かっているから、君は僕が聞いたことに対し返事をしてくれれば良い」

こうして一時間少しで、針川に対する銃砲刀剣類不法所持及び発射罪に対する取り調べは終わった。

「この事件は、これで終わるが、後は覚醒剤事犯がある。その他、何かあったかな?」

半分眠りかけたような眼をしながら、針川は白澤が思っても居なかった事を口にした。

「女は殺したわけじゃねーから、事件には成らねーだろう」

白澤は事件を知っている振りをして、針川に質問をした。

「針川、君が殺したのではない事は良く解るが、警察としてもその点を把握しておかないと後で不味いから、女の事を明日でも詳しく話してくれないか」

「好いよ。真来の事だろう。俺には関係がねーから、何でも話してやるぞ」

針川を留置場に戻して、白澤は愛警部のデスクの前に行き、本件の調書作成が終わった事を報告した後で、針川が話した女性の変死体の件を針川が明日話すと言った事も報告した。

「針川が女は殺したわけじゃねーから、事件には成らねーと言っています。詳細については私が、明日良く聞き調書を取ります」

(やっぱり、今回の事件は関係が有った様ね、きっと般若窟で交合の遣り過ぎで心臓が止まったということでしょう。然し、死体を二九九号線に捨てたものは死体遺棄に成るわ。果たして、死体を捨てたのは誰なのかしら・・・)

まる一日中留置場で、眠っていた様に、翌日の針川はすっきりした顔をしていた。

「眠れたか?覚醒剤など遣ると体が、ぼろぼろに成ってしまうぞ。今度の懲役は長くなると思うので良い機会だから、懲役の中で覚醒剤を止める意志を固める事だ」

「処で、俺の刑務所行きは、何年位になると考えているのかねー、まあっ、思い残す事はねーから、何年でもいいけどよー」

「十年以下で済むだろう。十年なんか直ぐに来てしまうさ」

十年と聞いて針川は驚いた。まさか拳銃で人を撃った訳でも無く岩川一家の事務所のドアをぶち抜いただけなのに、それはねーと思った。

「ハジキをぶっ放すのは、そんなに刑が高いのかよー、参ったなー」

「もう遣ってしまった事だ、男がやってしまった事を後悔しない方が、良いのではないか」

「そうだな。後は、シャブの件だけだし、シャブなんか刑が安いから、如何ってことはねーよ」

「どっちにしても、併合罪に成ると思うから、覚醒剤の事は調べませんから、承知をしていて下さい」

「まじかよ。白澤さんあんたは話が分かるサツだな」

「それから、針川には、関係がないと思うが、針川真来の死んでいた事について教えてくれないか」

「真来は、俺の従姉妹でもあり、一次はお互いに、立川流の儀式の時に体が合う間柄だった。でも真来は、女のくせにタフだから、遣り過ぎて心臓が止まってしまったのさ」

「誰と遣っていた時かな?」

「俺もシャブを喰らって夢中で、誰お構いなしでやっていたから、真来が誰と遣って心臓が止まったか解からねーよ。唯、真来の父親の喜三が背中に背負って般若窟から出て行ったと後から聞いた」

「そうですか。殺しではないのですね」

「殺しではねーよ。いわば極楽死とでも言えば良いのかな?」

「もう一度聞きます。真来を背負って般若窟から出て行ったのは、真来の父親の針川喜三ですか」

「俺はやるのに夢中で、実際に喜三が、真来を背負ったのを見ていねーが、後で皆が言っていたのだから、本当に事じゃねーか」

取り敢えず、針川を留置場に返し白澤は愛警部に報告をした。白澤の話を聞いていた愛警部は、仕方がないような顔をした。

「班長。針川喜三に対する「死体遺棄」で裁判所から、逮捕状を交付して貰いなさい」

「承知いたしました。直ぐに、針川の供述書を付け裁判所に、逮捕状を請求いたします」

「班長、この事件は深追いすれば、もっと広がりを見せる事件だわよね。でも、如何でしょうか。娯楽も何もない山の中で、村人達が真剣に佛の教えと思ってやっている事に対しこれ以上、容喙しない事が武士の情けでしょうか?」

「警部、時には鬼に成る事も、警察官は如何に必要であるかと思いますが、反面、佛に成らなくてはいけない時もあると思います。ヤクザ同士の発砲事件から、女性の死体発見そして、真言立川流事件と思わぬ所まで展開してしまいました。本来の事件の犯人は、逮捕できたのですから、これで好しとしましょう」

「でも、班長わたしも独身だから、般若窟の出来事が、衝撃的で夢か幻の世界に迷い込んだと思いました。然し、勉強には成りました。宗教の恐ろしさも理解できました。宗教は麻薬と言われていますが、将に宗教は麻薬ね」

「処で本題に戻りますが、針川の覚醒剤事犯は、如何しましょうか」

「必ず、銃砲刀剣類不法所持及び発射罪との併合罪に成ります。警部今回は疲れませんでしたか」

「さすが班長。今回は佛に成りましょうか」

山中班長は口髭を歪ませてニヒルな笑いを浮かべた。

 

組織犯罪対策課警部「鷹司愛」VOL Ⅵ 真言立川流殺人      終わり

平成二五年十月十九日                 

       六 天   舜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わりに

鷹司愛シリーズもVOLⅥ迄書きました。今でも日本の何処かで真言立川流が信仰されていると情報を得て、これを鷹司愛警部シリーズで紹介したら、面白い物が出来上がると思い書いてみました。僕は現在、癌が胃と食道・肝臓に出来ているらしく来月下旬頃、入院して手術をする予定です。入院する前に書き上げておこうと思った作品ですが、パワー落ちていて力量不足を補う事ができませんでした。然し、パワー不足ながら、精一杯書きましたので皆さんには心から、楽しんでくれますことをお祈りいたします。