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ウルフドック

【埼玉県愛犬家殺人事件の真相】

髙 田 耀 山

元自衛官

山崎は金を無心する為に、アフリカケンネルの関根のところに電話を掛けたが、関根は直ぐに出なかった。女房の博子は山崎と情を通じたことがあるので全くの他人ではない。山崎から五度目の電話があった時、夫婦で犬舎に行っていたのである。博子が山崎から、かかってきていた電話の受話器を関根に差し出した。

「あんた、山崎さんから電話よ。出てやれば」

受話器を受け取り、関根が耳に当てると聞き覚えがある暗い声が、聞こえてきた。

「社長、警察の動きが活発になってきました。昨日女房の愛子が、パクラレタので川越署に行ってきましたが、捜査員が皆、自分を観察しているように感じられました。今日の用事は愛子を出してやりたいのですので、社長に残りの金を貰いたいのです」

関根は山崎との話は盗聴されていると判断しているから、山崎が残りの金と言ったのを殺人幇助の報酬にとられるのが拙いと考えた。

「山崎、オメーが持ってきたブルドックは、もう盛りをとっくに過ぎた廃犬だ。残りの金など払えない。寧ろ、手付けでやった百万俺に至急返してくれ」

関根から金を引き出そうとばかり考えている山崎には、関根が電話で言った事が理解できない。

(社長は何を狂ったような事を行っているのだ・・・)

「兎に角、愛子が詐欺で逮捕され金が必要なのです。社長二百万円程、私に貸してください」

関根は遠藤を山崎と殺して死体をばらばらにし、ポッポハウスの庭のドラム缶の中で焼却した後、灰や骨片を近所の山林へ投棄した分の報酬を全額山崎には払ってなかったが、マスコミが騒ぎ、警察の捜査がひしひしと自分に迫ってきている事を動物的嗅覚で感づいている。だから、今更、金の事を言う山崎は可笑しいと思った。金の事よりも事件のことで逮捕された時の打ち合わせや、残っていると思われる証拠の隠滅が第一であると考えているのである。

暗い山崎の声を聞くと関根まで暗くなってしまうと思い新井の家に電話をするように話した。

 

新井良治は静岡県伊東市で生まれた。市内の高校を卒業すると静岡にある自衛隊の駐屯地で自衛官として、富士山の裾野で毎日訓練に明け暮れた。自衛隊に入隊すると強制的に皆、運転免許を取得させられる。希望があれば重機の免許も取る事が可能である。

三年ばかり自衛官として生活をしていたが、この儘、一生自衛官で過ごす心算は全くなかった。

伊東市に帰り暫くは、運転手や建設関係の会社の従業員として働いていたが、性格が飽きっぽく何処も長続きはしなかった。

新井は関根が秩父市で、松葉会多摩川一家の野原(当事五十一歳)とトラック運転手(二十八歳)二人の殺しをやり(別々の殺し)秩父署は捜査を始めたが、如何せん第一の証拠である死体が、何処を探しても見つからず捜査を担当した警備補の班長は、泣く泣く定年を迎えた。新井はこの頃、秩父市に来て運転手をしていた。

関根との始めての出会いは給料日に、新井が市内のスナック『エリザ』に飲みに行き北島三郎の『兄弟仁義』をカラオケで歌っている時に、関根がやくざのような格好をし、店内に入ってきた。席に着き新井が歌っている『兄弟仁義』を聞き感心したように褒めた。

「良いねー兄弟仁義は、又、歌っている人の声が、俺の侠気を刺激するぜ。兄さんこっちへ来て一諸に飲まねぇーかい」

やくざのような風体をした関根を見て新井は、一瞬で知己のような気がした。歌を歌い終わり関根の席に行き新井は、やくざの真似をして、仁義を切った。

「お控えなすって、お控えなすって、お控えなすって、手前生国は伊豆の伊東でござんす。渡世縁ある親分や兄弟分はおりません一本独鈷のしがねー野郎です。姓は新井・名は良治と申します。お兄さんには、初の御所見ではございますが、今日後、万端宜しくお願い仕ります」

やくざではないが、やくざカブレをしている関根は、五十歳に手が届くのに、新井の切った仁義に応えた。実際は仁義を切るのは始めてである。最もこの時代私達やくざでさえ、大時代的な仁義は切らず名刺一枚で済ませていた。

「ご丁寧なる仁義ありがとうござんす。手前生国は、ご当地秩父でござんす。姓は関根・名は元と申す親分子分無しの駆け出しのしがねー野郎でござんす。ここで兄さんとお会いしたのも、前世からの縁ではないかと思いおります。生計(たつき)は口をしのぐ為に、ペットショップ『アフリカケンネル』を経営しております故、手前同様宜しくご指導賜れば幸いに存じます」

半世紀もやくざをやっていた私から見れば、まるで『漫画』を見ている様な錯覚をしてしまう光景である。

 こうして関根と新井は出会い。人殺しを通じて、気っても、切れない縁を結んだのである。

二人が五分の兄弟分となるには、時間がかからなかった。

新井が関根と兄弟付き合いをしていると知ると、運転手仲間は注意をした。

「関根は人殺しだ。気を付けた方が良いよ」

「ありがとう。せいぜい気を付けるさ」

新井は将来、金を腐るほど持って好きな猛獣を飼いスーパーカーを乗りまわしたい。その為には何でもするという欲望ある。その点は、関根と相通じるものがある。

ある日、新井は関根に聞いた。

「兄弟。秩父で兄弟は、二人殺していると聞くが本当のことかい」

いきなり新井が殺しの事を聞いてきたので、たまゆら躊躇したが、本音を新井に関根は言った。

「兄弟、俺は大きな金を掴みたい。そして、秩父で俺の事を人殺しと言って変な眼で観た奴らを見返してやりたい。大きい金を掴むのに、邪魔をする野郎は殺してしまうことにしている。兄弟、秩父の二件の殺しも俺がやった。だが死体が無いから、事件は成立しない。今後、兄弟が金儲けをするのに、邪魔だと思った野郎がいたら遠慮なく行ってくれ。俺が始末をするから」

「ありがとうよ。兄弟、俺は日本一の兄弟分を持ったと今感じたぜ」

「それよりブリーダーとしての俺の才能は、この秩父に眠らせて置くのは勿体無いと思わないか」

「如何いう事だよ。兄弟」

何れ熊谷か深谷に出て行くそして、世間が吃驚するような事をして、大もうけをするぜ」

「わかった兄弟、俺も深谷に出て行く心算でいる」

「何れ、チャンスはやってくる。それまでは雌伏の時だ」

関根は漫画の三国志を見て、劉備元徳が諸葛孔明に出会う前の事を漫画本に『雌伏』をしていると書いてあったので早速使ってみた。

その後、暫くして新井は、由紀子と言う女性と知り合い、この女性が深谷市でスナック『ユキ』を経営していたので、気が強い女性であるが、我慢して髪結いの亭主ではないが、由紀子の稼ぎで食べヒモのような生活をしていた。

由紀子は店から帰ると店で会ったことや、お客が話した事を新井に、話しをした。

「貴方、犬が好きだといったわね。処が、あんたなんかより、犬が好きで、好きで、毎晩犬と布団に寝ている女が、熊谷にいるとお客さんが言っていたわ。人間の男ならともかく、犬とは一諸に、私は布団で寝られないわ」

「それは犬気違いだな。その犬気違いは、熊谷の何処のどなたさんだ」

「そんな事わたしに、判る訳ないわ。でもあんたが、興味あるなら今度お客さんに、何処の誰だか良く聞いておくわ」

「そうしてくれないか、由紀子」

「一体何を貴方は考えているの」

「秩父の兄弟がペット屋をしているのを知っているだろう。犬好きなら、お客として、兄弟に紹介してやれば良いだろう」

「わたし貴方の兄弟分だから言いたくはないですが、関根さんて、何処か気持ちが悪いものを感じさせるの」

尤も、新井が由紀子を殴り殺し、途方にくれている時に、飛んできてくれ、由紀子の死体を解体し、証拠が残らないように、骨と肉片を押切橋から、廃棄し新井を殺人罪から救うことになろうとは、新井はおろか由紀子も判らない事であるが、由紀子は、関根が発する異様なオーラを感じ取っていたのに違いがない。

数日して店から、少し酔って家に帰って来た由紀子は、犬好きな熊谷の女性の事を言った。

「貴方。先日の熊谷の犬気違い女は、熊谷市で一・二を争う風間不動産屋のお嬢さんだって、器量は余り良くないが、犬好き位だから優しい性格だとお客さんが言っていましたよ」

「そうかい。風間不動産のお嬢さんだって、それは良い」

新井は、風間不動産のお嬢さんを関根に、紹介をすれば、口が上手い関根がモノにすると考えた。

翌日新井は関根に電話を掛けた。

「兄弟、良い話があるから、今夜、内の店に来てくれないか」

「良い話とは良い話だ。あっはっはっは・・・」

自分で親父ギャグを口にして、関根は大笑いをした。

その日の晩、新井と関根は由紀子の経営する店にいた。二人の前には酎杯が入ったグラスが置かれ摘みにエイ鰭が、ガラスの皿に無造作に置かれていた。

酎杯を一口関根は飲んで切り出した。

「処で、兄弟良い話とはなんだい」

新井は自衛隊で、しっかり訓練されたと見えて姿勢が良い。その姿勢を頭の上から何かに引っ張られている位、上半身を真直ぐ伸ばし、顎を引き口を開いた。

「兄弟、熊谷市に犬好きな女がいる。しかも出戻りで、風間不動産と言う熊谷でも、一・二を争う規模の会社のお嬢様だ。兄弟この先は、これ以上言わなくても判るだろう」

普段でも脂下がった顔をして、気持ち悪く薄笑いを浮かべている関根はぽんと膝を叩いた。

「兄弟、その女をコマして、金にすれば良いのだろう。兄弟はおっかが、いるから、この役割は俺が良いだろう。第一俺は口が上手く人を騙す位、お茶の子さいさいだ」

「本来なら、俺が女房のいるのをしらばっくれて、女と付き合っても良いのだけど、独身の兄弟を見ていると可愛そうでならないから、清水の舞台から降りたような気持ちで兄弟に譲るよ」

「ありがとう。この女できっと成果を上げ、良い思いをさせるからな」

「それは当然だ。約束しておこう。兄弟がこの女と一諸になり、金を引き出したら、全て折半だ。約束したぜ」

「おおっ、いいって事よ。俺と兄弟は、一連托生だからな」

「処で、風間と言う女に、どうして会ったら良いのだろうか」

「犬好きな女は、必ずドックショーに出てきて、ハンドラーをする。それを写真に撮られて雑誌に載ったのを見て満足をしている。所謂、自己顕示欲が強いのだ。そこの所を責めれば一発だ」

こうして、風間博子は、二人の人非人のターゲットにされたのである。

春の荒川は風が優しい。優しい風を全身に受けて雑誌『犬』主宰のドックショーが開催されていた。

風間博子は愛犬の柴犬を誇らしそうに、荒川の河川敷に設けられたドックショウーの会場内をハンドラーとして歩いている。

「可愛いわねーあの犬」

「犬は可愛いが、ハンドラーがちょっとね」

「馬鹿だなーハンドラーが、ブスだから犬の可愛さが引き立つのさ」

観客の者の声が風に乗り、博子のほうへ聞こえて来た。ブスだという事は散々別れた亭主に、言われたことだから、気にも留めなかった。自分がブスといわれても、柴犬『賢』が可愛いとか言われた方は気分が良い。

小型日本犬の部門では『賢』は、優秀賞は取れず第三位になった。博子としては自分の犬である『賢』程、姿形が良く歯並びも正確で、尾の巻き具合も言う所なしと自負していたが、ドックショーなどと言うものは、主催者の関係者の成績が良いのが当たり前で、主催者は全員ペットショップを経営していて、繁殖者(ブリーダー)をやっている者である。

なぜなら、ドックショーで賞を取ることにより、犬に箔が着くのである。箔が着けばその血筋の犬は高く売れる。

ペットショーの裏の隠されている現実を知らない博子は『賢』を引きながら項垂れ、会場の駐車場の小型トラックに積んである『賢』の小屋に向かっていた。 おりしも荒川の川風が一瞬強く吹き博子の髪が、乱れて前が見えなくなった。同時に『賢』の首輪に取り付けてあるリードを手離した。『賢』は近くにいた同種である柴犬の所に飛んでいった。

『賢・賢・賢』

(困ったわ。どうしたら良いの・・・)

「はい。私が「ケン」ですが、何か御用ですか」

博子の眼に前に、坊主頭のニコニコ笑った一見、泉谷しげるに似た男がいた。

関根元である。熊谷の荒川の河川敷で、ドックショーがあると聞き必ず、ターゲットの風間博子が、来ると考え会場をうろつき、博子を探していたところ、先程、小型犬の部門でハンドラーをしていた博子を見つけたのである。関根が博子と話をするきっかけを探していた処、荒川の風が強く吹き話しのチャンスを、関根に与えたのである。

関根は、一言博子に話しかけ『賢』が、傍の柴犬の処でじゃれている場所に行き腰を下ろし、犬と同じ目線に成り、手には餌のような物を持って『賢』を呼んだ『賢』は、尻尾を振りながら、直ぐに関根の手許に来た。『賢』の顔を両手で撫ぜながら、自然の形で首輪を掴んでいた。

「お嬢さん『賢』は『元』が、捕まえましたから安心してください」

「ありがとう。本当のこの子は我侭なのだから・・・」

「犬は我侭の位のほうが、本当の犬の姿が出て良いのですよ」

博子はこの時点に成り『賢』を捕まえてくれた関根に興味を覚えた。

「元さん。貴方は何をしている人ですか。差しさわりが無いのなら教えてください」

「僕は最近までアフリカに、野生動物研究員として、国から派遣されていた者です。ですから動物のことでは、大概の事は判ります。何か聞きたい事でもありますか」

「ここでは、川風など吹いて落ち着いてお話ができませんから、宜しかったらわたくしの家へ来て、犬のことなど色々と教えていただきたいのです」

関根は随分話が上手く言ったと思った。

(家に来てくれだとよー、嬉しいじゃねぇーかい。新井さん・・・)

博子は熊谷市の桜土手の下の方に家があり、家の中には、数匹の柴犬や小型犬がいて、関根が家に入ると甘えるように吼え始めた。

「そうか。そうか。寂しかったのだな。もう大丈夫。前世は犬だった、この元ちゃんが来たからには、寂しい思いをさせないから、おおっ、良い子だ。良い子だ」

人を何人も殺した関根は、何があっても人間として、屑以下の男であるが、犬をあつかわせたら、当事から右に出る者はいなかった。天性の犬使いであると思わずにはいられない。

この後、何度か関根が、博子の家に遊びに行っている内に、自然の形で男と女の関係が出来た。関根は秩父の家を引き払い博子の家に移った。

そして、博子に資金を出させ八木橋デパートの前に、ペットショップ『アフリカケンネル』を出店した。

だが、ペットショップ一軒くらい経営しても、新井との約束は履行できない。

「兄弟。博子をモノにして、店を持ったが、店の売り上げ位では兄弟に、配当する事が出来ない。悪いなー」

「良いって事よ。それより、犬の雑誌を見ていたら狼のような体つきで眼が」青い犬が外国にはいるのじゃねぇーか。それを仕入れて繁殖すれば、大もうけが出来るぜ。兄弟」

「俺だってそんな事は考えた。だがマトモニ青い目の犬を仕入れたら、莫大な金がかかる」

新井が、にやっと笑った。何か名案が浮かんだようである。

「兄弟何日か時間をくれよ。俺が犬を外国から持ってくるルートを考えるから」

「兄弟は自衛隊にいた位だから、頭がいいからなー」

新井の頭の中は、自衛隊にいる時に、米軍との合同演習で知り合いになった米兵の事が浮かんだ。

(確か、連絡先は電話帳にメモしてあるはずだ。勤務地は横田基地なのは間違いが無いはずだ・・・)

関根と分かれて、家に帰った新井は電話帳を捲った。

(在った。名前はダスティ・ラックマンか、面白い名前だ・・・)

新井がラックマンの所へ電話を掛けるとラックマンは、現在アメリカ空軍のパイロットをやり、F14戦闘機に乗り世界中を飛び回っていると言った。

新井がラックマンに、青い目の『シベリアン・ハスキー』が欲しいから何とかなら無いかと言ったら、オッケー大丈夫だ。というので、ギャラは必ず払うからといったら、ラックマンはサンキューといって、新井の電話を聞き『シベリアン・ハスキー』を運んできたら、連絡をすると言って電話を切った。

新井は、鬼の首を取った様な気がした。

関根に喜んで貰い為に、直ぐに電話を掛けた。

「兄弟『シベリアン・ハスキー』は近々手に入るぞ。これを繁殖させれば、大もうけが出来る。直ぐに、繁殖のための犬舎を作ってくれ」

「判ったよ、博子にも、もしかしたら『シベリアン・ハスキー』が手に入るといったら大喜びをしていた。犬舎を作るための資金は、直ぐに出してくれるだろう」

こうして、熊谷市万吉に『アフリカケンネル犬舎』を作ったのである。

シベリアン・ハスキーの四匹の雌雄が来てからは、直ぐに繁殖させた。シベリアン・ハスキーは、多産で一回に十匹くらい生むのである。雑誌に公告を出したら次から次へと注文が来た。

この頃が、関根・新井・博子の犬屋としての全盛期であった。生まれた子犬を販売した利益は約束通り、新井に半分の五十パーセントを支払った。

こうして、シベリアン・ハスキーで、大もうけをしたが、三年ほど経過するとシベリアン・ハスキーも飽きられて、行儀の悪さが目立つようになってきた。

当然、アフリカケンネルの売り上げは落ちた。

シベリアン・ハスキーで儲けた金は、関根と新井で豪遊し、外国の車を買い、指輪・ネックレスなどのダイアが嵌め込んである装飾品にかけ、利益は、少しも留保しておかなかった。

シベリアン・ハスキーが売れなくなると関根・新井・博子の三者は、次に外国から持ってくる犬はどんな種類が良いだろうと相談を始めた。

結果、博子の意見で『アラスカン・マラミュート』にした。

新井は早速、横田基地にいるラックマンに電話を掛けて『アラスカン・マラミュート』を運んでくれる様に依頼した。

博子が見通した通り『アラスカン・マラミュート』は『シベリアン・ハスキー』以上に人気が出て、関根の放漫経営で傾いていた。アフリカケンネルは復活した。

更に、アメリカの航空兵であるラックマンに頼んでアフリカから、ライオンや日本人が見た事が無い珍獣を運ばせ、万吉の犬舎で飼い犬を飼いに来たお客に見せ、欲しいという希望があれば、高額で売っていた。

又、この頃はワシントン条約が成立していなかった時で、アフリカケンネルはその名の通りアフリカの動物で手に入らないものはないと豪語していた。

この頃、高田組の代行である遠藤が、用心棒になった。私は、遠藤を通じてライオンやベンガル虎を購入し、ライオンは元の親分である上州田中一家の大澤孝次総長の姉さんへプレゼントし、ベンガル虎は埼玉県の猛獣を飼うための条例に元づいて十坪の檻を造り、条例の指定した鉄金と網をフンダンに使用したものであった。

関根と新井・博子は有頂天になっていた。

(動物のことで、我々に出来ないことはないと・・・)

毎日、関根と新井は夜の熊谷市や太田市に出かけて行き、ナイトクラブへ出入りをして浴びる程、ミーマルタンを飲み気前良くクラブのホステスにチップをばら撒いた。

博子はダイアや指輪を買うのに飽きたとみえ、到頭ホストクラブ通いをしてホストに金を注ぎ込んだ。

懲りもしないで、再び外国の犬で儲けた金を使い始めた。金は無尽蔵ではない。気が付いた時には、アフリカケンネルを経営する為の金がなくなっていた。

金を生むのは、現在犬舎にいる珍しい犬だけである。

関根は考えた。今家で一番高く売れる犬はどれだろうと暫く、腕組をしていて腕を解いて右手で腿をポンと叩いた。

(ローデシアン・リッチバックが雄雌いる。これならこの辺には絶対居ない犬だから、高い値段で売れる。ブリーダーとして子を獲れば高値で引取ると言う宣伝文句謳えば、引っかかる馬鹿が居るだろう・・・)

幾らにもならない犬を売りながら、チャンスが来るのをじっと待っていた。

飢えた狼が、獲物の来るのを身動きしないでじっと待っているように・・・