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ウルフドック

【埼玉県愛犬家殺人事件の真相】

髙 田 耀 山

ヒットマンは内藤

桐生に内藤安直と言私の直参の組長がいる。凌ぎに覚醒剤を扱い組内でも失敗ばかりしている。只、人間性がよいので処分もされず組にいられる者である。覚醒剤の失敗をした時に、罰として本部事務所」三カ月と木刀10発を私に判決された。毎日の作業は私が勝っていたベンガル虎の子や掃除が一番で10坪もある小屋は真ん中からシャツターが降りるようになっていて小屋を掃除するときは半分のシャッターを下ろして虎をシャッターの閉まっているほうに入れてデッキブラシで床をこすって掃除をするのである。結局、虎を折から逃がす結果になりい、大騒ぎに成り地元の猟友会でライフルにて射殺する結果に成り、知り合いの剥製屋に虎は解体させ皮は敷き革にして、睾丸はその日の内に、上州中一家6代目総長が直ぐに捕りに着させ、あまった肉は内藤を筆頭に後藤経諸・荒木健司達に、私が

「虎でも食う位の男にならなければやくざで男に慣れねーぞ」

といったらユッケにして食べてしまった。私も興味本位で一口食べてみたが、毎日馬の肉を三キロずつ食っていただけに牛肉より硬く感じられたが不味くはなかった。

話しを元に戻そう権坐衛門と関根が帰った後、高田組緊急会議が開かれた。権ザ衛門が来た時に傍にいた高田嘉人がその時の状況を組長連中に説明をした。

事務所の中の隣の部屋には埼玉県警の捜査一課の関口刑事がいる。組長達がいる場所は道場だから絶対に聞こえない。

「こうなったら、早番にケンネルを殺やってしまいましょう。誰か一人長い懲役へ行くことになるが、これは代行の敵討ちであるという大義名分がある立派な懲役だ」

千葉が渋い顔をして金子・石山・石井・達組長の他、幹部である本部長・事務所責任者に言い渡した。

「今まで高田組は殺しをしなかった。それは渡世が執れた事は渡世の筋を通し『武』を持って周囲に知らしめてきたからである。だが、この度はしっかりケジメをつけなければ渡世がやってゆけない。殺す方方は弾きでもウジーでも関根をこの世か抹殺することだ」

ウージー(自動小銃)・小型自動機関銃千葉はこれを持っている事を内心自慢していた)

「東映の成田三喜男に似た顔の額に、皺を寄せ千葉言った」

「ウジーを使えば死刑か無期です。責任者には覚悟をして頂きたい」

金子組長がはっきり言った。

「懲役へ行く奴は仕方が無いが、ケンネルを殺すことは、派手にやらなくてはならない」

「見せつけの意味はあるのですか」

「金子、オメーは読みが良いな。これから実際にケンネルを殺るとなれば、難しい問題が多くある先ず、:毎日張り付いている警察だ。次には煩くて仕様が無いマスコミだ。この二つの眼を掻い潜って、ケンネルを殺る事は至難の業だ」

数日して代貸の千葉が、自宅のリビングにいる私の所に来た。

「親分、ケンネルを殺らせるのは、予定通り桐生の内藤の組と金子組に結局はしました。何度も懲役へ行っているし口が堅い」

「治ったのか。ポン中は、ポンを打って、訳が判らない事を言い出したら拙いぞ」

千葉としては、寧ろ、ポン中の方が関根をやるのに適当であると考えていた。それは、何の為に関根を殺るか理解が出来ない方が良い。内藤は組に対しての忠誠心は強いものがある。関根が代行を殺したといえば、怒りを感じて訳は聞かずに報復に行くやくざである。

「千葉お前の人選なら間違いが無い。只、四・六時中、高田組の動静を監視している県警とマスコミを如何する」

「それが、私の頭痛の種です。マスコミだけなら如何でもなりますが、県警が監視をしている前で関根を拳銃(はじき)で弾いても、至近距離からなら一発で撃ち取れますが、至近距離に近づく前に監視をしている警察に取り抑えられてしまうでしょう」

「千葉、『断じて行えば鬼人も是を避く』と中国の古人も言っている。警察がいようが、マスコミがいようが、関根の命(タマ)は必ず取るという固い意志が大事だろう」

「関根の行動範囲は、熊谷市内のペットショップ『アフリカケンネル』万吉の『犬舎』『自宅』の三ヵ所ですから、移動中に殺ってしまえば簡単です」

「判った。これ以上、口は出さない。後は内藤の健闘を祈るだけだ」

千葉と話しをして、三日経過した。決断をしてから結果が出るのが余りにも遅いので私はやきもきしていた。

リビングで『碧巖録』を読み、首を捻り記されている問答の意味はなんであろうかと考えていた。

「失礼を致します」

ドアの方を見るとそこには荒木健司がいた。荒木は高田組本家の総班長である。事務所責任者をしている高田嘉人と兄弟分で、この二人は私の秘蔵子でもあり、周りからも、将来を嘱望されている若い衆である。

「如何した。何かあったのか」

私は内藤が関根を仕留めたのかと思った。

「県警の関口さんが、至急、どうしても親分に会いたいといってきましたので、自分で判断をして応接間に通しておきました」

(関根の事で、何かの動きがあったのだろう・・・)

直ぐに応接間に入っていった。

そこには私と会うときは、何時も微笑を忘れない関口さんではなく、きりっと口を結んで鋭い眼をした刑事がいた。

「何かありましたかな」

「親分。高田組は今一歩も、動いては成りません。関根に対して報復をするという事は既に、県警の想定している事で、織り込み済みです。だから高田組が関根に対して、報復行動に出た時は、如何するかの行動規準も決まっています。現在、内藤がケンネルの関根の周囲をうろついています。これは報復の機会を狙っているものと警察では断定しています。関根に対する捜査も親分から戴いた録音テープの一部の『でもボディは透明だから』の部分はどれ位、関根の捜査が、暗中模索であった我々に勇気を与えてくれ、やる気を起こさせてくれたか、その捜査も山場を迎えています。この様な時に、内藤が関根を殺ることになれば、親分にヒントを頂き地道に聞き取り、証拠収集を重ねてきた埼玉県警捜査一課『愛犬家殺人事件捜査班』の苦労が水の泡に成ります。結果、アフリカケンネルの関根に向いていた力は、高田組に向けざるを得ません。そこの所、親分よーく理解くださりまして、直ちに、内藤を引き上げさせてください」

私は腕を組み座った儘、唇を噛んで言葉が出なかった。

「親分、この関口、警察官としての立場でなくて、個人的に親分に関根の報復はやめて貰いたいのです。お願いいたします」

関口刑事は深々と頭を下げた。

「良く判ったが、高田組は代行を殺られている。まして、大事な若い者だ。関口さん。例えば貴方が私の立場で代行を関根に殺されている事が判ったら、如何しますか」

今度は関口さんが頭を抱えてしまった。

「親分の気持ちが良く判ります。私だって法の番人である警察官でなければ、一個の人間です。辛さ・悲しさ・悔しさは、人間である限り誰でも、持っているものです。それを我慢してくれと言うのは、親分に取り酷なことです。私及び埼玉県警捜査一課【埼玉県愛犬家殺人事件】を担当している班長始め私たちは、親分に成り代わり必ず関根元を逮捕し、死刑台に上げる事を約束いたします。親分、判って下さい」

この儘、関根を殺す為に、内藤に狙わせておくと想定内のこととして、県警は高田組壊滅に動き出すと思った。

その事がはっきりいえない関口刑事も、大変であるが、自分の可愛い若い者が殺されて、殺した相手を黙って見ていることも悔しい。

関口刑事の言いたい事は、全部理解できたので私は応えた。

「一応関口さんの言う通り、内藤は引き上げさせましょう。その上で関根に対して如何するか千葉を始め幹部達に諮って、決めたいと思います」

「理解をして頂きありがとうございます。親分、耐えがたきを耐え忍び難きを忍ぶ。これが男の道ではないでしょうか」

「関口さんに、男の道を説かれるとは思いも因りませんでした。貴方は本を大分読んでいるのでしょう」

「そんな事はありませんよ。親分」

この様な話しをして関口刑事は帰っていった。

その日の内に、代貸の千葉・本部長の松本・事務所責任者の高田始め各組長を事務所に呼んだ。

高田組幹部が勢ぞろいした道場で、私は関口さんが来て話しをした内容を全員に告げた。

「それじゃー、ケンネルを殺る事はできないのですか。ここ儘では、代行が成仏できません。一体如何しろというのですか県警は」

四十歳そこそこで、脳天が禿げている金子組長が、勢い付いて口を開いた。興奮しやすいタイプである。

千葉がギロリと金子に眼を向け応えた。

「代行が関根に殺られ悔しくない組員は一人もいない。寧ろ、報復の機会を今か今かと待っている者ばかりだろう。だが、ケンネルの事件は、第一に警察が関根の家や店はおろか行く先々まで尾行をして、関根が尻尾を出すのを窺がっている。第二にはあの煩いテレビ局や新聞社が警察官より、表面に出て正義面をして報道合戦をしている。マスコミは高田組が関根に報復をすれば、書きたい事を書くし、報道をする。だが、警察は態々、関口さんを親分の家によこして、どうして、内藤を引き上げさせなければ、ならないかを、話してくれたじゃねーか」

普段、寡黙で通っている本部長の松本が、重い口を開いた。

「ここは、警察がそこまで内情を明けてくれ関根を殺ることに待ったをかけたのは、普通のことじゃねぇーぞ。所謂、捜査中の事を外部に伝える事は警察法で違法とされているだろう。違法を覚悟して知らせてくれたことだ。今。焦って関根を殺さなくても、何れ関根は東京拘置所に行く、偽名で面会に行き弾いても良いし、うちの者で東京拘置所に入っている者に命令したって良いじゃーねぇーかよ」

普段、寡黙である松本の話は説得力があった。その後に意見を言う者は一人もいなかった。

代貸の千葉も得心したようである。

「意見がなければ、今日はこれで終わりにする」

こうして、関根の命を狙いに出した内藤を引き上げさせた。

だが、高田組の関根に対する調査は続いた。

 遠藤が関根に殺されたのが判り、報復する事も出来ない内に、一年が経過した。

この儘では遠藤が浮かばれないと考えた私は、遠藤の葬儀をして、この事件に対して一つのケジメをつけようとした。

光陰矢の如しという言葉があるが、夢中に成り遠藤の行方の探索と殺人者に対しての報復を如何にするか、あの手この手を考えて実行してきたが、アフリカケンネルの関根にヒットマン内藤を送り出したが、警察から中止するような意向が伝えられ関根に報復する事は出来ないことになり、高田組幹部会で現状では関根を殺る事は無理であると結論付けヒットマンの内藤を引き上げさせた。

だが、現実は陰で、虎視眈々と関根に報復する機会を狙っていた。

遠藤の葬儀を執り行うことにより、埼玉県警愛犬家殺人事件捜査班は、安心をした。

葬儀には北関東の錚々たる親分衆と稲川会の私の会長秘書の同僚や本部長の岸本卓也氏が、故人の遠藤の威徳を偲んでくれ、懇ろな御焼香をしてくれた。

本葬儀の役員は現在稲川会二代目高田一家高田嘉人総長が務め私は、施主をした。

遠藤が関根に殺されたのを出席者全員が知っていて、会う親分衆がそれぞれ口にした。

「遠藤の敵を取りたいと思っているだろうが、相手を警察がガードしていたのではどうしょうも無い。辛いだろうが組長我慢をして下さいよ」

やくざの総長や親分と呼ばれる人は皆、人の心の痛みが判る。

本当にあの頃は、声をかけてくれた人、葬儀に参加してくれた人、皆さんに心からお礼が述べたい。

私は埼玉互助会の祭壇に祀られた遠藤の遺影に向かって呟いた。

「遠藤、ご苦労さん。関根の命(タマ)は今だ、殺っていないが、時間をかけても絶対に命は殺る。それまで勘弁してくれ・・・」

微笑んでいる遠藤の遺影を観ていると、私の涙腺が緩んできた。

直ぐに、踵を返して最前列の自分の席へ戻った。

隣に座っていた高田嘉人が、スーット白いハンカチを差し出した。

その頃、私は心労が祟って、肝臓を悪くし、深谷市の『むさしの病院』に入院していて点滴を下げての葬儀であった事を思い出した。

来る日も来る日も関根を如何にしたら殺れるか、どの様に殺されたか何処に埋められているか、考えても、考えてもアフリカケンネル関根の犯罪の闇は深く私のやくざとしての常識的判断の外に、私を嘲笑うかの様に関根はいた。

やくざをやっていると悔しい事は多くあるが、大概な事は顔で笑って我慢をしてきたが、遠藤の死体が見つからないことは、関根に対しての怒りと悔しさが、私の心を支配した。

やくざは殺し合いをするが、私は半世紀やくざをやって来て、一人のやくざを殺した事も無いし若い者に殺させたことも無い。

やくざは、やくざをやっているから、人を傷つけたり殺したりするのである。だが、個人に戻りやくざではないなら、どうして人を殺したり、傷つけたりしなければならないのか。人を殺す事は人間として一番の罪悪である事は大概のやくざは自覚している。ならばどうして罪悪である事を自ら進んでやる事が美化されるのか、それは任侠道というやくざにとり、崇高な精神世界に生きているからで判り易く言えば組織・一家・親分・兄弟分・舎弟分の為と言う自己犠牲が、あって組織が成り立っているからである。

だが任侠道を煎じ詰めれば人間としての道である。長くやくざをやっていると究極の道として、人間として如何に生きるかである事が判る。

幸いにして私と高田一家は随分、荒い事をしてきたが、人を一人も殺していない。私が教えたのでもなく若い者は、一部の例外を除いて抗争は何度も経験したが、人だけは殺していない。

その私が代行の遠藤を殺され、調査をして行く内に、アフリカケンネルの関根元という男の生き方に触れ『この男は殺さなければ成らない』と思う程、人間の衣を被った狼であった。

狡猾な山崎永幸

私と電話で話をした後、山崎は身の周りの品を持つと車に乗り、逃げ出した。埼玉県警の捜査員の尾行が付いているとも知らないで、故郷でもある北陸を廻り、川越大塚新田にある自宅に着いた時、埼玉県警捜査一課の捜査員に、連行され事情徴収された。この時に、山崎の妻が『詐欺罪』で川越署に逮捕され拘留されていた。

山崎は何としても、妻を警察の留置場から出したかった。

川越署に連行され事情徴収された時に、山崎の狡さは発揮された。

「女房を留置場から出してくれれば、ケンネル事件について協力をする」

捜査員が即答をしなかったが、上司や検事が協議をして、山崎の妻は『詐欺罪』から逃れ釈放された。

これが、捜査当局と山崎のケンネル事件の裏の協定の始まりである。

だから、正式には【埼玉県愛犬家殺人事件】は、事実が三割・捏造が七割の作られた事件である。

私から捜査陣へ渡された『ボディは透明だから』と録音されたテープを聴き捜査陣は色めきたった。熊谷署から行田署に【埼玉県愛犬家殺人事件捜査本部】を移し、相当数の捜査員を動員して聞き込み捜査を開始した。

当然、前に川越署に詐欺で逮捕をされていた山崎永幸の妻愛子(仮名)を釈放する条件で、山崎がアフリカケンネル事件に対して知っている事は、供述しますと言う事を有効に捜査陣は使った。

だが捜査を急ぐ事が優先して、山崎がどの様な男であるかとの調べはしていなかった。

ここに【埼玉県愛犬家殺人事件】の真相に、瑕疵ができてしまった。

それは山崎が殺人の共犯であるのを逃れようとして、表面に出ている四件の殺人を自分が住むポッポハウスの前でドラム缶に中で焼却したことにすれば、警察も、一人一人の殺された死体を誰が何処で殺されたか立証しなければならないし、マスコミが捜査陣の一挙手一投足まで監視して憶測報道をしている。警察は焦っていた。山崎はなんとしても殺人罪から逃れたい。

両者の利益が一致した時、殺人犯と捜査官の取引は成立した。

「俺は川崎殺しと遠藤殺しの死体を金を貰い、処分するのを手伝ってくれと関根に言われ断れ切れずに手伝った」

山崎は警察に逮捕された時には、殺人罪を逃れるのにはこういうより、他が無いと考えていた。

逮捕されない前の参考人として呼び出しを受けても、同じ供述した。

犯罪者の心の底の底までも、知り抜いている山城班長は、山崎が殺人罪から逃れたいと事を思っているのを洞察していた。

(こいつは利益で釣れば何でも喋る・・・)

「山崎、刑法に第一九九条殺人罪がある。殺人を犯した者は、死刑又は無期若しくは、五年以上の懲役に処する。とあるが、もしかしたら山崎は第一九〇条『遺体損壊』と言う罪に当たるかも知れない。あんたの場合どちらの罪にあたるか検事さんに聞いてみないと判らないが、殺人になるか遺体損壊になるかの瀬戸際だ」

遺体損壊があると聞き山崎は、自分は直接殺人には手を下していないから、殺人罪は適用しないで『遺体損壊罪』になるだろうから、この山城という班長と取引をしようと考えた。

だが現実は殺人の現場にいただけでも、共犯とされて刑を打たれる。

「山城さん。例えばの話だが、死体を四つばかり始末をすれば合計で何年位の刑期を打たれるのでしょうか」

山城は山崎が逮捕された場合、具体的に何年の刑期になるだろうと真剣に考え始めたのを感じた。

「死体・遺髪・遺骨又は棺に納められている物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は三年以下の懲役に処する。これが死体損壊の刑期だ。然し、山崎お前は幾つの殺人に拘わっていたのだ」

「今、ここで自分が関根の殺人に拘わっていたといったら、即に逮捕されてしまうでしょう。だから今日のところ私は何も知りません。敢えて、言うなら関根には、新井良治という兄弟分がいて関根の殺しについてはかなり深いところまで知っていると思います。自分のような小物を調べないで新井良治でも、捕まえて調べたら良いでしょう」

山城班長は定年近い酸いも甘いも噛み分けてきた人情味ある苦労人刑事である。余りにも山崎が、自分本位の証言しかしないので、呆れてしまった。

今直ぐに、山崎を逮捕しても構わないが、山崎が殺人をしたという証拠が一つもなかった。

(自分が殺人を関根と一諸にやっておきながら、自分だけ刑が軽い遺体損壊で済ませようと新井良治まで売り、山崎は卑怯過ぎる・・・)

山崎のような潔い覚悟が無い犯罪者が、大嫌いな山城班長は、山崎から事情を聞くのは、これまでであると考えた。

「山崎さん。本日はお忙しい中、出頭くだされ貴重なお話を聞かせていただき誠に有難うご在ました。近々又、ご足労願うと思いますが、その節には殺人罪と遺体損壊のどちらが得であるか考えて来てください」

山崎の利己的で陰険な人間性を見抜いた山城班長は、丁寧な言葉で、山崎を帰した。

山崎は山城班長の丁寧な言葉を聞き、この班長は甘いと感じ、この次に呼び出しがあった時に、関根の殺人の情報を喋り、自分は殺人には関係がなく遺体損壊にしか、関与していないと説得してみようと思った。

それから、新井良治の事を山城班長に話しをしたが、新井が山城班長に呼ばれでもして、山崎がお前なら関根の事を良く知っていると言っていた。等と言われたら、やくざをやっていた新井が、何をするか判らないし、必ず自分を責めるだろうと考えた。

(新井に、今日の事を電話で話しておこう・・・)

新井の家に電話を掛けたが、ベルが何度も鳴っても新井は電話に出なかった。山崎は何処かに出かけているのだろうと考えて電話を切ろうとした。

その時に新井は、電話口に着いたらしく息を荒くして、受話器を手にしたようである。

「はいっ、新井ですがどちら様ですか」

昔はやくざ、大間々に住んでからは、絵描きの先生と姿を変えて生活をしている新井は、言葉が普段から丁寧である。

「片品の山崎です。実は今日、川越署に呼ばれケンネルのことで色々聞かれえました。新井さんの名前もちょっとだけでましたので、注意した方が良いと思い連絡したわけです」

「何―、俺の名前が警察に出ている。そんな事はねぇーよ。俺はケンネルの殺しには、オメーみたいに関係をしていねぇーぞ」

「それはそうですが、一応、今日あった事実を聞かせておかないと後で困ると思いますから」

「俺は、少しも、困ることねぇーよ。それよりオメーは死刑を覚悟しているのだろう。最も生きていても、遠藤代行を殺された高田組が黙ってはいないだろう」

これから先の事を考え新井に、電話をした事が悔やまれた。

(これでは薮蛇だ・・・)

「兎に角、埼玉県警が関根の事件では、相当深く捜査を進めているという事をお伝えします」

「山崎、注意をしろよ。オメーは逮捕されれば死刑だ。死刑なら裁判が終わるまで生きていられるからその分いいじゃねぇーか、高田組に掴まったらその場でアウトだ。自業自得だな」

「新井さん。高田組も自分を狙っているのですか、関根だけではないのですか」

「馬鹿野郎。やくざを甘く見ると怪我をする。オメーの場合怪我じゃなくて命がなくなるのだ」

山崎は数ヶ月前に電話で話しをした高田組長の声を思い出した。

言い訳を絶対に許さないものの言い方である。顔を見た事が無いがきっと恐ろしい顔をしているのだろう。そう考えると山崎の全身は粟立った。

これ以上、新井と話しをしていても、恐ろしい思いをするだけであると考えた山崎は電話を切った。

(高田組の事を考えていなかった。高田組は片品のポッポハウスは知っているだろうが、川越の刑務所の近くである大塚新田の家はわからないだろう・・・)

新井と山崎の会話を盗聴していた【埼玉県愛犬家殺人事件捜査班】の盗聴を受け持っている捜査員は二人の会話を、今日山崎を尋問した山城班長へ、テープにして大至急届けた。

山崎を担当している自分の班の捜査員五人に、そのテープを聞かせた。

「山崎とは友人でも、恩人でも何でも、自分が死刑から逃れられると見たら我々の売ってしまう信義の欠片も無い没義道な男ですね」

若い吉野刑事が憤りを感じたように顔を赤くして怒った。

だが盗聴はこの当事法的には認められていない。飽くまでも捜査の参考にすえるだけで法廷では証拠申請は出来ない。

只、捜査員の士気が、向上したことは確かである。

山城班長は、山崎のように自分が助かりたい為には、誰のことでも喋ってしまう者は取り扱いよいと考えて次に打つ手を考え始めた。

「目黒君、山崎の女房の詐欺事件の『家からブルドックを買って子を取れば、一匹二十万円で引き取る』と甘い言葉を愛犬家に勧め子が生まれたら十万円でも引きといらない事実は、完全なる詐欺事件だから、大至急裁判所に逮捕状を請求してくれないか」

「その将を射んと欲すれば馬を射よ。ですね。前のときから山崎は、詐欺罪で留置されている女房を釈放してくれれば、関根に対する情報を教えると取引を求めてきました。あの時は具体的な関根に対する情報は喋りませんでしたが、今度はそのような訳には参りません。明日にでも裁判所へ山崎愛子・詐欺容疑に対する逮捕状を請求いたします」

「目黒君、今度は山崎を徹底的に締め上げるから、承知をしておいてください。盗聴の事は絶対に、山崎には知られないようにして、山崎は関根と共犯であると言う事を忘れないで欲しい」

 紅葉の時期が終わり、初雪の便りが、アチコチで聞こえてくる十二月初旬、川越市大塚新田にある山崎の家には、物々しい人数の警察官が家を取り巻いた。

山城班長の作戦で、山崎に殺人罪で自分を逮捕に来たと思わせる為である。

山崎が繁殖のために飼っているブルドック数匹が、低い声を出し唸っている。二階から顔を出した山崎は、関根と一諸に、やった殺人が、ばれてしまったかと考えて愛子(仮名)に玄関へ行くように促した。

愛子は警察に、一度逮捕をされているので、玄関の上がり口に立つと警察であるのを承知で誰何した。

「誰なの!こんなに大勢で家に来て」

玄関の外には、山城班長と目黒部長他、数人の警察官がいて、後の応援の警察官は山崎の家を取り巻いていた。

「埼玉県警川越署の者ですが、山崎愛子さんはご在宅ですか」

てっきり、夫の永幸を逮捕に来たものであると思っていた愛子は、まさか自分に逮捕状が出ているとは思ってもいなかった。

ここに来て、逃げることも出来ないのは、一目瞭然であると気付いた愛子は、玄関の鍵を開けた。

「何の容疑なの」

「犬の売買に絡んだ、詐欺罪ですよ」

その時、慌てて階段を下りてくる音が聞こえた。山崎である。愛子の傍に来て山崎はこの逮捕には、何か意味があると考え山城班長に言った。

「直ぐに、警察に行きますから、愛子の事は宜しくお願いしますよ」

「判っていますよ。山崎さん」

愛子に手錠をかけると素早く目黒は、手錠の紐を腰に廻した。そして、直ぐ前に停まっている警察車両へ愛子を引き入れた。

山崎は愛子が乗っている車の後姿を、何時までも見ていた。

(愛子が逮捕をされた事は、警察が俺に何かを聞きたいという意味があるのだろう。然し、昨日事情徴収をしたばかりで、俺は協力的に喋ったつもりだ。警察は未だ、関根の件について、深いところを聞きたいのだろうか・・・)

歯を磨き洗面をすると山崎は、川越警察署へ向かった。署内の様子をよく知っている山崎は、真直ぐに、捜査一課の山城警部のデスクの前に立った。山城班長は椅子に座って山崎が現れるのを待っていた。

「山城さん。女房を人質に取るとは卑怯ではないか」

「詐欺だから、たいしたことはないが、部署が違う。私の課でやったのは、普段から、あんたとは知り合いだからだ」

「俺に聞きたい事が出来たというのだろう」

「話の分かりが好いねー、ここでは、話辛いこともあるから、調べ室に行こうか」

山崎は普通ではないと感じた。もしかしたら逮捕をされるかもしれない。逮捕を免れるのにはどうしたら良いか、調べ室に向かう間考えていた。

「まあっ、椅子に座りなさいよ」

山城班長のその言葉で、山崎は我に帰った。

「山城さん。俺が関根の事件に、あんなに協力をしているのにどうして、女房の愛子を逮捕したのだよ」

「判らん。俺は一課の殺人専門、詐欺罪が、二課か三課かも判らない人間だ。別な課がやる事件については、何人でも事件のことについて容喙する事は禁じられている」

「でもよー、知らないもの同士ではないのだから、昨日の内、教えてくれたって良いじゃないか」

山城班長は山崎の言う事を聞き流し、いきなり本題に入った。

「確かな情報筋からの報告だが、あんたは、川崎昭男と遠藤安旦殺しに、直接関与をしている。これからこの二件の殺人について聞き取りをするから、嘘偽りのない様に正直に話してくれないか」

「昨日話しただけでは足りないのか、自分は川崎殺しと遠藤の死体を、金を貰って処分するのを手伝ってくれと関根に言われ、断り切れずに手伝った。

この様に昨日言った筈だ」

「それを証明できる人がいるか」

今日は昨日とまったく違う。新しい情報を警察は、掴んできたなと、山崎は考えた。

如何したら、自分が殺人の共犯から、逃れる事が出来るだろうと思いアメリカ映画の警察物の中にあったシーンを思い出した。

「司法取引と言うのはあるのだろう」

「山崎、映画に見すぎではないか」

山城班長は、山崎が乗ってきた手答えを感じた。

「それでは自分が本当の事を喋っても何もならない。山城さん自分は愛子に差し入れをして帰るよ」

大分芝居かかってきたと感じた山城班長は、山崎を引き上げにかけた。

「日本の法律では司法取引は認められていない。だが、素直に捜査に協力をすれば『情状酌量の余地』があったとして、大概、刑期は軽くなる。捜査に協力的であったか否かは、警察取調官の上申書により、検事も、裁判官も知る訳だ。山崎は情状酌量の余地があると私に書かせるか」

「情状酌量の余地ねー、山城さん自分に、情状酌量の余地はありますかね」

「それは、これからの調べに拠るものである。第一山崎は、二件の殺人の共犯者だからな」

「待ってください。自分は関根の共犯ではありません。殺しの場面にも、顔を出していないし、手を下していない。只、川崎と遠藤の死体を始末する事を手伝っただけですから、それを信じてください」

山城から見れば山崎は明らかに『殺人罪』から逃れ『遺体損壊』に罪名を持って行きたいと考えているのが判った。

「司法取引同然である『遺体損壊』になるのには、関根を逮捕できる証言と証拠が必要だ」

山崎は『殺人罪』が『遺体損壊』になるのなら何でも、警察の言う通りに喋ってしまおうと考えた。

「関根が、川崎を殺したという事実を証明で切るのは、当日、自分が一諸の熊谷市の『ガレージ』に行っていることだ。勿論、自分は川崎殺しに、手を出していない」

「では次に聞きたい。関根が川崎に、硝酸ストリキニーネをユンケルに入れて飲ませたのだが、硝酸ストリキニーネを何処から手に入れたか判るか」

「それは、熊谷市吉岡にある『家畜医院』の重田八十男先生からで、先生に犬が皮膚病になり、他の犬に伝染しては困るので、薬殺用の薬をくださいと言い十万円もやれば、五十グラム位入っているビンを直ぐに呉れますよ」

山城班長はこれだけ聞けば、関根を逮捕する条件は揃ったと思ったが、山崎を情状酌量の余地があるとして『殺人罪』から『遺体損壊』に罪名を決める事は、自分の判断では出来ないので、罪名の件は持ち出さないで、別な話を始めた。

「山崎さんよ。あんたも因果な者と交際をしてしまったな。関根のような殺人鬼は犯罪史上でも、例が無い男だ。当局として、川崎・遠藤の他に、後二件の殺人を掴んでいる。これはあんたには、全く関係が無い事件だが、別な班が捜査をしていて、大分進展している。原状、判っているだけでも四人の尊い命を奪ったことになる。死刑は絶対に間違いが無い。あんたも情状酌量されず、殺人罪の儘で、起訴されれば悪くして死刑・良くして無期懲役が、待っているだろう。だからこの処をよーく考え『殺人罪』を情状酌量されて『遺体損壊』で済むには、如何したら良いか熟慮し、今度来る時は腹を括り警察を納得させる供述をしてくれないか」

山城班長に悪くして死刑・良くして無期懲役が、待っているだろうと言われた山崎は自分の見通しが、甘い事に今になり気づいた。

こうなったら恥も外聞も無いと思い【埼玉県愛犬家殺人事件捜査班】の犬に成りきろうと決心をした。ブルドックを繁殖させて生活をしていた犬屋が警察の犬になるのだから、山崎には簡単なことであると思えた。

「山城さん。本日只今から自分は【埼玉県愛犬家殺人事件】捜査班の犬に成りました。出来ます事は何でもご協力いたしますから、どうか警察の御慈悲を以って、私の罪名を『遺体損壊』にして下さい」

山崎は取り調べ室の椅子から降りると、床に正座をして、山城班長に向かって深々と腰を折り拝むように合掌した。

唾棄したくなる奴だと山城は思ったが、自分の仕事である捜査については、絶対に必要な男であると考えた。

「山崎さんよ。俺を拝んだ所で、どうなるものでもない。前にも言ったように罪名は私が決めるのではなく、上司や最終的には検事さんが決めるのだ。今、私の言える事は関根のことで知っている事は、なんでも話し、私や私の上司そして、検事さんの心証を良くする事だ」

日常生活をしてゆく上でも、狡猾な山崎である。まして、自分が死刑や無期刑から逃れられ可能性があると思ったら、一般の人が持っている常識など、無いものに等しい。

(山城さん。何でも聞いてくれないか。死刑や無期刑から、助かるなら、この男山崎何でもお話しするぜ・・・)

犬屋が警察の犬になると言う事は、当然な事と考えられるが、死刑や無期刑から逃れる為に、人をいとも簡単に、警察に売るという行為は、聞いただけでも反吐が吐きたくなる。

関根の精神構造を疑うが、この様な汚い事を平然とやる山崎の人間性に疑問を抱かない者は、この社会に一人もいないだろう。

 今日、山崎の話の出方に拠っては、逮捕をする為に、留置所を一室明けていたが、山城が昼食時、一課の課長に調べの進捗具合を報告すると、今日逮捕すれば関根が次は、俺だと考え、逃走したり、証拠隠滅に、あくせく始めるので絶対に今日は、山崎を逮捕せずこの儘、女房の身柄を別件で押さえてあるのだから、家に帰し、必要に応じて呼び出せばよい。山崎逮捕は関根を逮捕してからであると、行田市に設置された【埼玉県愛犬家殺人事件捜査本部】の総責任者である警視と、話し合いができていた。只、『殺人罪』から『遺体損壊』の罪名に持って行く事は、検事の了解も取らなくてはならないので難しく結論は慌てて出すことはないと両者で決めた。

「山崎さん。今日は家に帰っても良いよ。只、今日ここで私と話した事を少しでも関根に洩らせば、直ぐに『殺人罪』で逮捕する」

「自分は、ここで調べられていると絶対に関根には言わない。それなのに『殺人罪』で逮捕するとは酷いのじゃーないの」

山城は人を殺しておいて、酷いのはあんたの方だと思ったが、口には出さず真剣な顔をして山崎に釘を刺した。

「山崎さんには捜査班の見張りがついている。だから逃げ隠れは、絶対に出来ない。そのことを肝に銘じ、この次の呼び出しを待つのだな」

自分の関係する関根の殺人事件の話しに夢中になり、妻の愛子が『詐欺罪』で逮捕をされている事を山崎は忘れていた。

ここで愛子が直ぐに、釈放されるように頼んでみようと考えた。

「ところで山城さん。家の愛子の事件だが、何とかならないものですか」

「一件や二件なら詐欺だから、弁償をすれば情状酌量の余地がありと見られ、不起訴のなる場合もあるが、あんたのところの奥さんは、何件もの訴えがあり、今度で逮捕は二度目だから、釈放は難しい」

愛子がいなくなるとブルドックの餌くれから、運動、小屋の掃除等、全部を山崎がやらなければならない。それに愛子の作る上手いカレーも食べられなくなる。山崎はそれを思うとなんとしても、愛子を釈放されるように、しなければならないと考えた。

「山城さん。如何したら愛子は釈放されますか」

山崎が又取引をしたがっていると、山城は感じたが、判らない振りをして一般的な常識論を話した。

「被害者が何人いるのか判らないが、全員に騙し取った金を返済する事が、先決だ」

そう言われても山崎には金が無い。

(ここを出たら、関根に電話をして金を無心するか・・・)

川越警察署を出てきた山崎は、犯罪者が逮捕されて警察に入る時のように項垂れて川越警察署から出て行った。