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ウルフドック

【埼玉県愛犬家殺人事件の真相】

髙 田 耀 山

死体無き殺人

和久井の死体を自宅の庭に埋め、その晩は、生と死の狭間で生きている人間同士でしか出来ない。狂おしいほどの変体セックスで1夜を明かした関根と博子は昨日の遠藤と和久井の殺しはなかったようなさっぱりした顔をして、山崎が住む片品村のポッポハウスに朝日を背に受けながら向かっていた。

関根の車が沼田から、金精峠に向かう道に入った時、博子が関根に話しかけた。

「貴方、死体の始末が着いたら、暫く、安全になるわ。何処か温泉にでも行きましょう」

「おうっ、それは良いね。草津の強い温泉に入り、俺と博子の身体にこびり付いてしまった死の臭いを清める必要があるからな」

「出来れば、その前に殺る必要がある人間を殺ってしまいましょうよ」

博子の頭の中には暗く陰険で欲深な山崎永幸の顔が浮かんできた。第一山崎は関根夫婦の犯した殺しを知りすぎる。そしてその弱みに付け込んで金の要求ばかりする。関根も博子も山崎の存在が鬱陶しきて仕方が無い。

「貴方、この事が済んだら山崎の事は考えましょう」

二人で山崎殺しの会話をしている内に片品村のポッポハウスに着いた。

家の前の空き地に車を停めると山崎が、家から急いで出てきた。

「昨日の内に来てくれると思っていました。物は未だ、俺の車のトランクに入っています。」

「それでは、仏を家に中に三人で運び込もうか」

遠藤の死体をポッポハウスに取り付けてあるユニットバスに中に運び込み関根は山崎に命じた。

「まな板にするような板はねーか、それもデカイ方が、仕事がやり易い。山崎この辺は山だから幾らでもデカイ板はあるだろう」

山崎は関根にニコニコしながら応えた。

「社長、川崎を処理した時の山崎をお忘れか。コールタール・ガソリン・薪はおろか、代行を料理する板は家の横に立てかけてありますよ。今もってきますから、暫くお待ちください」

山崎が大きな板を持ってきたので、キッチンの上においてある物を全部別な場所に移し、大きな板で遠藤を料理するまな板として置いた。

関根は着ている物を全部脱ぎパンツ一つになると、自分の愛用のドイツ製肉きり包丁を右手に持って風呂場に入って行った。

「俺がここで遠藤の死体をいくつかにバラスから、そのばらした物を三人でカレーに入れるくらいの大きさに切り刻め、そしてゴミ袋の中に入れて置けよ」

五分もしない内に遠藤の右足が風呂場から差し出された、山崎はそれを受け取ると博子と二人で切り刻み始めた。右足が切り刻まれない内に、左足が渡され次には手が渡された。最後は同体を四つに切った物と、よく洗われた内臓が、ビニール袋に入れた物を関根が両手で吊り下げて風呂から出てきた。山崎と博子の仕事が進んでいないので関根はぼやいた。

「俺の方はもう終わった。オメー達は何をしているのだ。俺達がやっているのは長谷川平蔵じゃーねーけど『急ぎ働き』だ。もたもたして、人にでも見られたらお縄になってしまうじゃーねーか」

「へいっ、お頭の言う通りでございます。お上の眼は節穴じゃーございませんから」

「おっ、山崎も時代劇が判るじゃねぇーか、わっはっはっはっはっー」

このようなときに、冗談を言える関根を博子は、頼もしい存在であると感じた。

「山崎、演歌のテープでもねぇ-のか」

「北島三郎のならありますよ」

「サブちゃんか良いねぇー、待ってきてここでかけてくれ」

山崎がまな板の傍に置いたテープを聴きながら、リズムを取り『与作』の歌い出しの部分になるとテープに合わせ歌を歌いだした。

「与作が木を切るートン・トン・トン、ヘイヘイホー」

博子が切り取った遠藤の性器をつまみあげて軽蔑するように言った。

「貴方。遠藤の珍坊はこんなに小さいのね」

「俺のと比べてどうだ」

「貴方の珍坊のほうが何倍もいいわ」

「うわっはははははー」

気分が余計に良くなったのか。関根は与作の歌を声高に歌いだした。博子は関根の歌の従い歌いだした。これをして本当の夫婦隋唱を言うのであろう。

遠藤の死体をリズムに乗り切り始めた。トン・トン・トンと関根は北島三郎ファンで特に『兄弟仁義』『与作』をカラオケに行っても好んで歌っていた。

『兄弟仁義』の「親に血を引くー兄弟よりも、固い契りの義兄弟」のフレーズを聞くと時には涙を零す時も有る。

この事は子供の頃から眼に見えない差別を受けてきたと感じている関根が、現在置かれている立場、即ち新井良治との仲を歌っているようであり、今後もそのような兄弟分が現れてくれる事を望んでいる心の表れではないだろうか。

百キロも有る遠藤の死体を細かく切り刻むのに二時間かかった。

既に、山崎が表のドラム缶に薪を入れて、火をつけ火は轟々と音を立て燃えている。

「始めは骨をドラム缶の中にぶち込め」

関根に言われ風呂場から、ビニール袋に入れた遠藤の砕かれた骨を山崎がドラム缶の中に入れた。骨はバチバチ音を立て燃え始めた。骨が燃え始めたのを確認して関根は次の事を山崎に指示した。

「上から、コールタールを撒いてみろ」

「コールタールですね」

と応え山崎はドラム缶の近くに置いて置いたコールタールをドラム缶から、出ている火を避けながら平均に撒いた。火は一瞬消えたと思ったが、コールタールはぷっぷっ音を立て鈍く燃えていた。コールタールの火力は強く骨まで染みこんで燃えさせてしまう。

ドラム缶の中身が少しずつ少なくなってきたので、関根は博子に言った。

「博子、肉が入っている袋をもってこい。この上から燃やせば直ぐに炭になってしまうからな」

肉片でドラム缶が、九分目位まで埋まると関根は博子と山崎に家の中にはいるように言った。

「長い時間このドラム缶の前にいると人が来て「何をしているのですか」と聞くから家に入り、窓から肉の焼け具合を見ていれば良い。少なくなったら残っている物を足せば良い」

こうして、数時間後には遠藤の骨と肉片は殆ど燃えてしまい残ったのは遠藤が身につけていたロレックスの時計とカランダッシュのライターが、コールタール塗れになったものと焼け残った細かい骨と灰だけである。

夕方に成り関根は山崎に予定通りの事を告げた。

「山崎、灰をセメントの袋に入れて、その辺の山に行き沢にでも流してしまえ」

「判りました。そのようにしますから、ここで待っていてください」

山崎は灰を山の中に捨ててから、帰ってきたら関根に金を貰おうと考えていた。

(二五〇万円呉れると言ったが、社長は持ってきているのだろうか・・・)

灰を捨てれば後は金になるだけだと思い山崎は、急ぎ街道から余り遠くない沢を見つけ、流れが急な場所へ灰を捨てた。急いでポッポハウスに帰ると関根夫婦は既にいなかった。

(あの野郎―、ふざけやがって、今に思い知らせてやるぞー)

組長代行である遠藤安旦が、いなくなったことで高田組の動きは活発になった。第一の警察が動き出した。一部のメデァも、気づいて取材をしたがっている。

当然、高田組は関根を殺すだろうとのことから、事務所に埼玉県警一課の捜査員である関口千尋刑事が毎日、常駐に等しい形を取った。

高田組長は最初から、アフリカケンネルの関根を犯人であると睨んでいた。

そして、関根を電話で高田の自宅へ来るように呼んだ。

同時に、嵐山町の霊媒師『権ザ衛門』という気違いじみた関東では有名な元、乞食をしていた者を呼び、関根を応接間で待たせ『権ザ衛門』に遠藤がどうしていなくなったのか、現在如何しているのか、家のお不動様の前にて、訳の判らない経を上げさせ占わせた。

占う前に応接まで待つ関根に言った。

「もし、社長が遠藤を殺したと『権ザ衛門』が言ったら如何するのだ。社長」

「私が代行を殺ったと『権ザ衛門』が言うなら、切腹いたします」

「好し判った。これから、社長が遠藤を殺したか、殺していないか『権ザ衛門』に聞いて見るぞ」

『権ザ衛門』は色々な事が当たるといって有名に成り、この時には嵐山町に新興宗教の本山の見たいな建物を立て占い師として、埼玉県近隣を席捲していた。後で『権ザ衛門』について調べてみたが、『権ザ衛門』は乞食を二十年もして、この近在各地を廻り、この家は乾に蔵がる。あの家は巽が欠けているなどという土地の特徴をメモにして、埼玉県北部の家は隈なく家の向き・氏神様の社の位置・過去にあった事を聞いて回り熟知していた。

この頃には、新しい家もあったので権ザ衛門の記録が無く『権ザ衛門』に見てもらおうとして、申し込むと必ず十日後を指定してくる。その十日で『権ザ衛門』の側近は、依頼者の家と土地の謄本を取り、謄本上で過去に記載されている地名を拾い上げメモをして『権ザ衛門』に渡すと『権ザ衛門』は如何にも神仏から告げられたように、もったいぶって謄本に旧地名で「大犬塚」とあればこうノタマウのである。

「我は牛頭天王なり、この地は古来より「犬」に関係が有る土地である。お犬様の御霊を先ず沈めその上で、遠藤安旦の所在を確かめん。えいー」

まるで子供騙しである。そのような似非占い師を何故呼んだといえば、嵐山町に清水組の組長で清水紀男という者がいて私に勧めたからである。

私は元より、易占は自分でできるから、他人がやる事を信じていない。だが、普段、ゴルフ仲間であった清水組長である。義理で『権ザ衛門』を依頼したのである。だから、関根を呼んで『権ザ衛門』が『関根が遠藤を殺した』という答えが出ても信じるつもりはなかった。お遊びの心算で『権ザ衛門』を天井一面に龍が描かれ、壁には黒檀の大きな仏壇そして、私が信仰していた『不動明様』が鎮座していた仏間に案内をした。

『権ザ衛門』は、お不動様の前に座ると僧衣を着た袖から数珠を出し、両手でこすり出して『聖不動経』を唱え始めた。

短い経なので直ぐに、終わると『権ザ衛門』は私の方へ向き直った。

私は始めから、お遊びであると考えていたので『権ザ衛門』をからかった。

「汝は人の吉凶を占いおるが、何者である」

いきなり私に何者であるといわれ『権ザ衛門』は、意表を突かれ考えていなかった事を言った。」

「我は牛頭天王なり、この地は古来より「犬」に関係が有る土地である。お犬様の御霊を先ず沈めその上で遠藤安旦の所在を確かめん。えいー」

真剣に自分を牛頭天王であると思い込み先に調べておいた私の家の旧地名の「大犬塚」を如何にも霊力で判った振りをして、私を納得させようとした。

「牛頭天王!遠藤の所在は如何に?」

急に震えて『権ザ衛門』は叫び出した。

「寒いよー、寒いよー、誰か、ここから出してくれー」

面白いから私は続けた。

「応接間に、アフリカケンネルの社長の関根元がいる。これが遠藤を殺した犯人か」

『権ザ衛門』は訳の判らない真言を唱え次に、九字の印を切った。

「臨・兵・闘・者・皆・陳・列。在・前・えいっ、」

「始めに『犬』に関係があるといったじゃろう」

「そうかい、犬に関係が有るのか。それでは、そこにいる犬屋のケンネルの社長が遠藤を殺した事になる。確かか権ザ衛門」

「牛頭天王嘘は言わん。寒いー、寒いー、といっておる早く助けてやれ」

「助けてやれとは遠藤は生きているということか」

「判らん」

 その儘、権ザ衛門は沈黙した。

いい加減な詐欺師だと思いながら清水組長に私は聞いた。

「牛頭天王に幾ら払えば良いのだろう」

清水組長は権ザ衛門に占い料金を幾らであるか聞いた。

「先生、今日のお礼は如何程ですかね」

「むっ、・・・志で結構・・・」

お遊びの時間は終わったと見た私は、高田嘉人に命じて熨斗袋に十万円を既に、包ませていたので、仏間に持って来させ権ザ衛門に渡した。

権ザ衛門は、してやったりという顔をして祝い袋を受け取った。

「じゃなぁー、牛頭天王は、牛の化け物だろう。せいぜいアフリカケンネルの社長にバラバラにされないように困っている者から金を戴いては駄目だぞ」

背筋に一本棒が通った様に姿勢を正し、権ザ衛門は深く腰を曲げ両手を合わせてお辞儀をすると清水組長と仏間から出て行った。

私は早速、隣の相向かいにある応接間へ行き、権ザ衛門の言った事を信用した振りをして、ケンネルの関根を睨みながら対面して言った。

「おうっ、社長、権ザ衛門は、オメーが殺したといっている。寒いとも言っている。遠藤のことだから毎晩あんたの夢枕に立って『寒いよー、寒いよー』といっているのじゃねぇーか」

私はやくざをやっていて、これ以上は、怖い顔をした事が無いほどの眼つきになり関根を睨んだ。

関根は一瞬眼を泳がせて躊躇したが、次に応接間のテーブルの上に置いてある果物入れから、バナナを一本千切ると皮をむき、むしゃむしゃ食べ始めた。明らかに動揺している。バナナを咀嚼している関根を観て遠藤殺しの確信を得た。

「社長、あんたが遠藤を殺したと判った時は、如何するのだっけ」

刀架けがあるほうを見た。

バナナを食い終わった関根は、椅子から滑り降りるようにして、床に正座をした。

「親分、天地神明に誓って自分は、代行を殺したりしていません。この通りです。信用して下さい」

私は権ザ衛門の言うことなど信用していないが、応接間に入った時、

「おうっ、権ザ衛門はオメーが殺したといっている。寒いとも言っている。遠藤のことだから、毎晩オメーの夢枕に立って『寒いよー、寒いよー』といっているのじゃねーか」

と関根に話した時の狼狽の仕方が尋常ではなかったので、完全に関根が遠藤を殺したと確信したのである。

(さて、この野郎。どうやって始末をしようか・・・)

「社長、もう判ったから家に帰れよ。疑って悪かったな」

「親分に信じて頂き感謝をしています。今後、自分に出来る事がありましたら何なりと言いつけてください」

(馬鹿野郎。テメーのような信義の欠片も無い男に頼む事ねぇーぞ。それより自分の身体を大事にすることだ・・・)

この件は関根が。翌日に熊谷警察に訴えた。

「高田組長に、日本刀を応接間で突きつけられ脅された」

ということである。この頃は、完全に関根が、川崎氏や遠藤を殺した事が私にも警察にも、判っていたが、証拠がないだけの事であった。

更に、以前、私と高田嘉人を訴えた時に、脅してないのに脅かされたと訴えた事が明らかに成り、警察当局は関根がありもしないことで、警察に訴えることにより、自分は、これほど怖がりだから、人など殺せないというパホーマンスである事まで見抜かれてしまったのである。

訴えがあった以上、警察は調べをするだが、関根の思惑通りに、ことは進まなかった。

この頃は【埼玉県愛犬家殺人事件捜査本部】と熊谷署の連携はスムースに進んでいて、熊谷署から行田市の警察署に設置された【埼玉県愛犬家殺人事件捜査本部】へ関根が私を訴えた事は、高田組専従の関口刑事に知らされた。

関口刑事は私が新井と関根が「ボディは透明だから」と録音されたテープを渡した人であり、この事件に対しては、二人の信頼関係は構築されていた。

関口刑事は、高田組事務所に来た。

「関根が親分に脅かされていると熊谷署に又、訴えたよ。自分が犯した殺人を親分が相当調査している事を動物的感で感じ取り、親分が危険だと思っているのだろう」

「確か自分の犯した殺しを、一番深く調べて知っているのは私でしょう。関根の野郎そういった意味で、ひしひしと私が近づいてきているのが判るのでしょう」

関口刑事は微笑みながら言った。

「関根が親分を訴えたことについては、上司も高田がそんな事はしないといっていますから、心配は要りません」

この頃の関根は私の影に、大分おびえていた様子が窺がえた。