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二件の殺し

稲川会高田組々長代行である遠藤安旦は、アフリカケンネルの用心棒的存在でありながら、社長の関根が、行田市の廃棄物業者川崎昭男を殺したと関根と小峰氏の話し合いから、気づき確信を持ち、それをネタにして、関根を恐喝した。

最初は関根が騙して、役員にすると言ってシベリアン・ハスキーを一千万円で売りつけた行田市の主婦美千代が、殺される前に持ってきた三百万円である。

美千代を女房の博子と自宅の庭の隅に埋めた翌日である。

夕方、遠藤代行が太った身体を揺すりながら、関根の自宅に来て応接間のソファーにどっかり座った。

「社長、熱いと疲れるな。何か元気が出る飲み物はねーか」

「おい。博子リポビタンを持って来い」

博子は遠藤が来るたびに、関根から金を持って行くので遠藤が好きでない。

(又、来たのね。本当に遠藤さんは家(アフリカケンネル)の為に成らないわ・・・)

博子がそんな思いで、リポビタンをお盆の上に置いた時、遠藤が言った。

「リポビタンなんか利きはしない。ユンケルはないのか、社長オメーも女好きだから、ユンケルくらいは、家に置いてあるだろう」

遠藤の言う通り関根は、ユンケルをダースで買い自分の部屋に、隠し持っていた。

「代行も、見る眼がありますねー、俺はもてるから、ユンケルでも飲まなければ体が持ちませんよ」

遠藤はニコニコ笑いながら、早くユンケルを持って来る様に、関根を促した。

「ちよっと、待っていてください。代行」

そう言うと関根は、応接間から出て行き一分もしない内に、ユンケル皇帝液を二本手にして、応接間に戻ってきた。

キャップを関根は自分で空けて、遠藤に差し出した。

「社長、あんたを疑うつもりではないが、そっちのキャップを空けてない方を俺にくれ」

キャップを空けていない方のユンケルを、遠藤に指し出しながら、関根は、ぼやいた。

「代行、自分を見境無しに、人殺しをする人間に見えますか、まして、大恩ある代行をユンケルに、毒をいれ殺すとは夢にも見た事がありませんや」

「この人殺し野郎が、毒を入れるとよ、ヤバイヤバイ・・・」

遠藤は態と怖がり関根から、ユンケルを受け取ると、ビンの蓋を開け一気に飲み干した。

「毒入りユンケルを後馳走さん。処で、例の物は用意してあるのだろうな」

この後、遠藤に家を取られるまでも追い詰められて、硝酸ストリキニーネ入りユンケルを飲ませて殺害するとは、遠藤は夢にも思わなかっただろうし、関根自信考えてもいなかったのではないか。

「このケンネルは、代行にだけは、嘘を言いません」

テーブルの下においてある百万円束三つを取り出し、遠藤の前に置いた。

遠藤は百万円束を何時も持っているショートバックに、押し込み関根を凝視した。

「今日はこれで良いが、これで全部済んだと思っては困るぜ。何しろ社長は行田の川崎を殺したのだからな。今後、如何したら、俺が納得行くか良く考えて置けよ」

遠藤には、数え切れないほど、対やくざとのトラブルを解決して貰っているが、

まさか、川崎殺しをした事を感づかれるとは、夢にも思わなかったし、キズカレテモ何とか成ると甘く遠藤を考えていた。

しかし、関根は関根で普通の人間では無い修羅の道のど真ん中を胸を張って歩いている人間である。この時、既に、遠藤に対して、殺意を抱いた。

(面倒臭くなれば、代行であろうが、誰であろうが、殺ってしまおう。死んでしまったら只の肉片だ!・・)

嘘を塗り固め、堅牢なアフリカケンネルという城を持ち、千坪近い自宅まで築き秩父の山の中から出てきて漸く、自分の夢が将に、実現しつつある現在、自分の夢の実現を阻む物は何人であっても、容赦はしないと関根は固く思った。

新井良治と二人で、熊谷に犬好きな金を持っているセックス好きな女がいると風間博子に着眼した。新井の助けと助言があり、日本へ最初にシベリアン・ハスキーを輸入したのが、アフリカケンネルであり関根である。

関根は元自衛官であるコネを利用し、米軍横田基地の航空兵と交際を始めその航空兵に頼んで、世界に散らばっている米軍の基地から基地へ、どの様な動物でも運んで貰っていたのである。

日本のドックショーの審査員は、最初に青い眼をしたシベリアン・ハスキーを観た時に、全員が驚きと羨望の眼で関根を見たという。

だから、シベリアン・ハスキーを日本に持ってきてからは、犬業界の者が我先にと雌雄を、アフリカケンネルから購入し、繁殖させ金儲けを企んだ。

従って、シベリアン・ハスキーだけで、関根は数千万円の利益を上げたとされる。

シベリアン・ハスキーの人気に陰りが出ると今度は、アラスカ狼とハスキーを掛け合わせ繁殖させた。『狼犬』として雌雄ツガイで300万円から500万円で売りでしたが、最初は珍しく客も随分着いたが、『狼犬』は夜になると狼と同じ遠声で鳴くのである。

「ウオーン・ウオーン/ウオーーーン」狼犬を飼った者の近所中から苦情でてしまったのである。

そんな事をしている内に、檻から逃げ出した狼犬が人に噛み付いたりする被害が多く出て繁殖元のアフリカケンネルに、苦情の山が積まれた。

次に、アラスカン・マラミュートを密輸して、ブリーダーに売った。これも成功して、関根と博子は犬業界を風靡した。博子はアラスカンマラミュートの一匹の雄と獣奸をしていて、事件で逮捕されれば子供の事を心配するのが普通の人間であるが、マラミュートの雄の事ばかり心配していたと当局の者が何人も話していたのだから獣姦をしていたという事は本当の事であろう。この二人の夫婦は猟奇的でおどろおどろしている点に置いては双方優るとも劣らない。

風間博子に近づいてモノにし、金を引き出し折半にすると言う新井との男の約束は履行されなかった。不満を抱いた新井は何度も金をせびる為に、アフリカケンネルを訪れた。

「兄弟。話が違うじゃないか。横田基地の航空兵も俺が紹介したのだろうが、自分だけ良い思いをしているなら、横田基地の航空兵に、あんたとは、付き合わせないないというぞ」

「兄弟。そんなに怒るのじゃーねぇーよ。細かい話は後にして、今日はこれを持って行ってくれ」

新井の前に銀行から下ろして来たばかりのピン札、百万円の束が置かれた。新井は直ぐに、手を出し、その束をスーツの、内ポケットに捻じ込んだ。

この頃の新井は、埼玉県大宮市にある住吉会平塚一家総長の盃を貰い平塚一家・新井組を名乗っていて、組を名乗る以上、義理かけの金や上納金を支払わなくてはならず金に追われていた。

本来なら千万円単位で貰うつもりで、関根のところに来たが、現金を見ると金に忙しいだけに手が出てしまう。義理が掛るやくざの組長の性である。金を財布にしまいながら新井は捨て台詞気味な事を関根に行って帰った。

「今日の処、この百万で引っ込むが後で、配当の事はよく話をしよう」

この頃、新井は深谷市の駅前に、女房の由紀子にスナック『ユキ』を経営させていた。由紀子は新井より一歳年上の姉さん女房である。

新井が女房以外の女と出来ているなどと言う噂を聞いただけで、逆上するほどの焼きもち焼きである。

関根から百万円を戴いた新井は、気分が良いので久しぶりに、彼女である真澄(ますみ)の所に行き朝帰りをした。

午前三時ごろ、稲荷町にあるマンションに帰ると、酒を呑み酔っ払っていた由紀子が、いきなり灰皿を新井に投げつけた。

「この野郎、あぶねーじゃねぇーか」

「この女たらしが、今まで何処に行って、女といちゃついていたのだ」

由紀子はその儘、リビングにいる新井に向かって荒い言葉でなじった。手には果物ナイフを持っている。これは危ないと考えた新井は、傍にあった花瓶を持ち思い切り由紀子に頭に打ちつけた。

「うゎー痛いー」

と叫んだ途端、由紀子は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。

(馬鹿者。亭主に逆らうとこうなるのだ・・・)

まさか即死していると思ってもいない新井は、風呂場に行きシャワーを浴びた。シャワーを出てバスタオルで髪の毛を拭きながらリビングで倒れている由紀子に声をかけた。

「おいっ、由紀子その儘、寝てしまうと風邪を引くぞ」

由紀子は応えなかった。未だ、不貞腐れているのだろうと考え、由紀子の傍に屈み込んだ。

新井は驚いた。息をしていない。慌てて由紀子の手首を握り、脈を調べた。

(死んでいる。如何したら良いのだろうか・・・)

リビングのソファーに座ると、両手で髪の毛を掻き毟った。

この儘であると警察に逮捕され、長い刑務所暮らしになる。何れ訪れる事の不安に、苛まされていると暗闇に電気がついた様に、アフリカケンネルの関根の顔が浮かんだ。

(そうだ。関根の兄弟に相談をしよう・・・)

躊躇いも無く思い浮かんだ。

「もしもし、兄弟かい。実は相談したい事がある」

「なんだよ、言ってみろよ。兄弟のことなら何でも聞くぜ」

「兄弟、間違ってオッカーを、花瓶でひっぱたいたら、死んでしまったよ」

たった一人の兄弟分が、殺しのことで相談したので関根は、嬉しくなった。

殺しの事なら誰にも負けないという殺人鬼の自負といって良いのだろう。

だが、人を殺すことに自負を持たれたら、一般の人は堪ったものではない。

(なんだかんだ言っても、兄弟は俺が殺しでは、日本一である事を良く知っている。直ぐに、兄弟の家に行き兄弟が、刑務所に行かない様に、段取りをしてやるか・・・)

「兄弟、オッカーの死体は、風呂場に運んでおいてくれ。あと包丁はあるか」

「包丁は有るけど、あまり切れないみたいだ」

「判った。俺の大事にしているドイツ製肉きり包丁を持ってゆく。今直ぐ、出るから心配しないで待っていてくれよ」

「兄弟。早く来てくれよー」

「心配するのじゃねぇーよ。この殺しの元様が、兄弟には付いているじゃねぇーか」

昼間、金をむしりに来て、百万円持っていった時は、腹が立ったが、こうして自分を頼ってくる新井を知り、関根は愛おしさを感じた。

(殺しのことで、こんなに俺を信用してくれるのは、新井の兄弟だけだ。この男は最後の最後まで付き合おう・・・)

関根はジャガーのオープンカーに乗ると、深谷市の稲荷町にある新井のマンションへ急いだ。

新井の住んでいる四階の九号室の前に来ると新井が、コケタ頬を見せてドアから顔を出した。

「兄弟。ありがとう。地獄で仏とはこの事だぜ」

関根は大口を空けて笑い出した。

「兄弟それは違うぜ。仏も俺様にかかったら地獄だ。それより、俺が言った通りにしてあるだろう」

マンションに入ると関根は、真直ぐに風呂場に入って行き風呂場から顔を出した。

「一時間、兄弟は絶対に、風呂場には入らないでくれ。それとゴミ袋を十枚と小さい袋の二・三枚ばかり用意しておいてくれ」

新井は、ゴミ袋をなんに使うか判ったので、キッチンに行きゴミ袋があるのか確認をした。ゴミ袋は束になって食器棚の下にあった。直ぐに、風呂場の前に行き関根に声をかけた。

「ゴミ袋は、あるからな」

新井の女房の死体を解体している関根は、気を散らさないでくれと言わんばかりに、から返事をした。

「おおっ・・・」

リビングでテレビを見ていたが、新井は落ち着かない。時々、骨を砕くのか大きな音が聞こえてくる。その度に新井の身体はピクンと反応した。

そして、自分が女房を花瓶で殴った事を後悔した。

由紀子の死体は、もう形が判らないほど切り刻まれていると考えると、より強い悔悟の念に苛せれた。

(由紀子の馬鹿野郎・・・)

関根が由紀子の死体を解体していて由紀子の性器の所まで来たとき、関根は既に、興奮して勃起しているのにそれ以上の高まりを感じた。

(兄弟は酒ばかりのんでお○んこをやってやらねーから、可愛いものだ。どれどれケンネル先生が頂くとしようか)

関根はナイフを由紀子の性器に向けると刃を立てて抉り取ったまるで帆立貝の様になった由紀子の性器はシャワーでよく新井小さなビニール袋へ入れておいた。

(全部終わってから焼いて食おうか刺身で食おうか・・・)

それがしたくて関根の死体の解体作業はハイピッチで進んだ。

 

一時間のぴったりで、関根の声が風呂場から聞こえた。

「終わったぜ、兄弟。ゴミ袋を持ってきてくれ」

ゴミ袋を持って風呂場に行くと、洗い場の中央にバラバラになった由紀子の骨と肉片が山になっていた。風呂場の壁は血痕だらけである。関根を見るとパンツ一丁でいて性器が勃起しているのが判った。

自分で関根に、由紀子の死体の処理を頼んでおいて新井は、その凄ましさに、全身の肌が粟立った。

新井が持ってきたゴミ袋を受け取ると関根は、手際よく三重にゴミ袋を重ねて由紀子の解体した骨と肉片を次々に投げ込んだ。

袋は五つ出来上がり、風呂場の上がり場に、袋を置くとケンネルは、次に解体するのにパンツ一枚でやっていたのを脱いで、シャワーを浴び始めた。

「親の血を引く兄弟よりもー、固い契りの義兄弟ー」

北島三朗の兄弟仁義を一節唸りながら、風呂場のエコーに乗って、聞こえる自分の声に酔ったのか自分の死体の始末の手際よさに関根は酔っていたのか、兄弟仁義は、風呂場の壁に優しくエコーしていた。

周囲の様子を窺がいながら、ゴミ袋五つは、新井の車のトランクに、積み荒川目指して走り出した。

予ねて、打ち合わせ通り、荒川に架かる冠水橋である熊谷市の大麻生から、江南町押切に架かっている『押切橋』に向かった。

橋の中央にゴミ袋を運んで、流れが激しい所を見つけ、由紀子の死体を切り刻んである骨や肉片を少しずつ流れに乗せて投げ捨てた。由紀子の肉片は荒川の清い流れの浅瀬をピンク色を綺羅めさせながらきらきらと桜の花の花弁が流れるように散っていった。

「兄弟終わったぜ。これで兄弟も刑務所にぶち込まれないで済む、良いねー、兄弟のために成るのなら俺は大満足だ!」

「本当にありがとう。兄弟がいなければ今頃、俺は、警察の留置場だ。生涯この恩は忘れないよ」

「いいって事よ」

自分でこの文章を書いていて、幾度か嘔吐感が催してきて、手を止めた。だが、この書を書くという事は、人間の命の尊さと欲に溺れた人間の弱さを痛感し、真実の事件そのものを知ってもらいたいからで、又、アフリカケンネルの関根に、自分の可愛い若い者(遠藤)を殺され、その真実が山崎と警察により、糊塗されている現状を許す訳には行かないからである。だが、私は筆を上げない。