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暗い山崎永幸

向島の『豊田』で行われた住吉会との『食事会』は、稲川会長初め住吉会の会長及び幹部達で和気藹々と和やかな内に始まった。

この時代はやくざ社会のデタントの時代で、少し前の東北における先陣争いや頻繁に勃発した拳銃の打ち合いなど稀に成り、一次抗争が起きた場合は、双方の幹部と関東二十日回の当番会が直ぐに歩み寄り、話し合いで済ませるようになっていた。

『豊田』での宴会の時に、栃木県佐野の香京屋一家の遠藤幸夫総長とトイレで十五年ぶりで出会った。慈悲深い微笑を浮かべながら、直ぐ傍に寄ってきた。私はこの総長には返しても返しきれない渡世の義理を背負っている。それは自分の親分であった上州田中一家の総長に命を狙われていた時に、陰で庇ってくれたのである。

「親分ご無沙汰をしております。いつぞやは大変お世話に成りました」

「なにを言っているのだ。何もしないのに、自分の親分に狙われるなどとは、このやくざ渡世にはない。境も酷い事をしたな。それより辛抱をして、天下の稲川会の会長秘書までになってくれて俺は嬉しいぞ」

「有難うございます。親分が陰で守って、いてくれたからです」

「自分の親分である境に、酷い仕打ちを受け良く我慢をしてくれた」

「皆、勉強に成りました。だから今は感謝をしているのです」

「そうだ。勉強になったとか感謝をしているという言葉は良い。今後、境に苛められたですねと、他人に聞かれたら『勉強に成りました』は良い言葉だから使う方がよいよ」

人は嫌な事が自分の身に降りかかると自分の運命や境遇を恨んだりするが、私は、その様な事があった時は『俺は親分になったら絶対に同じ事はしない』と心に誓うのである。だから我意以外皆師である。反面教師とも言われているが、私周りには師が沢山居た。

遠藤総長は肯きながらトイレを出て行った。

遠藤総長は私が上州田中一家の大澤孝次総長の代行をしていて、総長の娘の事で逮捕され高崎拘置所に入っていた時に、後の大前田一家の小田建夫総長の讒言を聞き私が、反旗を翻す為に若い者を多く集め稲川会の上層部に接触しているという捏造した事を恰も、やっている様に仕組んだ、結果、私が保釈で出てきた時に、若い者を使い私を殺そうとしていたのである。

それを、知った遠藤幸夫総長は言ったという『高田はやくざ渡世の宝だ。何も親分に対してやっていないし、反旗を翻す事など考えてはいない。高田の命を境が殺ると言うなら家で(香京屋一家)で守ってやる』そして、私に判決が下りて下獄するまで、私の江南町にある家の周辺に私を護るための若い者を配備してくれていたのである。

だから、今は亡き香京屋一家の遠藤総長は、私の大恩人である。

遠藤総長との邂逅もあり、声までかけてもらい励まされ、稲川会と住吉会の友好を保つ為の食事会も成功して、私個人も遠藤総長と会えた事で向島『豊田』での宴会は、より良いものとなった。

住吉会との食事会が終わり、私の傍に付いている高田嘉人に急いで帰るように指示をした。運転手の清水は、肯くと高速に乗り急いで車を走らせた。

美女木ジャンクションに来た頃には、大粒の雨が降り始めた。

「清水、俺はスピードを出すことには、何も言わない」

私は大粒の雨が降っても、スピードを緩めないで急いで家に帰れという事を清水に伝えた。

一五〇キロくらいのスピードで、関越道を大雨が降る中をプレジデントは進んでいった。

道路標識の所沢インター出口と書いてあるのが、眼に入った。

すると、雨の為に、前方が霞んでいる道路の中央を走っている私の車が、クルリを回転してバックで進み始めた。高田嘉人は大声で指示をした。

「清水、ハンドルを絶対に切るのではない。ブレーキも踏むのじゃないぞ」

高田嘉人は大声で、清水に指示をした。車は後ろ向きで前進しながら、序々に道路脇の壁に近づいて行った。私は足をツッパリ後部座席の窓の上に付いているグリップを硬く握った。

「ドーン」

大きな音を立て車は、道路脇の壁に運転席側の車体が横に衝突し停止した。

「親父さん。大丈夫ですか」

「俺は大丈夫だ。心配ない」

「それより、嘉人お前は大丈夫か、清水は如何だ」

「大丈夫です。それよりこの車を如何するか、迎えは電話して、直ぐによこさせます」

タイワは四本ともバスをしてしまっていた。

「この儘ではしょうがない。直ぐそこが、所沢インターの機動隊の派出所ですから、そこへ行き一応事故を知らせておきましょう」

「清水車は動くのか」

「タイワがバスしていますから、動いたとしても、ホイルで走るようです」

「どうせこの車は、おしゃかだから、動くなら、機動隊の派出所まで運転をしてゆけ」

私はやれやれと思いながら、後部座席のドアを開けたら、直ぐ前を大型トラックが走り去った。

「おっと、危ない」

急いでドアを閉めて車の座席に座った。

「何で嘉人、車が反対向きに成り走ったのだ」

「親父さん。これはバックドロップフィァード現象というのでしょう。兎に角、事故が起きてしまったのですから、この儘、車に乗って機動隊派出所まで行きましょう」

がたがた音を立て車体を軋ませて、私達の乗ったプレジデントは、所沢インターの機動隊派出所に着いた。

「親父さん。この事故を自損事故扱いにしないと清水の免許証の点数がなくなりますから、あくまでも自損事故ということで、機動隊に納得して貰いましょう。

「了解した」

機動隊派出所で事故の調べをしている内に、迎えの車が来た。

車に乗り替え後部座席に座ると、今日一日の様々な出来事が浮かんできて、中国の諺『人間万事塞翁が馬』が実感できた。

関口刑事や埼玉県警一課の『埼玉県愛犬家殺人事件捜査本部』の班長達のお陰で具にも付かない事での逮捕を免れた私は、翌日、大間々市の奥で絵描きの先生等と呼ばれている新井良治の家に行った。

家の前に、鶏小屋のような建物があったので、金網越しに覗いてみた。そこには、異様な顔をした猫が三匹いた。

(おかしなものを飼っている奴だな・・・)

家の中から新井は、何者が来たのかと思ってだろう。細い長い顔に顎鬚をたらして私の方を見た。手には木刀を握っている。

新井は慌てて玄関に回り震えながら戸をあけた。私を眼に入れた新井は木刀をその場に置いて私の直ぐ傍にいて口を開いた。

「親分。こんな所まで来てくれなくても、電話一本くれれば私が出向いて行きますのに」

「この前のテープは、大変参考になった。有難う礼を言うぜ。今日はあのテープの中で片品の山崎という言葉があったが、山崎とはケンネルとは、どの様な関係の者であるか聴きに来た」

既に、私の傀儡となっている新井は、山崎について喋り出した。

「山崎は元ブルドックのブリーダーで有名な男です。ドックショーで関根と知合いに成り、金になると思ってアフリカケンネルの役員になったのです。行田の川崎を殺した時は、関根がローでシアン・リッジバックを繁殖して、金にしようと持ちかけ川崎から騙した壱千万円の内から参百万円配当と受けています。だから、川崎との話が拗れてきた頃は、殺す事まで二人で相談をしたと関根は俺に言っています。従って、山崎は完全な関根の共犯です。それでなければ殺した後、川崎の車を東京の八州口の地下駐車場に運びません。明らかに証拠隠滅の為の行動です。山崎は狡猾で、したたかな野郎です。金のためなら、なんでもする畜生道に落ちている唾棄すべき人間です。ですから山崎を捕まえて話を聞いても全部出鱈目ですから、注意して下さい。山崎の自宅は川越にありますが、現在、住んでいるのは、群馬県の沼田の奥の片品村です。沼田から金精峠に向かう道があります。その道の傍に、ポッポハウスと呼ばれている列車の車両を内装して、住んでいます。住所と電話番号は今、書いて渡しますから、持って行ってください」

私には尾行が付いて新井の家には、埼玉県警捜査一課の埼玉県愛犬家殺人事件専従班の見張りがついている。

余り長く新井の家にいると新井を殺したのかと勘違いされて踏み込まれてもしょうがないと思い。山崎の事について、これで十分であると判断をしたので大間々の奥の新井の家を出た。

(よし、これで後は山崎を、攫って、ケンネルが、遠藤を殺した事を吐かせればよい・・・)

高田組事務所に帰り、翌日、本部長の松本を呼んだ。

「ケンネルの共犯の居場所が判った。これから俺が電話を掛けるから、その結果如何では、この野郎を江南までご足労戴く事になる。松本準備だけはしておいてくれ」

「判りました。いつもの様に『冷凍車』を用意しておきます」

事務所から自宅に戻り、特別時(抗争時)しか使用しない電話で山崎のところに電話をかけた。

「はいっ、島ですが何か御用ですか」

悪い事をする者は偽名を使う。この時、山崎は「島」という姓を名乗っていた。

(可笑しいな、新井が出鱈目な電話番号を教えるはずが無い・・・)

「島さん、あんた本名は山崎だろう」

「・・・・・・・・・」

たまゆら沈黙をしていた島は、しらばっくれても新井から私が山崎である事を知っていると判断して自分が山崎永幸であるのを認めた。

「確かに私は山崎ですが、一体、高田さんが何の用事があるのですか」

「俺は江南の高田だ。あんたに少しばかり聞きたい事がある。俺と話したくねーならそれも良し。話しをしてくれえるなら、今後の事を考えようじゃねーか」

江南の高田を名乗り今の言葉を添えると姿を見る事が出来ない電話の向こうで、山崎が緊張し萎縮した様子が感じられた。

「実はあんたが、アフリカケンネルの役員である事も知っている。只、判らない事がある。それは、高田組の代行である遠藤の埋められている場所だ。教えてくれれば、あんたには、何もしないと誓うから、何でかんで遠藤が、何処に埋められているか教えてくれないか」

「自分には関係がありません・・・・」

「あんたに、関係が有ると言っているのではない。代行の遠藤がいなくなって、始めてのお盆だ。遠藤が夢に出てきて『冷たいよー、冷たいよー』親父さん俺を見つけてくださいと言ってしょうがないのだ。島よ、お前には、高田組は何も危害を加える心算はない。だから遠藤が埋められている場所を教えてくれ」

「自分は知りません・・・」

これ以上、話をしていると島(山崎)が攫われるのを警戒すると考え、私は最後の言葉を山崎に伝えた。

「これから、お盆だから、墓参りに行く、俺がお寺から帰ってくるまでの間、遠藤の埋めてある場所を教えた方が、良いか悪いか良く考えておけ」

私は電話を切ったが、山崎の暗い声と歯切れの悪い対応に気持ちが悪いものが残った。

旦那寺である江南町成沢にある静簡院に行き高田家の墓に、華と線香を上げて先祖様に祈った。

(遠藤が何処にいるのか、教えてくださいご先祖様・・・)

墓参りをする前に、山崎と話して残った気持が悪いものは、消え去っていた。

家に帰り直ぐに、離れに行き抗争時だけ使う電話を手に取り、山崎のところにかけた。

私からの電話を待っていたかの様に山崎は、電話のベルが鳴ると直ぐに電話口に出た。

「おうっ、島か、ところで遠藤が埋まっているところは、水に関係が有るだろう。冷たいーよ、冷たいーよと、俺に霊が叫んでいる」

「自分には関係が有りませんよー」

「関係がないなら、埋めてある場所を教えてくれ」

「あの・・・・・・・・・・・・・・」

「如何した。はっきり教えろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「教えられないなら、お前も共犯だろう。今直ぐ攫いに行くから首を洗って待っていろ」

余りにもズルイというか、決断力が無いというのか、山崎と話をしていると私まで可笑しくなってしまうので、山崎を予定通り冷凍車に入れて攫ってくる事にした。

直ぐに、事務所に行き松本に命令した。

「片品村まで行き、山崎を攫ってきてくれ」

「はいっ、判りました。山崎が暴れると困りますので、運転手の他にもう一人連れてゆきます」

「注意してゆけよ」

「大丈夫ですよ。親父さん」

「綿テープを割れるのじゃねーぞ」

「もうテープは用意してあります。3本もあれば十分でしょう」

こうして、山崎を攫いに片品村に出かけた松本は、事務所に入ってくる道の先を三台の警察車両に前進を阻まれた。

私の所へは関口刑事が来て、松本達が阻まれた事情の説明をした。

「親分。止めて下さい。山崎は我々も要注意人物として、四十六時中、見張りを付けています。捜査員が見張っている前で、山崎が高田組に攫われたとなれば、逮捕しないわけには行きません。だから山崎を攫うのは止めて下さい」

「そうかい。家には見張りだけではなく電話盗聴も仕掛けられているのですね。まあっ、良いや、遠藤の埋めてある場所が判るなら」

「山崎が動けば必ず何等かの動きがあり、ケンネルに接触するでしょうし、親分が山崎を攫うと脅したので、気がきではないと思います。ですから山崎は、絶対に動きます。動けば人と会う。あった者からどんなに卑怯な手を使っても、目的が、風間の連続殺人を暴く事が先決ですから、汚いといわれてもどんな手を使っても、山崎の事は我々が全部聞取ります。

1時間もしない内に、関口刑事から山崎の動き出したのを電話で聞いた。

私と電話で話をした後、大急ぎで山崎は身の周りの品を持つと車に乗り、逃げ出した。埼玉県警の捜査員の尾行が付いているとも知らないで、故郷でもある北陸を廻り、川越大塚新田にある自宅に着いた時、埼玉県警捜査一課の捜査員に、川越署に連行され事情徴収された。この時に、山崎の妻が『詐欺罪』で川越署に逮捕され拘留されていた。山崎は何としても、妻を警察の留置場から出したかった。愛犬家や動物が好きな者は愛欲が強い況して、人には言うことができない秘密を共有していれば尚更である。女房が逮捕されたのを川越署の署員に聞いたとき山崎は完全に理性を失っていた。動物好きな人間のここについては別章で書きたいと予定しているが、矢張り六道地獄の畜生道はもちろん、異常な位の愛欲地獄に堕ちて居る者が大半である。尤も、愛欲地獄は動物が親子・兄弟の見境が無く情交を交すことで犬を商売にしていれば当然と言えば当然である。

川越署に連行され事情徴収された時に、山崎の狡さは発揮された。

「女房を留置場から出してくれれば、ケンネル事件について協力をする」

捜査員が即答をしなかったが、上司や検事が協議をして、山崎の妻は『詐欺罪』から逃れ釈放された。

これが、捜査当局と山崎のケンネル事件の裏の協定の始まりである。

だから、正式には【埼玉県愛犬家殺人事件】は、事実が三割・捏造が七割埼玉県警捜査員に作られた事件である。

事実、高田組代行遠藤安旦が、殺された一九九三年七月二一日、江南町にある遠藤の自宅には、関根・風間・山崎の三人が行き、関根だけが家に入り硝酸ストリキニーネが入ったユンケルを遠藤に勧めた。

その上で犬を繋ぐリード(紐)で遠藤の首を絞めた。遠藤は百キロ近い巨漢である。

まして、人は死んでしまうと重くなるという、それを関根だけでは、家から運んで車に入れるのは、不可能である。遠藤の住まいは、隣が、何メートルも離れていない住宅地である。女房の風間博子が、死体を運ぶのを手伝ったとしても、博子は体が通常の人間より小さい。当然、山崎が遠藤の死体を家の中から、車に移すのを手伝っている。

これをして、殺人の共犯といわなくてどの事を殺人というのだろう。又、遠藤を殺した後、直ぐに運転手の和久井を荒川の堤防脇の道路に誘い出して殺しているのである。

遠藤と和久井を殺した後、関根は山崎に言った。

「島よ。こいつの死体を片品のオメーのポッポハウスに運んでくれ。俺たちは、この若い者の死体を処理してから、ポッポハウスに行く」

山崎が自分の通称ポッポハウスに、遠藤の死体を乗せた車が動き出すと関根と風間は新築したばかりの家の広い庭の隅に、和久井の遺体を博子と二人で穴を掘り埋めた。

直ぐ近くには、アフリカケンネルの従業員のお母さんが既に、埋められていた。

山崎永幸という鬼畜は、埼玉県愛犬家殺人事件の真実を飛んでも無い方向に持って行き真実を闇に葬った狡猾な利己主義者である。

捜査陣営と取引をし、全て己と県警の都合が良いように、事件を歪曲し、殺人罪から逃れたのである。

山崎永幸は、昭和三十一年富山県で生まれた。性格は功利的で計算高く自己保身が異常に強靭な男である。

初めはブルドックのブリーダーとして、犬業界では名が売れていた。アフリカケンネルの関根とは、ドックショーの会場で知合いとなり、お互いに計算づくで、近づいて行った。関根が犬の業界では、日本でも有数である事が解かると関根に頼んでアフリカケンネルに役員にしてもらった。

アラスカからシベリアン・ハスキーを新井の自衛隊時代の友人を使って密輸して、狼と交合させ繁殖させ大々的に売りだしこの狼とシベリアン・ハスキーの掛け合わせは物珍しさとバブルの風に乗り、関根を狂わせた。通常出会っても誇大妄想狂であるといっても、関根を知っている者は皆、腹で笑らっている。この頃は、既に、狼犬で儲けた利益をかなり使いはらした頃であった。

相当の金を持っていた。でも泉谷しげるにそっくりな顔をしていたから女性いは全くもてない。

役員になって直ぐに、関根は行田市の廃棄物業者・川崎明男に犬の繁殖業をやれば儲かる話をし、興味を持った川崎に、アフリカケンネルから、ローデシアン、リッジバックの雄雌を一千百万円で購入させた。

処が、知人からローデシアンは、五十万円位が相場である事を聞き、関根に騙されたと気づいた川崎は、関根に金銭の返還を求めた。それがトラブルとなり、川崎は関根に、一九九三年四月二十日熊谷市にあるガレージに、金を返すと言って呼び出され、栄養剤と偽り、硝酸ストリキニーネ入りのカプセルを飲まされ殺害された。

この現場には山崎は同行していた。硝酸ストリキニーネを川崎に飲ませたのは関根であるが。山崎は一諸にいたのである。

そして、この殺人捜査を混乱させる為に、風間が用意した車を風間が、川崎の死体が乗っている車を山崎が運転をし、東京の八重洲口駐車場に放置をして、川崎が自ら失踪したように工作をしたのである。

八重洲口から帰り、熊谷のアフリカケンネルの犬舎で風間を下ろし、山崎は群馬県片品村にある通称ポッポハウスと近所で呼ばれている自分の家に帰った。

関根はポッポハウスに、帰ってきた山崎をみていった。

「おっ、早いな。俺の方も早番に料理を済ませたぜ。山崎ドラム缶とコールタールは用意してあるだろう」

「社長、仕事は段取りが一番ですよ。この山崎を見損なっては困ります。自分がいなければ、社長には、こんな危ない仕事は出来ません」

一瞬上目使いに山崎を見ると関根は、泉谷しげるそっくりな顔を、歪ませて不気味に笑った。

「山崎よー、ここまでの事を一諸にしたのだから、俺たちは一連托生だ。地獄のそこまで付き合おうぜ」

「元々、社長とは前世で、一諸に悪い事をした仲だったのでしょう。それより折角社長が料理をした物を焼かなければ食えもしないですよ」

こうして、川崎のばらばらに解体された死体は、山崎と関根でポッポハウスの前においてあるドラム缶の中へ投げ込んだ。

「山崎、コールタールを上から流し込め、中のほうまで染みこんだら、ガソリンを少しばかり撒いて火をつけろ」

「オッケー、人間バーベギューの始まりだ」

「オメーも、上手い事を言うなー」

ドラム缶の中の死体は、二人の鬼畜が人間の尊厳を痛めつける様な会話をしている事に怒りを感じた如く、山崎が新聞紙にライターで火をつけたものを投げ入れると一瞬大きな炎を上げた。

「アブネーじゃねぇーかよ、山崎」

ドラム缶の傍から、のけぞりながら関根は本気で怒った。人の命は薪を燃やすように、なんの感情も抱かず火をつけさせるが、その火が自分に及ぶとなんの躊躇いもなく怒る男、それが関根元という鬼畜の性格の一部である。

「すいません社長、それよりこの辺は、鹿が多くいます。近所で鹿の肉でも貰って来ましょうか」

「そうだな。仕事が仕事だから、腹が減った。鹿の肉は、いいから何か食べる物はねーかよ」

「何日も留守にしていたので、冷蔵庫には何も無いのは社長も知っているでしょうが」

「山崎、沼田の近くに行けば、ファミリーレストラン位あるだろう。そこに行き飯を食おう」

「行きましょう」

こうして二人は山崎の車に乗り沼田市内のファミリーレストランに行きユュケの大盛り・カルビ六人前・コムタンスープ1人前ずつ食べビールの中ビンを三杯ずつ呑んでしまった。

食べ終わった腹をさすりながら関根がのたまった。

「山崎、女(すけ)でもいる店はねーか」

「社長の為なら何でもする自分ですが、今は夜中の三時です。女も店も寝てしまっていますぜ」

泉谷しげるそっくりな顔をやにさがらせ関根はビールが効いて来たかのように、気だるい声で山崎に言った。

「もう寝ようぜ山崎よ。女は後で嫌になる位、やりまくればいいぜ」

山崎は直ぐに駐車場から車を出すと店の入り口に滑らせた。30分もしない内にポッポハウスに着くと飛び降りるように車から関根は降りるとハウスの中に入って行き万年床になっている布団の中にもぐりこむと何も無かったように、大鼾を書き始めた。

翌日の朝、ドラム缶の中を見ると川崎のバラバラにされた肉片は、殆どなく骨もスカスカになっていた。

山崎が鉄の棒でドラム缶の中をかき回しながら、川崎の死体の焼け具合を確かめていると何時の間にか関根が、目やにだらけの顔をして山崎の顔をにたりとして覗き込んだ。関根の指示通りにビニールのゴミ袋を何枚も重ね、その中にドラム缶で焼いた川崎の骨と肉片の灰になった物を入れ山崎は、自分が住んでいるだけに、周辺の地理に詳しいので、近くの川場村の薄根川に行き流れが急な所を見つけ、ゴミ袋の中に入っている川崎を焼いた骨と肉片を遺棄した。

ローデシアン・リッチバックの繁殖話から、関根がとんでもない嘘を言っていることがわかり、関根に渡した一千万円の返却を請求した処、関根は言を左右にし、一千万円の金を川崎に返す気持ちは、さらさらなかった。

余り川崎の請求が厳しいので、山崎に相談をした。

「川崎の野郎金を返せと、シツコク電話をかけてくる。この様子では、最後は警察に訴えるだろ言う。山崎如何したらいいか判るか」

人一倍欲の皮が突っ張った山崎は、計算をした。

「一千万円戴いたのだろう。三百万円を俺によこせば、良い方法を教える。社長完全犯罪と言う言葉を知っているだろう」

「完全犯罪、良い言葉だ。山崎判ったから、協力はするのだろう」

「社長と私は、一蓮托生の身ではありませんか。川崎は早いうちに始末をしてしまいましょう」

実際、川崎がローデシアン・リッチバックの売買に対して、疑念を抱き周囲の者達にもアフリカケンネルが、詐欺師である事を口外している。関根としては川崎の口を塞ぐのが急務であると考えていたのである。

「山崎、三百万円やるよ。死体の処理は俺が得意だが、川崎を殺るまでの証拠が残らないようにすることについては、オメーが考えてくれ」

「諸葛孔明という軍師が、劉備元徳にはいた。社長には、山崎永幸という日本でも、稀に見る天才軍師が付いている事を忘れては困ります。で、川崎は早い内に始末をしてしまいましょう」

「火は小さい内に消すのが一番だ」

こうして、川崎を殺す相談をし、密かに川崎を熊谷市のガレージに呼び出すことから、川崎の車を八重洲口に運んで、自ら川崎が失踪したように見せかけた作戦を練ったのは、全部山崎の仕業である。

これ位、悪知恵が発達している山崎が、全部の殺人に拘わっているのにも、拘わらず遺体損壊罪だけで、三年の刑期で済んだのは、マスコミに煽られて、埼玉県警捜査一課が、この事件を早く解決しなければというジレンマに、落ちていた事と、それを見抜き関根の犯した殺人を全部話す事で、警察と山崎の取引が成立していたからである。

従って【埼玉県愛犬家殺人事件】関根が実行犯であるが、川崎・遠藤・和久井殺しを山崎が全部計画したのである。

だからこの事件の全容は、メデァで発表している事は、氷山の一角であり、事件の真実は山崎が、自分が殺人犯の共犯にならない様に、我田引水した供述をでしかない調書が作成され捜査は進められたのである。