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小後田一家の野望

第2弾







六天 舜





   目    次

夜明けの銃声・・・・・・・・・・一

愛警部登場・・・・・・・・・・・二

小鶴建夫の野望・・・・・・・・・三

政治的蠢動・・・・・・・・・・・四

愛の怒り・・・・・・・・・・・・五

小諸と前橋で銃声・・・・・・・・六

狼狽する小鶴・・・・・・・・・・七

小鶴逮捕・・・・・・・・・・・・八



はじめに

京都の公家の血を引く美人で頭脳明晰・果敢な決断力を持って生まれた鷹司 愛は警察官となり、埼玉県警の組織犯罪対策課警部として、熊谷署に勤務することになった。初めての捜査は覚醒剤を取り扱う事では日本でも指折りである秀岡組を相手に、その叡智を振るい蛮勇を示すが、今度は任侠の化面を被った、前橋を縄張りとする小後田一家総長小鶴建夫の反吐を吐きたくなる生き様を知り、愛の怒りが心頭に達し、FBIで先進科学捜査を学んできた明智警部の手を借り、埼玉から群馬そして長野県に広がる偽装抗争事件の解決を目指して、班長山中と部下の白沢や桜場。清水と共に小鶴逮捕に執念を燃やし、到頭、小鶴を逮捕するが、小鶴は留置場の中でお稲荷さんに助けを求める。六天舜ではなくては解からない外道ヤクザの真実を交えてこの物語は進めてられて行きます。読者は、人間にも色々な人がいる様にヤクザにも色々な生き様をしている者がいるという事を知る事でしょう。

夜明けの銃声

 六弥太一家谷野組の事務所当番者である。桐小田仁志は赤城颪が、激しく吹き付けるので植木が好きな組長が、事務所の前に植えた赤松が、折れてしまうのではないかと心配をして、午前三時ころまで眠ることが出来なかった。漸く、眼を閉じて三時間ほど眠り出したら、事務所の窓の方で拳銃の発射音のようなものが聞こえてきた。

何だろうと思い事務所の中に行くと、車の急発進のアクセルを蒸かす音が聞こえた。

(何だ。あの音は・・・)

車の急発進の音が聞こえた東側の窓を見ると窓ガラスが割れて散乱していた。これは拳銃を撃ち込まれたと思い、反対側の壁を見るとそこには、三発の鉛の銃弾がめり込んでいた。

(大変だ!代行にすぐ連絡をしなければならない・・・)

電話を手に取ると代行の木重万作の家に掛けた。

「もしもし、代行ですか、今、事務所にハジキをぶち込んだ野郎が居ました。既に逃げてしまいましたが、どうしたら良いのでしょうか」

「今、親父に連絡をして、これからどうするかを決めるから、とりあえず壁に撃ち込まれた鉛玉と窓のガラスの破片を掃除しておいてくれ」

「了解しました」

三十分もしないうちに、組長である谷野八郎と代行の木重万作は、ベンツに乗って飛んできた。

現場を見た組長が直ぐに指示を出した。

「ハジキをぶち込まれたという事は、うちの辱になる。何にもなかったように至急壁の板とガラスを交換しろ」

万作は細長い顔をして組長に聞いた。

「親父さん。うちへハジキをぶち込んだのは、何処でしょうか、解かったら直ぐに返しをしなければ舐められる」

谷野は無表情で落ち着いた声で答えた。

「今は、おとなしくしている事だ、いずれ近所の通報で警察が来るのは間違いがないから、何を聞かれても何も無かったことにしておけ」

実際に谷野も考えていた。

(俺の事務所を弾いたのは誰だ?俺を憎んでいる奴がいると言うのか・・・)

 谷野が所属している六弥太一家は先代の岡部忠次郎が死去してから、跡目も決まらず内紛状態であった。然し、ハジキを取り出して打ち合うという事は考えられない。

谷野は生来まじめな性格で律義であり、渡世上の付き合いも欠かしたことがない。真面目で律義であるから、やることにそつが無く誠実さが見るからにあふれている。

然し、明け方、自分の組の事務所に拳銃を撃ち込まれたのは、動かす事ができない事実である。

跡目は、鬼塚と二人で三年もどちらか決めかねているのである。

然し、跡目が決まれず三年も経過しているので、業を煮やした五人の六弥太一家の組長たちが、入れ札で籠原を縄張りとしている田高燿大を六弥太一家の跡目と決めてしまったのです。

谷野は代行として、跡目と言われてきた者として承服しがたく、六弥太一家の実弟である新田町を縄張りとして、その人ありと知られた義貞一家の総長である岡部栄治に泣き込んでしまったのである。

ヤクザ渡世が長い岡部栄治は、老獪である。矢野と鬼塚が泣き込んで行った時既に、跡目問題を決める決定権を握ったのある。

(実の兄貴の跡目を決めるのに俺が、決めなければ誰が決めるのだ。今後の為にもこの件に付いては俺が決める・・・)

他の一家の跡目問題に主導権を取り、傀儡化しようとすることを知っている六弥太一家の組長たちは全員が反発した。

義貞一家の総長である岡部栄治は、谷野と鬼塚を手元に置き、田高燿太を呼びつけた。もともと田高はヤクザを始めたのが、義貞一家の岡部に惚れ込んでの事であったが、余りにも勢いが有った田高を用心し始めて、猜疑心を持ち実の兄でもある六弥太一家の岡部忠次郎に養子として、当時いた田高の子分五十数名を全員義貞一家置いてゆかせ田高をたった一人で六弥太一家に送り込んだのである。

それから、五年の歳月が流れ養子先の六弥太一家でも今度は、二百人からの子分を持つように田高は成っていたのである。

田高は、任侠一筋の男で曲がったことは大嫌い是非のはっきりしているヤクザで、ヤクザ同士の喧嘩も負けたことがなく、孫子の信望者でもある。

六弥太一家の跡目問題で何度も新田町にある義貞一家の総長である岡部栄治の家に呼ばれ理屈にない理屈をつけて、栄次は田高を跡目から引かせようとしたのである。

その様な事ばかりやっている内に、田高が山稲会の三代目会長の直参若い衆になってしまった。

このことで余計に栄次は猜疑心が強くなり、あの手この手を使って田高を籠絡しようと考えて行動に移していた。

田高は、直参になったので跡目はもう良いと思っていた。然し、栄次の執拗な田高落しは続けられていたのである。

一方、谷野と兄弟分である鬼塚は、すっかり、栄次の傀儡となり始めて毎晩やけ酒を飲むようになっていた。

だから、谷野の事務所に拳銃を撃ち込む可能性は無いのである。

(しかし、田高が軽率な事をするわけがない。可笑しい誰がうちの事務所にハジキを撃ち込んだかは、しばらく待ってから結論を出そう・・・)

谷野の出した暫く待つと言う考え方は正解であった。

田高組では跡目問題で絶対に、喧嘩沙汰にはするなと組長が子分に言っていたのである。

田高も谷野の事務所に、拳銃がぶち込まれたと言う情報を得て代行の遠藤安次郎を呼びつけた。

「遠藤、谷野組にハジキを撃ち込んだのは家じゃないだろう」

 安次郎は組長の眼を正視し言葉を返した。

「それはやっちまえば簡単ですが、そういう訳にもいかないでしょうし、親分から跡目問題で間違いを起こすなと言われていますから、私はじめうちの者は全員そんな事はしていません」

「それでは誰が、谷野組の事務所にハジキを撃ち込んだのだろう」

「解かりませんが、家の所為になってしまいますから、私なりに調べてみます」

「そうかそうしてくれ遠藤」

 この谷野組に拳銃を撃ち込まれたという事は、北関東一円に話が広がった。


 近所の人の通報できた本庄警察ではヤクザの抗争に広がる虞があるこの事件の捜査を埼玉県北部組織犯罪対策課に応援依頼をしてきた。

班長の山中は本庄署からの要請を行けると直ぐに現場に飛んで行った。

然し、谷野組の代行である木重万作は、知らぬふりをして山中に言った。

「お歴々が、おい出まして今日は何かあるのですか」

きたなと思い山中が、定石通りに一枚の紙切れである家宅捜索令状を出した。

「悪いが家宅捜索をさせてもらうからな」

「どうぞ、気の済むまで探して観てください。何もありませんから」

 山中は連れて行った白沢や清水・桜庭と本庄署の捜査員を含めて十人ほどで弾痕が有ると思い徹底的に探したが、窓ガラスは割れていないし、壁板も何処にも弾痕はなかった。

(これは既に、全ての証拠を処理してしまったな、この辺で止めて帰り、愛警部に報告をしてから、あの切れ味のよい頭で、判断してもらう事しかないようだ・・・)

愛 警部登場

山中警部補と本庄署員達の谷野組に対する銃砲刀剣類所持違反の家宅捜査が終わったのは、午前十時過ぎであった。山中班長・白沢・清水・桜庭の四人は埼玉県北部組織犯罪対策課が、設置してある熊谷署に戻り鷹司 愛警部のデスクの前に行き家宅捜査の顛末を報告した。

「そうですか、何も出ませんでしたか、仕方がないわね。谷野組長もヤクザ渡世が長いという事だから、拳銃を撃ち込まれたことを恥じているのね。いい山中さん。山稲会の北関東ブロックの直参の者のヒエラルキーを書きだしておいてください」

「了解しました警部殿」

山中は自分のデスクに行くと便箋に、山稲会の北関東ブロックの直参の親分たちを役職順に書きだした。

山稲会 常任相談役          義貞一家総長     岡部栄治

山稲会 執行部            小後田一家総長    小鶴建夫

山稲会 北関東責任者・六弥太一家代行 谷野組組長      谷野八郎

山稲会 直参             鬼塚組組長      鬼塚英雄

山稲会 直参・会長秘書        田高組組長      田高燿太

 そして、故人となった六弥太一家の総長である岡部忠次郎が、山稲会の最高顧問でいたことを便箋に書いて愛 警部に渡した。

愛はたまゆら山中が渡したメモを見つめていたが、メモから目を離すと山中を見てにっこりほほ笑んだ。

「少し、教えてほしいことが有るの、山稲会に於いての役職や地位は解かったわ。それよりこの直参の者の個人的関係は如何なの?」

「この地域は殆どの親分が、岡部の兄か弟に従っていたものです。谷野・鬼塚は六弥太一家の岡部忠次郎の若い者で高校生からの兄弟分で、小鶴と田高は義貞一家の岡部栄治の子分でした」

「田高と小鶴の関係は如何なの」

「田高が義貞一家に居る時は、総長代行をしていて小鶴は唯の組長でした。如何せん、田高は懲役が長くて社会に居る時間が有りませんでした」

「兄弟分とかは成っていないのね」

「田高が代行をしていた時は、義貞一家が急成長をしていた時ですから、一家内の組長にかなりきついことを命じていたようです。小鶴は口には出しませんが、内心面白くないのではありませんか」

愛は、首を少し傾けて考えるような仕草をした。

「小鶴の性格はどうゆう性格?」

「何しろ、浅草の橋高君にいたころは、女を三人も抱えてヒモをしていたくらいの男ですから、口先は上手いし猜疑心も強く口八丁手八丁の強かさを持ち我々としては扱いにくいヤクザです」

小鶴が三人の女を抱えてヒモをしていたという言葉を山中が言った途端、愛の顔色が変わった。

「酷いものですね。小鶴と言う男は、例え今度の件に関係がなくても許せないわ。班長、良く解かったわ。少し考えてみるわ。解からないことが有ったら、又教えてください」

山中は、愛警部に教えてくださいなどと言われると、自然気持がうきうきして、仕事もやる気が出てくるのであった。

愛はデスクに両肘をつき掌を頬に充て暫く考えていた。

(この問題は、山稲会の地位争いか、北関東のおける影響力・そして、六弥太一家跡目争いか。どこにこの事件の動機が隠されているか知ることが、先決だわ・・・)


翌日から山中の山稲会の直参親分の自宅周りが始まった。

愛が山中に命じたのは、谷野組発砲事件を知っているかどうか、知っていたなら、どのように思っているのかである。

先ず、山中は、籠原にある田高組に電話を入れて組長の都合を聞いた。今日なら直ぐ会うと言ってくれたので、白沢に運転をさせて二人で田高の自宅が有る籠原自衛隊の近くにある家を訪ねた。

田高は笑いながら、山中を向かい入れ応接間に通した。

「班長、今日は何の用事が有ってきたのかい」

「ご存知であるとお思いですが、実は谷野組の事務所に拳銃が撃ち込まれたのです。このような状態は良くないことを警察としては連想します」

田高は、にこにこ笑いながら、明らかに谷野組への発砲事件は知っているような顔をしながらとぼけていた」

「それは大変じゃないか。誰がやったのだ。この辺であまりハジキの音をこかせては駄目だな」

「知っているとは存じますが、警察当局としては組長の所が、谷野組の事務所を弾いたと推理しています。但し私は違うと思っているのですが・・・」

田高は腕を組むと口元を引き締めて言った。

「六弥太一家の跡目の件を考えると俺の所で谷野組の事務所を弾いたとしか受け取れないだろう。然し警察の前でいう事ではないが、俺の所ではガラス割りは禁止している。むやみやたらにハジキを撃つな、打つ時は相手を殺すつもりで打てと常に言っている。あんなガラス割りをする奴は俺と谷野を喧嘩させたくてやっているんじゃないか」

(そうか、そういう解釈もあるなーみすみす直ぐに分かるようなことは、田高組はやらないだろう・・・)

これ以上、田高に聞くことはないと判断した山中は、田高にいとまを告げて家を後にした。

「班長、何か掴むことが出来ましたか」

車の中で待っていた白沢は聞いた。

「一応は、我々警察は如何も単純に考えてしまうようだ。人には沿ってみろ。馬には乗ってみろと言う言葉が、身を以て感じられる」

「おい、白沢・谷野組長に電話をかけて、あってくれるかどうか聞いてみろ」

「了解いたしました」

 徐に、携帯電話を取り出すと白沢は、谷野組長に面会を求めた」

「組織犯罪対策課の白沢と申しますが、組長うちの班長が会いたいと言っているのですが会ってくれますか」

 瞬時、無言でいた谷野組長は、呟くように言った。

「何もないことで俺が合う必要はない。そんな事おかしな問題だ」

 山中が予想をした通りの返事が返ってきた。

「白沢、もういい。何も家宅捜査で出ていないのに、会う方がおかしい。署へ帰るぞ」

組織犯罪対策課に帰り、田高と会ってきた時の話を愛警部に報告をした。

「田高は白ね、それより、跡目争いに関係がないもので谷野と田高を戦わせて漁夫の利を得る者がいるという事ね。この度の発砲事件は正統派ヤクザではなく邪な考えを持つ外道の仕業だわ」

愛のその言葉には既に、発砲をしたのは何処の組織であるか、確信を持ったようである。

ヤクザであっても全部が悪い人ではない。ヤクザ渡世の筋はヤクザでない人が、社会で生活をして行く上で持っていなければならない倫理道徳より、厳しいものがある。任侠と言っても所詮は、人としていかに生きるべきか、であると思える。

「山中班長、明日は前橋の小後田一家の小鶴建夫の所に行ってきてください。きっと何かを掴むことが出来るような気がします」

「解かりました。今日のうちアポを取っておきます。まあ、警察に自分の身を守る為に時々情報を流す便利な人だから、直ぐに会えるでしょう」

「ヤクザ仲間の情報を流すと言うの酷い人ね。こんな人はヤクザでもなければ人でもないわ。班長、心して小鶴に会ってきてね」

小鶴建夫の野望

小鶴は栃木県宇都宮市で昭和一九年に生まれた。子供のころから体が小さく勉強もあまりできなかったので、劣等感を常に持っていた。中学を卒業してすぐに浅草の『武井靴店』に就職をした。店員である。然し、劣等感の塊のような性格は店員には向いていない、六ヵ月で止めて箕輪にある山谷に行き日雇い労務者となったが、これも体が小さくて肉体労働に耐えることが出来なかった。ドヤ街の安宿に泊まっていたが、土方人足は務まらないと思いその日は安宿で寝ていた。

「おいっ、坊や今日は仕事をしないのか」

人夫だしをしている橋高組の若い者が、小鶴が出て来ていないので安宿に迎えに来たのである。

小鶴は震えながら、今日限り人夫を遣らないことを告げた。

「それじゃ食って行けねーだろう。仕様がねーな内の組に来るかい」

小鶴はヤクザになれば、今まで自分を馬鹿にしていた者を見返せると思った。

「宜しくお願いします」

 大きく頷いて橋高組の岡清は言った。

「おれは岡清だ。今日から俺の舎弟に成れ」

 その途端、小鶴は武者震いがした。

(俺も外車に乗って背広を着て宇都宮に帰ってやるぞ・・・)

 こうしてヤクザになった小鶴は、橋高組の兄ぃ達がやっているように、懸命になり、吉原のトルコ(ソープ)嬢をしている女性を見つけ始めた。

一年後には、二人のトルコ嬢を見つけて見事に自分の当時の志を達成した。それでもトルコ嬢を大勢持つという事は、器量がるという事を証明する世界の橋高組である。

小鶴は三人目のトルコ嬢を持とうとして、今までいた最初のトルコ嬢が、ジェラシーを燃えさせた。

「今まで、アンタに良い顏をさせた来たのは、誰だか解かっているのに、何さ又、女を作って」

「うるせいアマで黙っていろ」

「黙って何んていないわ。アンタのあそこが、短小であるのを皆に言ってやるから!」

小鶴はそばにあった花瓶でトルコ嬢の頭を叩き割った。花瓶が割れて女性は十針も縫う大怪我をした。それで傷害罪となり、懲役四年を判決された。控訴をして二年ばかり娑婆にいたが、兄貴分の岡清に言われた。

「いい男が懲役を震っていたんじゃ、男にはなれねーぜ」

この一言で小鶴は府中刑務所に服役したのである。

 府中刑務所の東部三工場で義貞一家の外島と同房になり、その縁で義貞一家に橋高組から養子に出されたのである。

田高が、先輩として義貞一家では総長代行をしていたので、小鶴はやりたいことが有っても何も出来ずにいた。

小鶴がやりたいことは覚醒剤の販売である。

 然し、一家の為に懲役が多かった田高の留守に、総長へ胡麻をすり、代行の地位まで上り、尚且つ、山稲会に影響力がる人物に、金や物をプレゼントして到頭、山稲会執行部に這い上がってしまったのである。


山中班長には小鶴は直ぐに会ってくれた。前橋市住吉町にある事務所の二階の応接室で小さな体を大きく見せようとして肩を怒らせ、胸を張って山中の応対をした。

「総長、本庄の谷野組へ拳銃が撃ち込まれたのを知っていますか」

「知っているよ。田高組がやったのじゃねーのかい」

「何故、田高組と解かるのですか」

「蛇の道は蛇と言うじゃありませんか」

山中は初対面であるが、小鶴の狡猾な人柄を既に見抜いた。

(警察に対して、同じ山稲会の者が、拳銃を撃ち込んだと言う者は聞いたことはない。況して総長である。怪しい・・・)

「この件に対して、どのように考えているのでしょうか」

「谷野も谷野だけど田高も田高ですよ。跡目になりたくて同じ一家でハジキをぶっ放すなんてヤクザ渡世にはないですよ」

「それでは山稲会の上層部ではこの件は、田高がやったと考えているのでしょうか」

「あんた馬鹿を言ってはいけないよ。田高が谷野の所にカチコミ(ガラス割り)をした。などと言えるわけがないよ」

「そうですね。そんなことがばれたら、山稲会の威信に関わることだから、知っていても言えないのが本音でしょう」

「あんた、山中さんと言ったね、頭の回転がいいね」

 小鶴はスーツの内ポケットに手を入れると、現金が入っていると思われる封筒を出した。

「ご苦労様です。車銭にしてくださいよ」

「当職は絶対にそのような物は受け取りません」

小鶴はオヤッ、と言う顔をして封筒をスーツの内ポケットに戻した。

(こんな野郎もいるのかよー埼玉県警には・・・)

小鶴が思ったように山中班長も思った。

(小後田一家の総長で山稲会の執行部と言うが、その辺にいるチンピラと少しも変わりがない。谷野組発砲事件もこの男に大いに関係が有るぞ・・・)

これ以上、小鶴の事務所にいても小鶴の人間的毒気に当てられると考えて、山中は小後田一家の事務所を後にした。

熊谷署の組織犯罪対策課に戻り、愛警部に会って感じた小鶴の印象と吐いた言葉を伝えた。

「最初から、小鶴建夫と言う人物は胡散臭いと思っていたわ。谷野組に発砲させたのは必ずこの男だわ。でも狐のような狡猾さを持っているようだから、この事件の捜査に対して、小鶴は対象外と思わせて進めて行くようにして頂戴」

「了解いたしました。私自身が会って観て聴いて小鶴はその名のように狡い人間の様です」

「それと、義貞一家の総長である岡部栄治にも、会ってみてください」

「そうですね。山稲会の北関東の重鎮として、君臨できるか否か、岡部栄治には理由があるわけだから。この事件に直接関係がないとしても会っておくことは、事件の解決に、必要な情報を手に入れることが出来るかもしれないわ」

「白沢、義貞一家の総長に電話を入れて面会を申し込んでみろ。きっと、自分の都合の良い日を言ってくるはずだ」

「早速、電話をかけてみます。あの総長は回り諄くて、複雑な人だから、捜査といえどあんまり、会いたくない人ですね」

「解かっているから、早く電話を入れてみろ」

 義貞一家の総長である岡部栄治は、国士舘大学を出ている。国士舘大学と言ってもヤクザの世界では、一応大学でのインテリ―で通っているのである。

自分で意識してかしないでか、だからであるか、話が回り諄いのである。

だからヤクザの世界でも、栄次と話をすることが嫌なものは多くいる。

己に優しく人に厳しいのである。そして、ヤクザは金ではないと言いながら、若い者には飽くことがなく上納させる総長である。

言葉巧みに表面恰好が良く、裏では小鶴なんて足元にも及ばない老獪さを持ち六十歳を過ぎてもヤクザ渡世の甘い汁を吸っているのである。

この岡部栄治と小鶴建夫を相手に愛警部は、今後、如何なる捜査を始めて行くのだろう。この二人は若い者に拳銃を持たせて、人を殺すことを厭わないヤクザである。

愛は既に、県警本部及び群馬県警本部から、岡部栄治の資料を提供してもらっていた。

(精神分裂症に近い人で潔癖癖のある人だわ。昔、覚醒剤でもやっていたのかしら・・・)