ハンニバルのブログ

004



































組織犯罪対策課警部

鷹司 愛

5弾 義捐金殺人事件

恐喝

センチュリーハイアットで、クラブの女性と夜が明けるまで交合を繰り返していた田池は、睡眠をたっぷりとり満ち溢れた顔をしていた。

坂北がホテルの部屋に迎えに行った時は、午後2時を少し過ぎていたのである。

「坂北君、ありがとう。こんなに素敵な思いをしたことはない。又お願いできるかな?」

「いいとも、学生時代もそうだったが、おれもやくざを遣って女を見る目が高くなったから、田池君、今度は君の目の玉が飛び出る位の女を用意するから、楽しみにしていてくれないか」

「坂北君のこんなことまでして貰って、僕は如何してお返しをすればよいのだか解らない」

「そんなことは気にしないで、俺と一緒の時は学生時代に戻ったと思って、日本赤十字社での嫌なことなど話してくれればいいじゃないか」

「社では前の会社もそうであったが、会社の裏の部分ばかり受け持っていたので、自分の良心との闘いでストレスが高まり、自殺まで考えたことがあったが、人生にはこの様な楽しい事もあると思うと自殺を考えた僕が馬鹿であることが解かるよ」

(君の馬鹿は女好きである事だ。大学時代から馬鹿だったよ。それではそろそろ引き出しを開けてみようか・・・)

「田池君、日本赤十字社は名誉顧問に、皇后陛下を祀りあげている。社長の近衛忠輝だって元は貴族だろう。経団連の米倉・元放送協会会長で物議を醸しだした海老原勝二・魑魅魍魎としている様な気がしてならない。この様な人物の下で、現在、会社を経営している者達が多くいるという事は問題がある上に、伏魔殿の様な所だろう」

「坂北君、君はやはり洞察力ある。日本赤十字社は日本の伏魔殿だよ」

「近衛という人は近衛文麿の関係者だろう。近衛と東條は日本を戦争に引きずり込んだ張本人だ。この関係者が日本赤十字社の社長であるとは日本の国はどうなっているのだろう」

「だから、僕が伏魔殿だと言っているのさ、畏れ多くも民間の事に疎い皇后陛下を名誉顧問に祀りあげて、外部からの攻撃を避けているのだ。日本赤十字社の闇は深い。僕が知っている事だけでも三百憶円の金を民間の疑わしいファンドに投資して、全額損失を出して社長や副社長・本社理事たちは、知らぬ顔をしているのさ」

坂北は日本赤十字社が、魑魅魍魎としている世界である事をパソコンの情報で知っていた。

東日本大震災の義捐金も十パーセントは、日本赤十字社々の社員の供与とボーナスに当てるとの事をである。坂北は考えた。一億円の十パーセントなら一千万円でこれを社員の給与やボーナスに充てるという事は納得ができるが、聞くところに因ると、東日本大震災では平成二十五年現在で四千憶円の義捐金が集まったと言う。四千憶円の十パーセントは坂北には直ぐに計算で来た。

(四百憶円の金を社員の給与やボーナスに充てると言う事はどうゆう事なんだ。幾ら皇后陛下が、名誉顧問であってもこれでは余りにも、皇后陛下を蔑にしているのではないか・・・)

坂北は思想的には柔道を遣っていた位であるから、右翼的である。恐喝をするという目的があるが、それとは別に日本人の一人として義憤を感じた。

然し、日本赤十字社の奥は深い。危険な匂いもしないではなかった。

「田池君。僕は純粋に日本人の一人として、義憤を感じた。先ずは最初に義捐金から、民間の疑わしいファンドに投資したと言う事実を教えてくれないか」

大分、自分の良心が痛んでいたのであろう。田池は立て板に水を流すように喋りはじめた。

「君はアブラハム・プライベートバンクが「いつかはゆかし」と言うサービスを始めインターネットやテレビで広告を流し始めた事を知っているかい」

「少し前にテレビで被害者がインタビューを受けていたのを見たことがあるが、俺には、ファンドなどという事は場違いなので細かい事まで記憶にないな」

「既に被害者が続出しているのを承知で、三百憶円を義捐金の中から投資をしたという事だけで法的には違法だろう。違法を承知で何故、アブラハム・プライベートバンク「いつかはゆかし」に投資することも不思議であるし、一年も経過しない内に全損したという事も不思議、これに対してクレームもつけない事も不思議、不思議だらけの伏魔殿だよ」

田池は坂北に言いたいことが、まだまだありそうであるが、坂北の気持ちはもう決まっていた。日本赤十字社の誰が指示をして誰が担当したかである。

「アブラハム・プライベートバンクは日本赤十字社の誰が指示して担当者を決めて投資をしたのか教えてくれないか」

「ズバリ教えよう。アブラハム・プライベートバンクの「いつかはゆかし」の三百憶円投資をするように指示をしたのは、日本赤十字社の副社長である小塚春義氏で実際に担当したのが、本社理事である日本赤十字社の血液事業部長の北本至氏であるのだ。これは北本氏の秘書をしている。浜茄子洋二氏と僕が社内で一番の友人で紐帯も固いので、僕だけに教えてくれたことさ」

「日本赤十字社の副社長の小塚春義が命令をして、本社理事の北本至がアブラハム・プライベートバンクの「いつかはゆかし」に投資したという事だな」

「そうだよ。坂北君」

「聞いておきたいことがある。田池君、北本至とはどうしたら会えるかな」

暫し、考えを巡らせていた田池は思いついた様に言った。

「北本至の住まいは広尾にある。僕がインターネットで広尾の地図を出して北本の家に印をつけてやる」

「それはありがたい。俺は新宿や赤坂は詳しいが、広尾だなんて高級地は行った事がない。でも、それも良いが、君と車で家の前に行き、実際にあれが北本の家だと教えて貰えば簡単で良いじゃないか」

「そうか。それが好い。今すぐにでも行って見ようか。北本は午後1時出勤だから、今は家にいないとしても二十歳も年下の元歌手が、良家奥さん貌をしているだけさ」

「田池君、お金があれば、歌手やタレントでも自由にできるという事は素晴らしい事だね。君も努力をして日本赤十字社の大幹部に成ればチョイじゃないか。だが俺は『日本赤十字社』の乗り込む」

田池は下を向いて、クスクス笑いだしたいのを堪えていた。

「坂北君、日本赤十字社はそんなに甘いものではありませんよ。先ず家柄・そして過去どのような役職についていて影響力があるか。だから、各会の最高役職をこなした者を副社長や本社理事として如何なる者からも、攻撃を受けない様に作ってある伏魔殿組織だ。外国にあるシンジュケートのようなものだよ」

「そうかい。それ程までにガードを固めるという事は、悪い事を遣っているという証拠だ。俺は日本国民の一人として、君が教えてくれたアブラハム。プライベートバンク「いつかはゆかし」に投資した訳と損益分を何故、請求しないのか北本に良く聞いてみる。取り敢えずはアブラハムの件を遣り、次はまだまだあるだろうから田池君、教えてくれないか」

「坂北君、僕がどれ程、情報収集能力があるか、君が女性を自由に操る能力に優ると自負しているんだ」

(田池は馬鹿な事を言っているなー、俺と能力を競った処で何に成る。競う対象が馬鹿馬鹿しい。でも疲れているのだろう。大事な情報を持って来てくれる学友だ。大事にしなければ罰が当たる・・・)

「俺は君の様な学友を持って幸せだよ。それにしても日本赤十字社と言うのは偽善も偽善大偽善だな。田池君、俺が日本赤十字社を攻めるだけ攻めて金を掴むから、その時はフリピンでも行ってファンドでも経営して、二人で優雅に暮らそうではないか」

坂北は現在フィリピンで計画している事がある。それには資金が潤沢でなければ成らないが、日本赤十字社を恐喝すれば、百憶単位の金は入ると思い込んでいた。だが、日本赤十字社は坂北の様な女性を餌にして食べている様なやくざの元組長などには、手の届かない暗部と底の知れない部分があることを気づかなかった。

(取り敢えず、アブラハム。プライベートバンクの「いつかはゆかし」の不正融資をネタに百憶ばかり戴いてやろう・・・)

 

 

難航する捜査

愛の従娘の美香の見聞で死体の傷はメスである事と血液を抜かれている事が明白になった。

そしてこの殺人事件の容疑者は、医者以外にはいないという結論に至った。熊谷署の会議室で組織犯罪対策課全員が、秘密裏に会議を始めた。勿論、愛の要請で従娘の美香も出席していた。

愛・美香・山中・白澤・中野・清水・桜庭・の七名は愛と美香を中心にして座った。

「この度殺された坂北隆は、医師にメスで首の頸動脈を切られた上に、血液まで抜かれた。荒川に捨てられた例がない一見猟奇的殺人です。当然、これから坂北と交友があったと思われるこの近辺の医師を拾い出して、関連を洗います。班長始め白澤さん。この事件には大きな裏がある様な気がしてなりません。然し、それはそれとして坂北と交友があったと推測できる医師は全員洗いましょうか」

この事件が発覚した時から、府に落ちない事ばかりで、手をこまねいている山中ではあるが、解かりにくいだけに異常なくらい闘志を燃えさせているのである。

「白澤・中野・清水・桜庭熊谷市及び深谷市更に、荒川近辺の病院の医師の名簿を埼玉県医師会に請求をしろよ」

「了解致しました。早速。名簿の請求を致しますが、その中で誰が坂北と交友があったと見つけるのですか」

「俺が、坂北の元の彼女たちを署に呼び一人一人聞く事にする。坂北は鉄人ではないから病気の一つくらい持っているだろうし、かかりつけの病院もあるはずだ」

そう言うと山中班長は、口髭を歪めてにたりと微笑んだ。こんな時の班長は何か隠し持っている時である。

その山中班長の自信を喪失させるような事を美香が喋り出した。

「人間の血液を抜くという事はそれ相当なシステムが必要です。人工心肺装置がなければ血を抜くという事は無理です。従って、捜査の対象は人工心肺装置がある病院に限られます。ですから先ず、人工心肺装置を備えている病院を見つけてください」

「そうゆう事だったの美香、それでは捜査の対象が限られてきて、絞り易く成ったわね。矢張りあなたを連れてきてよかったわ」

「でも、お姉さん。人工心肺装置を設置してある病院は東京が多いわ」

「そうなの、でもまずは「隗より始めろ」と言う言葉通り、埼玉県北部を中心に捜査を開始する事にしたわ。皆さんも医師が相手では手慣れていないと思いますが、最後まであきらめないで、捜査に忠実に当たりこの殺人事件を組織犯罪対策課の面子にかけても解決しましょう」

「及ばずながら、この山中不退転の覚悟でこの事件の捜査に挑みます。暴走をするかもしれませんが、警部その時は宜しくお願い致します」

白澤始め中野・清水・桜庭たちも口元を結んで白澤が言った。

「何が出て来ても鷹司警部が、俺たちには付いている。怖いものなどないよな」

他の三人も大きく頷き鼻息も荒くなったようだ。

「それでは早速、病院を当たって見ます」

白澤が腰を上げると中野・清水・桜庭も椅子から腰を上げて愛警部に一礼をするとドアの方に向かった。

「待って、私の記憶では埼玉県で人工心肺装置がある所は、最初に『埼玉大学病院』次に『さいたま市赤十字病院』えーそれに和光市の『埼玉病院』位は解るわ、その他にも沢山の心臓外科をやる病院が人工心肺装置はあるわ」

「美香、心臓の手術を行う病院は、全て人工心肺装置を持っているのね」

「人工心肺装置がないと、心臓の手術は出来ないわ」

山中班長はそうか。と言う顔をした。

「美香さんのアドバイスで、病院を絞る事が出来たじゃないか。白澤お前は以前さいたま署に勤務していたのだから『さいたま赤十字病院』を当たってみろ。中野、お前も和光市で交番勤務をしていたな『埼玉病院』はお前が捜査に当たれ、後は愛警部の指示に従って俺と一諸に動けばよい。警部どうでしょうか」

「宜しいです。この度の事件は、元やくざが被害者であるけれども、殺人の方法や血液を全部抜いて腐乱を遅らせると言う専門家でなければ考え付かないし実行できない殺人です。医師は薬物でも何でも人を殺す事が出来る物を持っていますから、課員は全員注意を怠らず捜査に当たってください」

山中の指示に従って白澤は、さいたま市の中央区上落合にある『埼玉赤十字病院』に行き心臓血管外科の専門医である卜部樹一医師に有った。

卜部医師は埼玉県における心臓手術の大家と言われている傲慢な医師であり、白澤を見下して話をした。

「いきなり写真を持って来て、この男を知りませんかはないだろう。幾ら警察であっても私に対して失礼ではないか」

白澤はこの先生はどんな感覚を持っているのだろうと思った。

然し、笑顔を絶やさず微笑みながら、詫びる必要がないのに詫びながら、次の質問を浴びせかけた。

「先生、失礼をいたしました。ご勘弁ください。見た通りの若造です故、先生のご高名を存じおらず、心からお詫びを申し上げます。先生は心臓外科の第一人者であるという事を警部から、言われて来たのに私は馬鹿な男です」

白澤の話を聞いていた卜部医師は気分が良くなったような顔をした。

「君、僕に聞きたいことがあれば何でも聞きたまえ、心臓の事では誰にも負けないぞ」

「実は人工心肺装置のことを聞きたくて参りました。心臓外科の第一人者である先生がいらっしゃいますこの『埼玉赤十字病院』には人工心肺装置は勿論ありますよね」

卜部医師は白衣の胸を反らして鷹揚に応えた。

「何を隠そうこの病院に人工心肺装置を設備するという事は、僕が当初強力に推進したからであり、現在と成りあの時、僕が他の医師にとやかく言われたが、こうして人工心肺装置を設備してこの『埼玉赤十字病院』がどれくらい恩恵を被っているか、現在を見れば解かる」

「先生は先進的な素晴しい事をおやりになった人です。この様な先生にこの様な質問をして良いのかどうか解かりませんが、失礼があったらご許し下さい」

既に、自分の偉大さを認めた白澤には、卜部医師は心を開いていた。

概ね、医師と言うものは先生・先生と言われて、毎日生活をしているので、自然に自分は特別なものであると言う錯覚を起こし易い。所謂、医者馬鹿と言うのであろう。医学上ではすぐれているが人間的には成長が止まっているのである。どうやら心臓外科の埼玉における第一人者の卜部医師は典型的なこの形の医師の様である。

白澤は微笑むのを止めて卜部医師に再び質問をした。

「はっきり申しましょう。昨日、荒川の中から死体が上がりました。その死体の首の頸動脈が、メスで切られその上に血液が全部抜き取られていたのです。先生、医学的に見てこの様な事を如何にお思いでしょうか」

白澤の言葉を聞き卜部医師は如何にも考えているような素振りを見せた。そして組んでいた腕を崩すと徐に、口を開いた。

「この犯人は医学の心得がある者の所為であるとしか考えられない。メスを使い頸動脈を切り、そこに人工心肺装置を付けるという事は、もっての他であるが、この犯人の医師としての、倫理道徳が何処にあるのか聞きたいぞ」

白澤はこれ以上この先生に質問しても、答えは出ないと考えて『埼玉赤十字病院』の卜部医師の部屋から出て行こうと思った。

「卜部先生。大変参考に成るお話をして頂き、誠にありはとうございます。先生の貴重なお時間を頂戴いたしまして失礼いたしました」

「君、心臓外科の事で解らない事があるなら、いつでも僕に聞きに来たまえ」

「有難うございます。その節は又、宜しくお願い致します」

卜部医師の部屋を出て『埼玉赤十字病院』の正面玄関を出ると白澤は大きく息を吐いた。

(疲れるな・・・)

白澤のさいたま市まで来た捜査は無駄足に終わった。

 

 

六天 舜

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