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組織犯罪対策課警部

鷹司 愛

5弾 義捐金殺人事件

六天 舜

 

 

 

 

はじめに

阪神淡路大震災では一七九三憶円もの義捐金が心ある人達から寄せられた。東日本大震災では、二〇一一年三月二五日現在で四百一億もの善意が寄せられた。この人の善意は、二〇一一年三月三十一日の地震発性から二十日余りで、一千億円を超えた。

現在では天文学数字の義捐金が、日本赤十字社に集まっている筈である。日本赤十字社は寄付を騙り、町内会組織からも集めさせ全ての寄付金や義捐金の中から、社費とし私用して潤沢な善意の金から高額なボーナスまで出しているのだ。

一千億の義捐金や寄付金の金利を想像しただけでも一般社会の人達は驚くに違いがない。

この様な不透明な日本赤十字社に眼を付けた熊谷市のやくざが殺された。首の頸動脈を鋭利な刃物で切られてである。被害者がやくざであるという事なので埼玉県警組織犯罪対策課北部担当である鷹司 愛や班長の山中・部下の白澤。中野が動き出した。

 

 

インテリ―ヤクザ

坂北は熊谷高校を卒業して、浦和にある埼玉大学に行った。

高校時代から柔道をやっていたが、強くはなく常に選手に選ばれることはなかった。インターハイ等の時は歯を食いしばり、選手に選ばれようとして稽古に励んだが、元々、素質がなく第一意気地がない。激しい稽古には付いて行けない。幾ら、坂北が歯を食いしばってみても、同僚たちとは差が付きすぎている。

埼玉大学を卒業して通常なら教員に成るのだが、坂北を教員にと養成する学校はなかった。それは坂北の性格が異常な所が多く埼玉大学にいた頃から。女性に対して異常なくらい関心があり、同学生を次から次へと手を付けていたからである。

しかたがないので、熊谷の喫茶店で屯したり、街中をウロウロしていたのである。

当然、不良に眼を付けられる結局、とんかつ屋の倅で林羊二の不良としての舎弟に成った。

然し、林洋二は坂北が女性きであるなら、それに輪をかけた女好きである。その上、覚醒剤を女性に打ってやり快楽を覚えさせて、自分から離れさせない様にしてしまいソープランドで働かせるのである。

坂北はこの方法を林洋二の舎弟でいるうちに全部習得していた。柔道や勉強は習得が遅いが、女性を食い物にする方法は坂北にはあっていた。

その後、林が中田一家の若いものに成ると兄貴分である林について中田一家の若い者として熊谷の街中でも顔を利かせるようになった。

林洋三が覚醒剤の遣り過ぎで眼を回し訳の解らない事を言い出して、中田一家を破門されると林の後を継いだ形で『坂北組』を名乗ることを許されて晴れて組長に成ったのである。

そして、大学を出ていると言うだけでやくざの第三者からは、インテリ―やくざと思われて、一家の交渉事や何かに駆り出されて難しい単語を並べて相手をけむに巻く事が多くあった。

そうして、親分が覚醒剤中毒であり、支離滅裂な事を喋りですと傍にいて補佐をするようになった。

中田一家は親分が覚醒剤中毒者であり、上納金も高いので組長クラスが堅気にならざるを得なかったり、破門にされる者が多く出た。組長と名がつくものは親分が周りを見たら坂北しかいなかった。

「坂北、お前俺の代行を遣れ」

「有難うございます。一意専心して代行を務めます」

このときから一家に入ってくる金を着服しようと思っていたか、どうかは坂北の胸の中にしかないが、坂北は代行の立場を利用して一家の金を横領し始めたのである。

ただ、やはり大学を出ているだけにか、意気地がないのか、坂下は一家の金を大量には着服しないで長期にわたり少しずつ着服したのである。

又、他の金儲けの時には親分である本賀好一の名前をフルに使った。自分の金儲けの為にもこの様な常套句を使った。

「この件は、親分に言われてやっている事だから、何としても引き下がれない」

この様な事を言われれば大概のやくざは、中田一家の親分の顔を立てなければ成らないのである。

しかし、坂北の悪事は同じ若い者で菊池海気の讒言で坂北が一家から横領した金で『金貸し』までやっている事を明らかにされてしまった。

「破門だ!」

親分の本賀好一は烈火のごとく怒り、坂北は中田一家を破門された。

坂北は破門されても慌てる事がなかった。

第一に親分の弱みである薬の事や警察に賄賂を贈っている事を全て、自分が動いてたからである。

(女が六人もいるが、如何したら好いかが先決だ。取り敢えずフィリピンの女とフィリピンに行こうか、一千万円も持って行けば豪勢な生活が出来ると言うが、フィリピンの女が明るくていいや・・・)

こうして、ビザの切り替えの時だけ日本に帰ってきていたのであるが、フリピンから、成田を降りた時に埼玉大学の学友に有った。

「おうっ、坂北君ではないか。今、何をしているのだ」

「浪人をしているのさ。フィリピンと日本を言ったり来たりしているだけだよ。所で君は何をしているのかね」

「僕はユウヒグループホールデングスの相談役をしていたのだが、これは窓際族の様な物で現在は『日本赤十字社』の幹事をしていて、先の東日本大震災からは多忙極まりなく週に三度ずつ東北地方に出張ばかりで、この歳に成ると億劫で仕方がない」

田池幸太郎は、パンツのポケットからハンカチを出して額をぬぐった。

(そうか田池には埼玉大学に通っていた時に、女性を何度か紹介をしてやった。何か美味しそうな話を引き出してやろうか・・・)

「処で田池君、日本赤十字社と言うのは、先の東日本大震災に於いての義捐金を相当額集めたと言うが、幾ら位集まったのだ」

「平成二十五年現在でもう四千億円を超えている。これだけの金利だけでも中小企業なら優良会社としてやって行ける。だがね。坂北君、君だから話のだけどこの義捐金と言うのが、曲者で人の善意を私しているのが、日本赤十字社の社長はじめ理事たちだ。僕には解っていても僕自身、ホーナスや給料を元居た会社の時より貰っているから、生活の為を思えば何も言えないのさ」

坂北は掛ってきたなと思った。

「義捐金の配分は義捐金配分委員会と言うのを各都道府県で設置しなければ配分されないと新聞で読んだが、それまでプールしてある義捐金は何処の銀行に預けてあるのだ」

「りそな銀行・三井住友等・三菱銀行と言う都市銀行一流銀行だ。だが金利を考えて見なさいよ。坂北君」

「金利はどうなっているのだ。田池君」

「表面上は四千憶円で僅か、年間二百万円に満たない」

(これは可笑しい。この点を銀行か日本赤十字社に突けば間違いがなく金に成る・・・)

この時に、坂北は、りそな銀行か三井住友銀行を恐喝しようと考えていた。

「田池君、君もユウヒグループホールデングスにいた時と同じで、銀行の役員や頭取の所に毒饅頭配りをしているのかね。毒饅頭は一度食うと二度・三度食わない訳にはいかなくなる。企業とは凄い言葉を使って賄賂を配っているのだな」

「建設会社も非道いが、日本赤十字社は札束のブロックで出来ている伏魔殿だ。僕もこんなことをしていたら、自分の良心が痛んで仕方がない。然し、生きて行くためには致し方がない、坂北君、解かって貰えるかい。僕の現在の心境を・・・」

「解かっているとも、もう好いから久しぶりの再会だから、今夜は新宿で思い切り飲もう」

(その後。器量が良い女でも付けてホテルに送り込めば、後は俺の掌中の珠と同じだ。何でも喋って貰わなくては仕事に成らない)

新宿の歌舞伎町のクラブへ行ってからは坂北が、学友であり埼玉大学に通っていた時も女性を何人紹介をして貰った事があるので、田池は人間が変わったように燥いで、ホステスにはべたべたするしワインも一人で三本も開けてしまった。

(田池も大分疲れてストレスがたまっているな。この様子では大きい事が出来ると思う。今夜は少し綺麗な女を付けてやるか・・・)

「坂北。君は大学に言っていた時から、僕には良い事を大分してくれた。この恩は忘れていないよ。今日はこの子を連れて行ってよいのだろう。僕は気に入ったから、坂北君、解かっているだろう」

「田池君、任せなさい。それと僕に何か教えてくれるのかい」

「ビックな話だ。坂北君、驚くのではないぞ」

(上手く言ったな、麻雀で言えば役満転配だ!)

日常、固い仕事をしている者ほどストレスは溜まる。田池は溜まりに溜まったストレスを全部吐き出したように、ワインとホステスの虜に成り、店を出たのは午前一時である。坂北はその儘、田池をセンチュリーハイアットに送った。

 

 

愛の従娘美香

鷹司愛の従娘は愛より三歳年下である。現在は東京大学医学部に於いて外科医に成ろうとして日夜努力をしている。愛とは子供の頃から、仲が良くて美香も愛に似て知性を感じさせる美人であるし、外科医を目指している位だから、頑健な意志の持ち主である。

荒川に坂北の死体が、上げるまでは夏休みを利用して、愛の家に遊びに来ていた。

「愛お姉さん。明日はゴルフでも行かない」

「好いわね。この暑さではダイエットに効いて良いじゃない。美香少し太ったみたいだから」

「酷い事を申しますね。お姉さん。残念ですが私の体重は常に五十キロ代です。こう見えても私はもう、医師の資格を取得してありますし、栄養バランスだって医師は覚えなくては、ならないものなのです」

愛は熊谷署に来てから女性の友人はいない。従妹の美香とたわいもない事を話しているだけで、前事件の蓄積していたストレスは自然に解消してしまっていた。

「美香・江南太平洋コースを何時でも好いから、予約して置いて、確か父君がメンバーよ」

「了解」

その時の愛の携帯が鳴った。携帯をかけたのは山中班長である。

「元、中田一家の組長である坂北隆が、荒川の釣り専用区で水死体と成りあがりました

「オッケー、直ぐ署に行くわ」

美香はこれで明日のゴルフは中止に成ると考えた。美香自身医師であるから緊急事態は常に意識しているから、お姉さんも私と同じで大変だわ」

美香のファーレデイZを借りてオープンにして、熱気漂う百四十号を飛ばしていると後ろで束ねている髪の毛が風圧で後部に引っ張られているような感じがして、熱さなど感じない位、顔に受ける風が爽やかであった。

現場には既に、山中始め白澤・中野達・組織犯罪対策課の捜査員は全員来ていた。

「この暑いのに水死体は、全然腐乱していない。警部少しこの殺しは普通の殺しと訳が違うのではと考えています。又、首の頸動脈を僅か十センチ位切るという事も不思議な事です」

白澤が頸を傾げて愛に報告をした。

班長の山中は暴力団担当が長いので、この辺のやくざの事は大概知っている。

「坂北は確か中田一家を破門されて、フイリッピンに女と逃げてマニラで結構良い暮らしをしているとの噂であったが、いつの間にか日本に帰ってきていたのだ」

山中班長は不思議そうな顔をして白澤と同じように首を傾げた。

それを見ていた愛警部が、班長は坂北に対して確信ある情報を得ているのではないかと思った。

「検死の詳細については早々に、鑑識課から上がってくるでしょうから、一応署に戻り坂北と言う人物について徹低的に身辺調査と過去を洗って見ましょうか。ねえ、班長」

「解りました私の解る限り、坂北についてはお話ししましょう。唯、残念であるのは、坂北は前科が一つも無いという事なので、仄聞するところという事に成ってしまいます」

「やくざの組長をしていて、一つも前科がないの面白いわね」

「まあっ、女性を垂らしこんでソープで働かせている女衒の様な者ですから、態々、法を犯すようの事をしなくても食って行けたのです」

「法を犯す事と女性を食い物にしていきてゆくことは論理道徳的には法を犯すより悪い事と思います。こんな者がやくざの組長をしていたと思うと反吐が出ます」

山中の言葉を聞いて愛警部は大きく頷いた。

「こんな被害者の捜査は、気乗りがしませんが、これも職務ですから、犯人逮捕に向って全力捜査しなければなりません」

「班長・それに白澤・中野ソープ嬢のヒモでも殺されれば被害者よ。組織犯罪対策課の面子のかけても犯人を逮捕しましょう」

その様な事を愛たちが話していると鑑識課の責任者が来て、愛警部に報告をした。

「被害者の指名は、坂北隆元中田一家坂北組組長・年齢昭和二九年八月九日生まれの五六歳・死因首の頸動脈切断による出血多量・凶器については認定できません。唯、鋭利な刃物例えば、メスの様な物と推定いたします」

「ご苦労様です。この後も何か解かりましたらお知せください」

(凶器が解からなくては、犯人がどのような者であるかが解らない。確かメスの様な物と言ったわ。美香を呼んで見て貰えばすぐにわかるわ・・・)

携帯を取り出すと直ぐに、愛警部は従妹の美香に電話をかけた。

「美香見て貰らたいものが有るの、そこから十分もあれば来られる場所なの私の車でナビに「熊谷市川原明戸釣り専用区」と入れれば直ぐに解るわ」

美香はこれから見せられるのは死体であると思った。だが美香は将来の外科医である。死体を見せられるのが解りながら、殺された死体と言うものを見たことがないので、医師の卵としての好奇心に駆られた。

「解りました。直に行くわお姉さん待っていてよ」

美香が河原明戸にある釣り専用区に行くと、ブルーシートの上に引き上げられた坂北の死体が真夏の日を浴びながら仰向けに置いてあった。

美香は直ぐ近くに車を止め愛の傍に駆け寄った。

「お姉さん」

愛が直ぐ気が付くと中野に言って、水死体の傍まで連れて来るように言った。

中野に案内をされて、水死体の顔の部分に被せてある布を取り、水死人である坂北の顔を見て美香が驚いた。

「この人からは血液が全部抜いてあるわ」

その言葉を聞いた山中班長は、美香が言うまで納得が行かなかった水死人に対する先入観が崩壊した。

「この水死人は血を抜かれていたのですか。私はこの暑さの中でも腐乱した様子が見受けられないので、可笑しいとは思っていました。なるぼどなー」

美香は今度は、水死人の首の頸動脈を見て言葉を吐いた。

「随分手慣れた外科医の仕事ですわ。血を抜いて腐乱を遅らせる事やこのメスの無駄のない使い方は、それ相当の経験がなければ出来ない事です」

「美香。この水死人はお医者さん。それも腕の良い外科医の遣った事を考えて良いの」

「お姉さん。間違いがなくこの人を殺したのは、腕の良い外科医としか思えません」

それを聞いた山中班長は腕組みをして、眉間に皺を寄せ首を捻った。

「この事件は、難しくなりそうだ。元、やくざの組長と医師との組み合わせなど想像もつかない。坂北なら医師と女性の奪い合い位やっていただろうが、その他の接点が想像できない」

一緒に考えていた白澤が何か思いついたような顔をした。

「坂北は埼玉大学に言っていたと言うが、学友若しくは、同じ大学内に知り合いがいなかったかどうか、調べてみる価値は、あるのではないでしょうか」

夏の日は容赦なく照りつけている時折、川面を渡る風がふくが、それはたまゆらの涼である。でも捜査の緊張をほぐしてくれる効果はあるようだ。

「班長。ここは鑑識に任せて私達は署に帰り、美香交えて会議をする必要がありそうね」

「白澤・中野・清水・桜庭他の者にも行って全員署へ引き上げだ」

中野が愛と美香が並んで歩いているのを見て感心した。

(いずれ菖蒲か、杜若と言う言葉があるが、ぴったりの言葉だ・・・)