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平和相銀四天王

 私が好く遊びに行った六本木のスクエアービルの反対側、二五四号線沿いにあるビルの5階『エルドキャッスル』と言うクラブを、三枝と言う男が経営していた。

この三枝はやり手で『エルドキャッスル』新宿店や六本木店店の上の階で『南海堂』と言うカジノバーも経営していた。

三枝は、一九九三年(平成四年)髙田組内、田中組組長(現二代目髙田一家髙田嘉人総長)に連れられて江南町にある私の家に来た。

用件を聞くと錦糸町に知り合いが、都内で一番大きいカジノバーを経営しているが、最近、稲川会の本部長で岸本一家総長がカジノバーに来てバカラをやり、一勝負五千万円から張るので弱っているとのことであった。

「それで私に、どうしろと言うのです」

三枝は言いにくそうな顔をしながら、要件を話し始めた。

「出来ることでしたら、岸本さんに、カジノに来ても加減して張って貰いたいのです」

岸本は私が頼めば言うことを聞いてくれる自信があったが、途轍もない張り方をするのが岸本の博打で、それを知っているだけにカジノをやっている時は、稲川会という大所帯の激務から、開放される時間であることも解かっているので、全面的に請合わなかった。

「マックスが決まっているのだろう」

「それが、決まっていないのです」

「マックスが、幾らチップを張っても好いのなら、問題はないではないか」

「処が、岸本さんが来てくれるのは有り難いのですが、五千万円、時には、一億円を張られたら、同じテーブルで張り取りしているお客が、チップを合わせる事ができません。仕方が無いから胴元がチップを合わせるのですが、毎回では店が参ってしまいます」

「馬鹿な事を言うのではない。博打は胴元が儲かるように出来ている。俺は博徒だぞ」

「それは解かりますが、何としてもスケールが違うのです。親分何とか岸本さんに、お願いをしてください」

何度も繰り返して上に、田中組長の顔もあると思った。

「今、此処で、はっきりした返事は出来ないが、一応本部長に聞いて見る」

三枝は、私のはっきりしない言葉を聞き、それでも、安心をしたような顔をして帰って行った。

 二日後、港区三田にある稲川会、会長秘書室の当番週なので、東京に出て行き岸本が経営している麻布にあるゴルフショップ『麻布グリーン』(畠山みどりの兄が雇われ社長)に行ったら、思っていた通りに岸本は、二階のベンツ販売専門社サンライズモビルの社長室にいた。

「おはよう御座います」

「おうっ、教祖何か俺に用事があるのかね」

「実は、たってと言う事ではありませんが、三枝という六本木で『エルドキャッスル』というクラブを経営している男から頼まれた事がありまして」

「俺に関係があることだな。遠慮しないで言ってみろよ」

「本部長、最近カジノは、錦糸町に行っていると聞いています。そのカジノのオーナーが、本部長の張り方に、ブルッテいるとのことです。今度行ったら手加減をしてやってくれますか」

ニコニコ笑いながら、上目つかいで、私を優しく睨みつけるような顔をした。

「教祖解かったよ。他でもない教祖の言うことだ、聞いてやろうじゃないか」

「ありがとう御座います。先方も喜ぶと思います」

「先様も心配だろうから、電話でもしてやればよい」

 随分、今日は機嫌が良いと思いながら、聞いていた三枝の携帯に、電話を掛けた。

私が岸本に話をつけられると期待していたか、どうかは解からないが、電話に出た三枝は甚く喜んでいた。

三枝が電話を掛けると早速、錦糸町のカジノバーのオーナーであり、ワールドワンという遊戯場経営専門の会社の大株主でもある黄原勢蒿社長は、岸本に会ってお礼を言いたいと三枝を通じて私に言ってきた。

その後の経緯は、私には解からないが、暫くすると、岸本と黄原はゴルフを一諸にランドする間柄になった。

半年位して、岸本と顔を合わせた時、黄原社長の話題となった。

「教祖、黄原は良い男だ。ゴルフも好きで自分からどんどん賭けてくる。それと今度、ジャンボ尾崎と契約をするとか、したとか言っている」

ジャンボはブリジストンと専属契約を交わしていたが、パターだけはトミーアーマーのL字パターを使用していたので、ブリジストンとは契約外であった。   

そこに目をつけた黄原社長が、近い内にクラブとウエァーの契約が切れるのを見越して、ジャンボと五年間で十億という破格な契約金を出して契約をした。

私から見れば、女房の不始末で、三十億近い債権を有しているジャンボとしては、黄原との契約は、ありがたかったのに違いがない。

「本部長。黄原は何れ逮捕されます。気を付けてください」

「何ぜでだ」

「本部長は知らないと思いますが、ブリジストンの石橋家は、代々フリーメイソンでです。フリーメイソンの理念するところは『自由・平等・博愛』です。又、会員同士の相互扶助は、会則に唱ってあります。フリーメイソンのメンバーには、政治家・裁判官・検事・高級官僚・大会社社長・大学教授など日本の舵取りをしている者たちが多くいます。ジャンボは ブリジストンにとり、会社の利益を生む宝です。それを、横取りされてはブリジストンだって示しはつけます。表面、唯の秘密結社を装っていますが、石橋家はフリーメイソンを使い必ずジャンボか、黄原社長に逆襲するでしょう」

「教祖よー、面白いことを言うな。フリーメイソンが秘密組織なら、稲川会だって秘密組織になるのではないか。教祖の言うことだから、黄原社長に気をつけるように一応話しておくよ」

「本部長。稲川会は、たかが一万人足らず、フリーメイソンは四百万から六百万人メンバーがいて世界中に散らばっているのです」

「教祖も良く知っているなー」

本部長とそのような話をして、幾らも時を得ないで黄原社長は新しく以前のカジノ会社と同じ社名の『ワールドワン』と言う会社を設立して『ジャンボ仕様パター』を売りだした。

価格も高く一般ビギナーには、買いづらい品物であったが、未だ、バブルの風がささやかであるが、吹いている時期だったので在庫が無くなるほど売れた。

調子に乗ったワールドワン黄原社長は、次はアイアンを販売した。

私はジャンボのクラブしか使わないので、早速ゴルフ道具を販売している『ビクトリア』に行き購入しようと思ったら品物の在庫が無かった。

(面倒くさい本部長にアイアンは頼もう・・・)

こうして、私のアイアンはブリジストンの製品から、ワールドワンの製品になり、何度も使用しない内に、私がジャンボ尾崎東京事務所に拳銃を若者の松本高雄と内島隆行に打ち込ませたという容疑で、愛宕署に逮捕されお蔵入りになってしまった。

一九九三年(平成四年)五月、ワールドワン黄原社長は『賭博開帳図利違反』容疑で警視庁に逮捕された。

カジノをワールドワンの別の役員に任せていたが、如何にしても黄原が、カジノを経営する為に使った袖の下は半場ではない。

錦糸町警察の署長まで、毎月警察官の給料より多く掠りを支払っていたし、宴会・行事・冠婚葬祭には、署長だけではなく風俗課の課長から警部補までに多額の金を包んでいた。

黄原社長としては、あらゆる手段を講じてカジノを堂々と経営できるようにしてきたつもりであったが、上手な手から水が漏れた。

黄原社長は世界のジャンボと手を組み舞い上がっていた。

警察署長に袖の下を渡し、安全を確保したと思っていた。

だが、カジノという夜の世界の範疇に入る業の経営者が、太陽が上がる昼間に出てきて大手を振れば、太陽はその者を焼き殺す。

私の思っていたように、黄原社長は警視庁に逮捕された。

ブリジストンの石橋家がフリーメイソンを使って黄原社長を逮捕させたのか、それとも、カジノを経営している者の宿亜なのか、東京拘置所は当時、古くて夏・蒸し暑く冬・窓ガラスが凍るほど寒いのである。

黄原社長は、そこで自分で作った虚構の人生を振り返ってみただろうか。

自分が行ってきた事は人として、正しかったのかとそれとも、カジノとゴルフのクラブを販売して得た利益を、如何に隠そうか妙案でも考えだしていたのか?


岸本が経営していたゴルフショップ『麻布グリーン』雇われ社長の畠山は、社長として雇われる前は、赤坂で『サーカス・サーカス』というカジノバーを経営していたが、毎月所轄署に、百万円ずつ掠り(用心棒代)を払っているのに、所轄署の別な刑事が、別に掠りを請求したことから刑事同士で喧嘩となり、警察に掠りを届けている事が表面化して、畠山社長は逮捕され、挙句は警視総監まで退職しなければならなくなった。

だから、畠山社長は都内のカジノの事情通であった。

錦糸町で黄原勢蒿がカジノを経営していて、岸本が店に行き大きく張り取りをしているので困った黄原が三枝を頼り、私に話をつけてくれる様に頼みに来た事は、三枝が都内のカジノバー業界で、黒幕的存在である証拠であると私に教えてくれた。

三枝がカジノ業界の黒幕であることを知った私は、早速、白金にある『都ホテル』のロビーの喫茶ルームへ三枝を呼びつけた。

「三枝さん。あんたはカジノの黒幕と聞いたが本当のことかね」

行き成り、自分で隠していた事を図星されて、三枝は狼狽の色を顔に表した。

私としては、カジノは博打だから、ヤクザが仕切るものと考えていたので、昔から他のヤクザにギャングだと言われた本性を出し、凄みを利かせ三枝の返答次第では命がなくなる様に思わせカジノバー業界の裏の真相を吐かせる様に持って行った。

ウサギから、狼に変身した私を見て、これは逃げる事ができないと三枝は思ったのか、その事が自慢なのか解からなかったが、三枝は、立て板に水を流すが如く喋り、それも、途轍もない人のことを持ち出して、カジノ業界の裏の真相を話し出した。

「平和相銀事件を知っていますか」

「週刊誌か何かで読んだ事はあるが、詳しい事は知らない」

「実は平和相銀四天皇と言われた『日誠総業』社長の次郎丸嘉介の秘書を私はしています。平和相銀は小宮山一族の銀行でした。その小宮山重四郎(元郵政大臣)の長女良子の嫁ぎ先が池田勉といった警察官僚で、この結婚も後藤田正晴の紹介で結婚したのです。次郎丸嘉介はその人脈を最大限に利用し、警視庁の各方面本部長と直接話をつけて、私が次郎丸に変わり、初めてカジノバーを開店する者と警視庁の風俗課長を繋げ、カジノバーを開店したい時は、本庁の風俗課の課長に一千万円持って行かせ、開店してからは所轄署の風俗課に、毎月百万円を付け届けさせるように決めたのです」

「方面本部長が、直接あんたと話をするのか」

「本部長に成る位の人は狡猾で、絶対自分では連絡をしてこないで奥さんが、手紙を比喩表現して出して来るのです。だから文章の中にカジノ云々とは絶対に書いてきません」

「本当のことなのか。手紙は持っているのか?」

「自分だって、若しもの事があった時は、やばいですから、保険のつもりで手紙は保管してあります」

「解かった。その手紙を見せてくれ、手紙を俺が読んだら、お前の言った事を信用する。何時その手紙を俺に見せてくれるのだ」

「明日では駄目ですか」

「良いだろう。明日午前十一時に、この『都ホテル』持ってこい」

「解かりました。必ず持ってきますから、自分の事は勘弁してください」

「おうっ、手紙を持ってくれば何もしないだろう」

喋るだけ喋ると三枝は、今度は何が不安なのか項垂れてしまった。

私に喋ることで、髙田組からは何もされないが、喋ったことが解かれば、次郎丸と警視庁に睨まれてしまう。

二律背反する自分の気持ちをコントロールできないぎこちなさと、不安感に襲われていたのだろう。

 翌日十一時に『都ホテル』の喫茶ルームに行くと三枝が、覚醒剤中毒者のように周囲を気にしながら座っていた。

わざと後ろから三枝に近づくと肩をぽんと叩いた。飛び上がって振り向くと私であったので安心した顔をした。

「手紙は持ってきただろうな」

「五通しか持ってきられませんでしたが、宜しいでしょうか」

「上等だ。直ぐに読ませてもらう」

「今渡しますから、ここでは手紙を広げないでください」

私は三枝が本当に、覚醒剤の中毒者ではないかと疑った。

だがそんな事は関係が無いので、五通の手紙を鷲掴みにし、自分のスーツの内ポケットに入れた。

マンションに帰り三枝から受け取った手紙を読んだ。

『前略 先日は結構なものをご恵送下さり、ありがとうございます。何時も主人と美味しく戴いております。

さて、就職の件ですが一応知人に話をした処、何とか就職できるようにお願いをするということです。主人も余り、縁故雇用はさせたくないとのことですが、他でもありません貴方のことですので、何とか努力をしてみると言うことです。私の意見ですが、就職は必ず何とかなると思っています故、ご安心ください 草々』

結構なものとは現金のことであろう。就職とはカジノバー開店のことだ。

兎に角、自分には火の子が被らないように、婦人に比喩表現を使わせ手紙を書かせる巧妙な手口である。

方面本部長の妻のこの手紙を読んで呆れて、警察官僚の堕落を感じた。

このような悪党に我々ヤクザは、柄の無いところに柄を付けられて逮捕され、刑務所に行かされると思うと無性に腹が立ってきた。

(日本の国も警察官僚が、こんな事をしていたのでは、終わってしまう。弱ったものである・・・)

他の四通の手紙も内容は殆ど、変わりなく読めば読む程、義憤を感じずにはいられなかった。

(それにしても、次郎丸嘉介という野郎も太い野郎だ。会ってカジノの件について追求をしたらなんと言い訳をするだろう・・・)

携帯を掴むと三枝のところに電話を掛けた。

「手紙を読んだ。ところで次郎丸と会いたいのだが、セットしてくれないか」

「すいません。それだけは勘弁してください」

「三枝、お前が持ってきた手紙を読んで俺は国の乱れを感じる。次郎丸に会って確認をしたい。その上で次郎丸をどうするか決めたい」

「次郎丸はサンクチアリです。政界・財界の裏に君臨するフイクサーです。この人脈を駆使されたら、親分直ぐに刑務所行きです」

次郎丸と言う男が、それほどの人物ならどうしても会いたいと思った。

「次郎丸を何とか俺と会えるように出来ないか」

「私の首が直ぐに飛びます。次郎丸の資金で『南海堂』や」『エルドキャッスル』を経営していますし、カジノバーの業界でいい顔が出来ているのです」

「解かった。これ以上頼まない。俺は俺で次郎丸に会う事ができる友人を探す。お前は俺に、このカジノバーの裏のシステムを、俺に話した事を誰にも言うのではないぞ」

「誰にも言いません。次郎丸に会ったら、気をつけてください。直ぐに警察を使いますから」

「解かった」

このような情報を三枝から聞き出した私は、次郎丸嘉介に会わなければならないと考えて、どうしたら会う事ができるか模索していた。

数日後、閑な時は遊びに行く新橋の『タートル企画』へ成塚靖雄会長を訪ねた。会長の会社へ行っては、ゴルフ談義に花を咲かせるのである。

会長は、部落開放同盟の上杉佐一郎の秘書をしていたこともある開放同盟では大物である。

又、トーナメントプロ・ゴルファー尾崎将司の後援会長で、九重部屋の後援会長もやっていた。

ゴルフ談義の合間に、それとなく会長に、次郎丸嘉介の事を聞いてみた。

「ところで会長、日誠総業の次郎丸嘉介を知って居ますか?」

私から畑違いの財界の人物、しかも、会長が昵懇である次郎丸嘉介の話が出たので、意外な顔をした。

「次郎ちゃんは良く知っていますよ。次郎ちゃんが、何かをしでかしたのですか」

私は当時、成塚会長を信頼していたので、三枝から聞いたカジノバーの裏話をした。

話を聞き成塚会長は驚いた様子であった。

「次郎ちゃんは、そのような事をやる人間ではありません。きっと三枝という男が、自分の悪い事を隠す為に、その様な作り話を言っているのでしょう」

「会長、方面本部長の女房から、次郎丸の秘書三枝宛に、カジノバーの件で手紙が郵送されています」

大きい体で大きな顔の顎を撫で会長は声高に、私を説得するように噛んで含めるように次郎丸を庇った。

「親分。平和相銀をご存知でしょう。平和相銀の四天皇と言われた男です。一応財界人として、現在は伊豆と成田でゴルフ場を経営していますし、財界人がカジノバーに関連していたら、財界が次郎ちゃんの事を認めないです。悪いですが親分その話は信頼できません」

そして、会長は次郎丸が、平和相銀事件でどのような役割をしたか、メデァで報道されていないことまでも私に話した。

(ここまで、会長が次郎丸の事を庇うのは、どうしてだろう。三枝が持ってきた方面本部長の手紙は偽造されたものなのか・・・)

会長に、ここまで次郎丸について、その人となりを説明され、私が持った確信が揺らぎ始めた。

「会長、次郎丸に会えますか。紹介して戴ければ有りがたいのですが」

「良いでしょう。この件は次郎ちゃんの財界人としてのプライドが掛かっているでしょうから、極力早く親分に紹介いたします。会う場所はこの私の会社で好いでしょうか」

「好いです。こんなことで、会長の手を煩わせ申し訳ございません」

「次郎ちゃんの都合もあるでしょうから、都合を聞いて会う日を決めて良いでしょうか」

「勿論です」

(次郎丸とは、大した者かもしれない。総裁や家の会長と繋がりが有っては、不味いことになる。この件は一応、本部長に報告をしたほうが様だろう・・・)

成塚が経営している『タートル企画』を出て直ぐ車の中から、携帯電話を掛け岸本本部長の現在居る場所を聞いた。

岸本は六本木八千代ビルにある『稲川会総本部』にいた。

「会って、報告したい事があります。今から本部に行けば好いでしょうか」

「関西から、表敬訪問として挨拶に来た。用事が終わったから『麻布グリーン』に、これから行くよ」

「それでは『麻布グリーン』に私も行きますから、話を聞いてください」

「了解した。俺の方が麻布に行くのが早いだろうから、待っている」

「それでは、直ぐに参ります」

『麻布グリーン』に行くと岸本は、パター練習台の上でパターを練習していた。

「上に行こうか。ここは人が来る」

二階の『サンライズモビル』の社長室に行くと岸本は、秘書の智子さんと笑顔で迎えてくれた。

私はカジノバーの裏のシステムを三枝から聴いたままのことと尚且つ、成塚会長との話も報告をした。

腕を組んで黙って聞いていた岸本は、当然であるというような顔をした。

「警察(さつ)は汚い。次郎丸と言う者は、名前を何処かで聞いた事がある。親父(三代目稲川会々長)とは付き合いはない。もしかしたら、総裁の所に昔、来た事があるかも知れない」

「それでは、会ったら余りきつい事を言えませんね」

「会うのか。教祖は荒いから心配だ。近藤を呼んで二人で付いて行ってやる」

「大丈夫です。こう見えても私はジェントリーですから」

「何がジェントリーだ。このギャングが」

岸本のほうが私なんかよりギャングであるのを知りながら、岸本は笑いながら次郎丸と会う時に、一緒に行き見守ってくれる心算(こころつもり)であるのが解ったので嬉しかった。

成塚会長に携帯電話を掛けて、先ず、会う日を聞き当日は、岸本本部長と甲府の山梨一家近藤総長が私に同伴する旨を伝えると成塚は、驚いて会う場所を自分の会社でない場所を指定した。

「詳細についてはファックスで流します」

「了解致しました」

三十分後、『サンライズモビル社』へ成塚会長の会社から、ファックスが流れてきた。



ご 連 絡


日  時  平成七年八月三日 午後七時


場  所  明治記念館内懐石料亭『花かすみ』

      港区赤坂二-二-二十三


電  話  〇三-三七四六-七七三三

以上


「当日はここを六時三十分に出よう。近藤には俺が連絡をしておく、その前に集合だ」


当日、岸本と近藤・私の三人は『サンライズモビル社』の駐車場で岸本の防弾ガラスと鉄板で防備されているベンツの六百Lに自分の車から乗り換え、赤坂の明治記念館内、懐石料亭『花かすみ』に向かった。

明治記念館に車は着いた。

岸本も近藤も私も明治記念館の中に懐石料理『花かすみ』という店があるとは知らなかった。

「中々風情がある店ではないか。こんなところに懐石料亭があるとは気がつかなかったよ」

「今度何か催しがある時に、使おうじゃないか」

「所で十分前だが先様は着ているのだろうか」

半地下の駐車場にベンツを乗り入れると作務衣のようなものを着た『花かすみ』の従業員が、立って待っていてベンツのドアを開けた。

「先様があちらで待っております。案内いたしますので付いてきてください」

純和風の建物の中を、廊下の飛び石に沿って歩いてゆくと一番奥の部屋の前で止まり『花かすみ』の従業員は私たちの方を向き直り頭下げた。

「この部屋でございます。少々お待ちを・・・」

軽く板戸をノックした。中から返事があると従業員は、私たちが着いた事を知らせた。

「直ぐに入って貰いなさい」

ドアを開けると長い顔の成塚会長と丸い顔をした恰幅のよい人物が、ドアの方を見た。次郎丸嘉介である。

遠慮する本部長と私たちを、上座に座らせると自己紹介をした。

自己紹介が済むと次郎丸嘉介は口を切った。

「私は石井会長と昵懇でした。その後は稲川会の誰とも付き合っていません。だから、現在稲川会がどうなっているのかと心配をしていたのです。だが、本部長とこのような人達が居ると思うと安心ができ期待もできます」

「ご心配をしていただきありがとうございます。稲川会は三代目会長下、執行部・秘書たちが懸命に毎日頑張ってくれていますから、ご心配はご無用です」

成塚会長が私たちに向き口を開いた。

「例の件は、次郎丸氏は関係が無いということです。それより、今後、稲川会に対して全面的に協力をするといっています」

「今回私が、カジノバーの裏で暗躍をしているとのことですが、財界に身を置く人間として天に誓ってそれはありません。だが、そのような話になっているのでは私の不徳とするところです」

私自身、次郎丸がカジノバーを裏で仕切っていることについて、恐喝などする気は無かったし、唯、博徒としてのプライドが許さなかっただけである。

だから。岸本と近藤が同席しているのに、次郎丸それは違うだろうとは言えなかった。

それにしても、財界人はよく会社が不祥事を起こして時に、私の不徳とするところですという言葉を使うが、この不徳という言葉の裏には何があるのだろうと考えた。

(便利な言葉だな・・・)

成塚会長が中を取り持つような感じで話を進めた。

「こうして、次郎丸氏は自分の不徳であると頭を下げている。そして。今後は稲川会に対して全面的に応援をするといっています。この話はこの辺にしてここの料理は美味しいですから味わってみてください」

成塚会長は仲居を呼んだのか、ぱんぱんと手を叩いた。

岸本は私のほうを見てこれで良いのかという顔をした。

私は話の流れがこうなったら仕方がないと思った。

虚構でしかない財界を生き抜いてきただけあり、次郎丸嘉介は、中々の人物であった。『稲川会の応援をすると』次郎丸嘉介はのたまったが、この後、直ぐに私が逮捕をされたので、稲川会に応援をしてくれたかどうか解からない。

東京の夜そこに蠢く者は多く居る。

ヤクザは『新暴力団取締条例』と県条例が出来て昼の顔となった。

ヤクザに変わりチャイニーズやムスリムの不良たちが大手を振り覚醒剤や危険ハープを販売している。これによる被害者は多く出ているのが現実である。新暴力団取締条例を考え施行した者の責任がある。

国家はヤクザを虐げる事は成功しただろうが、次に闇の世界がどのように変貌してゆくかとは、先を見る先見の明はなかったのであろうか。

危険ハープや外国人たちの犯罪にはヤクザの私が眼を覆うことばかりである。

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