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組織犯罪対策課 鷹司

六天 舜


秀岡組VS愛警部


拳銃無常

 

愛が、県警本部長である久我翔次郎にその晩で電話を掛けた。

「翔次郎。少しは本部長の椅子に慣れた。私は久しぶりに本気になったわよ」

「愛さん。何を本気になったのですか。貴女が本気になるとは、遣り甲斐がある捜査なのですね」

「そうよ。覚醒剤の大元を逮捕しようと思っているの、秀岡組というのを」知っているでしょう」

「勿論、県内ではなく関東では一番の大物でしょう」

「その通りよ。明日、寝こみを襲ってやろうと思っているの、最悪は拳銃を使用するから承知をしておいてね」

「警察学校で一番の拳銃の腕を持ち何度も表彰されている愛さんが、使用するなら安心して許可できますよ」

「ありがとう。でも手元が狂って死なせることが、有るかもしれないわ」

「然るべく・・・」

「良い言葉を覚えたわねー、さすが県警の本部長様だわ」

「愛さん。冷やかさないでください。僕は今本部長という椅子に慣れようと思って真剣なのですから」

「翔次郎。真剣になり本部長を務め今度は検察庁でも行くの」

「・・・もう良いから愛さん。明日の秀岡逮捕には、くれぐれも用心をしてください」

「ありがとう。お・や・す・み・本部長さん」

翌朝、午前三時に署に行き四人の部下と秀岡逮捕の打ち合わせをして、秀岡組事務所へ山中が、久下にいる女の所にいる秀岡は愛が担当して、それぞれの目的地に向かった。

車を運転しながら、携帯電話が鳴ったので手に取り耳に当てると、県警本部長からの電話であった。

「全部で五人では危険だから、本部からの応援を三十人ほど熊谷にやったから、了解しておいてください」

応援などは当てにしないでいたのであるが、本部長の気持が嬉しかった。

愛が、秀岡の女の家の前に行くと既に、人眼に付かないように県警の応援部隊が秀岡の女の家を取り囲んでいた。

(ご苦労様・・・)

愛がアイコンタクトを送ると県警の応援部隊の者が、さりげなく返してきた。

 同時に部下の白沢に命令をした。

「逮捕状を出して付いてきなさい。もし、秀岡が拳銃を出したら透かさず撃っても構わないわ」

白沢は愛の顔を見ると頷いた。そして、直ぐに玄関の扉を開け秀岡を呼んだ。

「秀岡元次。覚醒剤営利目的所持で逮捕する。出てこい」

家の奥から秀岡の声がした。

「朝っぱらから煩い野郎だ。なんか俺に用事でもあるのか」

「秀岡出てきなさい」

愛が、大声を出して秀岡を呼んだ。女性の声が聞こえたので不思議そうな顔をして秀岡が出てきた。

「秀岡覚醒剤営利目的所持で逮捕する!」

白沢も大声を出した。

(可笑しい。県警の吉岡の野郎今日、逮捕状が出ると連絡がなかった・・・)

同時に秀岡がガウンのポケットから、ベレッタ二十二口径オートマチックを出して二人に向けた。

「おれを逮捕しようと思っても無理だ。それ以上動くとハジキのトリーガーを引くぞ!」

秀岡に拳銃を向けられても愛は、微動だもしなかった。

「そのような玩具を出して警察を脅かそうとしても無理よ。秀岡いう事を聞きなさい。

秀岡は自分を逮捕に来た刑事が、類のない美人なので内心驚いていたその上、愛用のベレッタを向けても全く動じない。

(この女が例の警部かよ、お嬢さんと思っていたらこれは本物だ・・)

いきなり、ベレッタの銃口を天井に向けるとリーガーを引いた。

「パン。パン。パンー」

秀岡は脅しで、拳銃を打ったのであるが、これで又、罪名が着くとは思っていなかった。『銃砲刀剣類所持違反並びに発射罪』である。この拳銃を発射したことにより、覚醒剤事犯と併せ秀岡は、死ぬまで刑務所に行かなくてはならなくなった。

余りにも簡単に拳銃を発射した秀岡が、法律を知らないのではと考えて愛は、教えてやった。

「銃砲刀剣類所持違反並びに発射罪が付けば最低でも十五年は、刑務所に行くわ。彼方それを承知でしょうね、承知なら腹の座った人と私が褒めてやるわ」

瞳を上に向け白目を見せ考えている様子の秀岡が、狼狽の色を垣間見せた。

そして、自分で頷くと愛に本気で脅し文句を言った。

「こうなればやけくそだ。オメーらも道ずれにして、この世とはアバヨだ」

ベレッタを愛に向けて、トリガーを引いた。

と白沢が思った時には、愛が、一瞬早く警察拳銃であるベレッタ92Fを引き出して秀岡の両方の脛を打ち抜いた。至近距離からの発射であるから脛の骨は砕け秀岡は玄関先に崩れ落ちた。全く使い物にならない足となり、崩れ落ちた秀岡が悔しがった。

「もっとでかいハジキを持っているのだった・・・」

「何負け惜しみを言っているの、私に止めを撃たせないで!」

ベレッタ92Fの威力は圧倒的である。両方の脛が申し訳程度に繋がっている秀岡は出血多量で虫の息になっていた。

白沢が既に、救急車を愛が発射をした時に呼んでいた。救急車の担架に乗り運ばれて行く秀岡を見下ろしながら、愛が落ち着いた声で言った。

「ヒエラルキーの頂上を崩せばその組織は終わる。でも、第二・第三の秀岡が出ないようにしなければなりません」


その頃山中も秀岡組ナンバーツーである永田と事務所にいた金を逮捕していた。

山中からの報告を聞くと愛は、県警本部から応援に来ている刑事たちに一人ひとり、手を握り挨拶をして解散をしてもらった。

熊谷署に戻ると山中も既に、永田と金を連行してきていた。

「ご苦労様です山中さん。大島・永田の身柄が有れば、十キロの覚醒剤の行方は必ず解かるでしょう」

「秀岡が虫の息である現在、永田も諦めて福田の所在を言うでしょう。そしたら、十キロの覚醒剤が何処にあるかが、解かると思いますし、絶対に喋らさせます」

「そうね。組織のナンバーワンとツーがこの様では秀岡組も終わりよね」

覚醒剤を車に積み替えて大島と別れた福田は、大島に加須方面に行くと見せかけて次の信号をまた左折した十七号パイバスに沿って道はあった。何度か曲がり、熊谷の市内に入らないようにして、車を深谷市方面に走らせた。深谷市内に入ると自分の生家が有った近所の滝の宮神社の東側に車を付けた。

(さーて、仕事にかかるか。大島なんぞと一緒ではやばくてしょうがねーから、一人の方がいいよ・・・)

福田は何時の間にか用意をしたのか、唐草模様の古くて大きい風呂敷を二枚取り出して、後部座席に広げると一キロずつになっている覚醒剤を五個風呂敷に包んだ。二つで十キロである。細身の体にどうしてこんな力が有るのかと思わせるくらい軽々と両方の手に風呂敷をぶら下げると滝の宮神社の本殿の方に歩いて行った。

本殿の左側にある神楽殿に上がると荷物に紐をつけて、紐を口に咥えると神楽殿の十二支が、彫刻されている欄間に掴まり体を引き上げた。

何枚もの板で装飾が施されている天井板は、福田が押し上げると直ぐに持ちあがった。体を半分乗り出して天井の状態を点検した福田は、覚醒剤が包んである風呂敷を二個置いた。天井板を元に戻した福田は大きなため息をついた。

(よしこれで大丈夫だ。餓鬼の頃から、ここは俺の宝物の隠し場所だったし、一度も隠したものが人に見つかったことがない・・・)

秀岡は愛のベレッタ92Fに倒れ、ナンバー二の永田は逮捕。その下の大島は組織犯罪対策課の犬となっていたが、福田の足取りと十キロの覚醒剤の行方は杳としてわからなかった。

唯、本件の捜査が終了して三ヵ月後に、滝の宮神社の鯉池に仰向けに浮かぶ福田の物言わぬ体が有り、深谷署で検視をしたところ覚醒剤の大量接収が原因であることが解かった。

死人に口なし、福田の死については「シャブの遣りすぎ」という事で済まされてしまった。

大島は秀岡が倒れたことを聞き本件の取引のすべてを喋った。永田は裁判で十五年を判決されて控訴することなく下獄した。大島は懲役十三年を判決されて、泣く泣く長期刑務所である宮城刑務所に行った。金は十年の懲役を判決され、控訴をして現在東京拘置所にいる。

秀岡の組長は熊谷外科病院に入院したまま車椅子の生活を余儀なくされた。

事件が覚醒剤の行方が解からない儘、解決してしまったことに対して、鷹司 愛は部下たちにはっきりと言った。

「千里の道も一歩から覚醒剤の行方が解からないのは残念ですが、『百戦百勝は善の善なるものに非ず』と孫子も言っています。とにかく、皆さん良くやってくれました。今夜は皆で又フェニックスに行きましょう」

おわり