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二〇一三年四月五日


 昨夜は関と、赤坂東急で、フランス料理の食事を摂り二人でハウスワインを三本開けてしまった。

 その所為で刑務所生活の癖がついてしまった午前六時三〇分に起床をしないで、ゆっくり睡眠を執る事が出来た。

 午前十時に目が覚めた久仁は一八〇度の展望が聞いているガラスに掛るカーテンを全開にして、ガウンを脱ぎバスに飛び込んだ。

 思い切り熱いシャワーを浴びながら、久仁は、お大山を関に紹介された後、ワインでも大山と神良のテーブルにプレゼントする事である。

 その前に、関がフリーメイソンに入会できるように協力すると確約すれば、大山も気分が良くなり、最高級のワインなら飲んでしまうだろうと考えていた。

(ワインはフランスのブルゴーニュ地方のロマネコンティが良いだろう。ロマネコンティを知らずしてワインを語るべからず。高級ワインを飲むものなら垂涎のものである。

 今日はこれから恵比寿のガーデンプレイス内にあるワインの専門店『ラ・ヴィネ』に行きロマネコンティと、コルクを自在に差し入れする道具を買う必要がある・・・)

 シャワーから出ると久仁は、パンツをつけて、ワイシャツを着るとズボンを履いてバックルを通し、ネクタイを締めた。鏡に映る自分の顔を見て府中刑務所に入っている時と、顔が全く違っているのに気が付いた。

(マツボー良い役者だな。府中刑務所の中で私が、本郷繁樹であるのを知っているのは誰もいない。きっと所長も繁松久仁であると思っているだろう)

 スーツを着ると久仁は恵比寿のガーデンプレイスに向ってタクシーを走らせた。得部巣のガーデンプレイスに着くとタクシーを降りて地下にある『ラ・ヴィネ』に入って行った。勝手を知っている様に1番奥にあるワインセラーの中に入った。

 ワインセラーの中を一回りすると、ついて来た店員にワインを注文した。

「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティの二〇〇九年物を頂きたい」

 一瞬驚いた顔をした店員が、直ぐに真顔になり久仁の注文に応えた。

「一二〇万円に成りますが、宜しいでしょうか」

「よいとも、ケースは付いているのだろう」

「勿論で御座います。お客様」

「それに、一人では一回に1本は飲めないから、コルクを飲んだ後に嵌める道具を買いたい」

「それ位は、サービスさせて頂きます」

 キャッシャーへ行き久仁は、関から預かっているカードを出して支払った。

「領収書はいらない」

 キャシャーにいる店員は驚いたような顔をした。

 ロマネコンティ二〇〇九年を受け取ると久仁は何気ない顔をして『ラ・ヴィネ』を出た。

 恵比寿ガーデンプレイスの中を歩きながら、四カ月前と少しも変わっていない景観に見とれながら考えていた。

(大山の末期の酒に成る。せめてロマネコンティを飲ませてやるだけで有り難いと思え・・・)

 タクシーに乗り新宿の東京ハイアットリージェンシーの二六階の自分の部屋に帰り、スーツを脱ぎロマネコンティのコルクを締める道具を取り出した。

 ロマネコンティのコルクを抜き水上から貰ったバイアグラを粉末にして、道具を使ってコルクを締め鉛で出来ているコルクカバーを上手に被せて久仁はため息を吐いた。

(準備万端整った。私が大山を粛清する事で、拉致交渉が進展してくれれば願っても無い事である。拉致被害者が帰国できるなら、私は、自分の良心を捨てても行動する・・・)

 ロマネコンティの細工が終わり、集中したので久仁は疲れを感じたのでそのままベッドに仰向けになり、目を瞑った。

 夢を見た。拉致被害者が羽田空港から、喜びを体全体に表せて飛行機のタラップを降りて、下で待っている家族と抱き合っている姿である。

(良かった・・・良かった・・・良かったね・・・)

 と思った時に関から電話が掛って来た。

「さっき、内閣調査室に電話を入れたら五月の初めに小泉総理の時に、筆頭書記官をしていた飯島氏が総理の特使として北朝鮮に行くことに決まったと官房長官から情報が入った。

 勿論極秘であるが、飯島氏が、何時、北朝鮮に行き何を話すかは、大山を粛清してしまえば北朝鮮には解らない。

 但し、北朝鮮の諜報員は大山以外にも国の中枢に食い込んでいるだろうから、僕の方はその調査で久仁との仕事が終わっても忙しくなりそうだ」

「日本はスパイ天国と諸外国に言われている。外国ではスパイは死刑だ、官房長官にはスパイに対する法改正を含めて頑張って戴かなくてはこの国を守る事が出来ない」

「この仕事が終わったら報告をするが、その時にでもスパイに対する法改正を官房長官に進言して、総理の耳に入るようにした方が好いだろう」

 官房長官の小内博二は、昼行燈のような人だから腹の内が良く読めない。人物的には私心の無い純潔無垢な政治家として珍しい人だが、この汚い政治の世界いや対外国との外交には、マキアベリズムをもう少し駆使して貰いたいものだ」

 官房長官の小内は微笑を忘れない好人物である。

 人間誰でも心の中には、一つや二つの悩みがあるものであるが、小内はそのような事が全く無いように見える。

 だから、小内の本当の腹は読むことが難しい。関は官房長官の陰と成り、陰の部分を一切受け持っている。肩書は内閣官房長官筆頭秘書であるが、仕事の都合上、絶対に名乗ることをしないのである。だから、明日の大山を粛清する場所であるアークヒルズクラブのリザーブも関の下の秘書官に命じたのである。

「官房長官の事はともかく、実行日は明日だ。私は必ず大山を粛清する」

「皇宮警護部長にそう言われると、臨場感が出てくる」

「明日は午後7時にアークヒルズクラブをリザーブしてあるから五時三〇分までにはホテルの部屋に行くよ」

「了解した。関、待っている」

 大山はどうしてもフリーメイソンに加入したいと思っていた。

 関はその事実思い切って、久仁に電話で告げた。

「本当の事なのか関、大山が、関の加入しているフリーメイソンに入会したいという事は、私達にとっては『天佑』である。天というものは、正義を貫く者に対して、必ず味方をしてくれるものだ」

 アークヒルズクラブに行き、どのようにしたら、大山に自然に近づけるものであろうかと考えていた久仁の凍りついた脳裏が、氷解し始めた。

(国家の獅子身中の虫を、退治する全部の計画が、仕上がったのも同然だ。後は、1日後を待つだけである・・・)

「関、計画が整った。今日は美味いものでも食べて戦士の休息としゃれ込もうか」

「好かろう。赤坂の『ざくろ』で美味しいものでも戴こうか」

「それは良い。折角、皇后警察の護衛部長で警視正でもある本郷繁樹が府中刑務所から帰ってきたのだからな」

「それでは、出所祝いという事か。それとも府中刑務所という大舞台でマツボーを演じたギャラ代わりかな」

「あまり笑わせないでくれないか、久仁 、僕と君で今夜食べる食事は、古い親友同士の邂逅という事でどうだ」

「邂逅、好い言葉だ」

 夕方七時、赤坂『ざくろ』に着いた二人は、二日後に迫っている大山の粛清の事など忘れ、しゃぶしゃぶを腹いっぱい食べた上に、ハウスワインを5本開けてしまった。

「水上が、関によろしく言っていた。人生、何時何処で何が起こるかもしれない。時間が空いたら一献酌み交わそうと言われている」

 関は憐憫の情が表れた眼をして、久仁を見てため息を吐いた。

「久仁、任務であっても、刑務所に入っている事は辛くないのか」

「私は、自分の生れたこの国を愛しているし、誇りに思っている。その自分が愛する国を乱すような者は、断じて許す事が出来ない」

 久仁自信、人間の命の尊さは人一倍わかっている。

 然し、久仁の観念の中では国家があってこそ、こうして日本人として誇りを持って生きて行けるのであると考えている。

 国を愛し・歴史を愛し・同胞を愛し、隣人を愛する為にも、国家の悪は粛清しなければ成らないと考えている右翼ではないが愛国者である。