IMG_0548



































伝説の男・岸本卓也


ザ・カジノ・一

 賭博は洋の東西を問わず、古くから行われてきた行為現象である。

エジプトに於いては、紀元前千六百年既に、Tau,Hab em hau,Senat等の博打が在し、古代ローマでは各種の賭具が完備していた。

殊に、大陸におけるその発生は古く、長い歴史の間に相互に模倣・交流し合って発達してきたものである。

例えば、フランセ・イタリヤ・スペインはその中心であり、現在その盛行を見ると賭博大陸といわれる南米や、アメリカの賭博様式が殆ど、大陸からの移入と発達であるのが解かる。

例を挙げればファロは十五世紀のチュートンの軍隊に始まり、イタリヤのホッカ、或いはベェネチアのベェセッタと変形し、フランスでは十七世紀中にカードの裏にエジプトの王の像を描いたものを用いるPharaonとして流行を極め、更に、十九世紀に至って海を渡りアメリカに移植されたものである。

序ながら、アメリカ現行のルーレット、バカラ、ホーカー、クラップス、ルー、オール・フォア、セブン・アップ、ピッチ、モント、ケノー、ハート、シンプル・リッグ、チャック・ア・ラック、バンコ、ブラック。ジャック、エカルテ、カシノ、ウイクス、等について見ても、ルーレットやエカルナは言うまでも無くフランス系、モントはスペイン系、オール・フォアは十七世紀イギリスで盛行したものである。ブラック・ジャックは、フランスのバァンテ・アンあるいはイギリスでバァンテリーと知られ、このような流れがあり発生系統がある。

一体人間が賭けを好むのは、ある意味で人間的な特異性を示すものではないだろうか、事実それが、未開社会からあらゆる文明社会に広がっている事は、民族学・人類学者達によっても各種の機会にその普遍的な分布が指摘されている。

地球上を巡る広い意味では、現代の賭け行為に対して、日本を除いた世界が、毎年賭けている金は、モナコの賭場・イギリスの競馬ブーキー、アメリカのスロットマシン、アフガニスタンの五賽の至るまで、約二百三十兆ドルの夥しさに上がると言われている。

その様な賭博行為を巡り、これを専門的な職業とする公然のカジノの他、更に、秘密裏にカジノを経営し、ある種の結社や集団組織を形成してきた事は、日本の博徒と何等変わりはないのである。

                                                            

岸本が稲川会の本部長であった頃は、全国的にカジノバーは盛んであった。

法律的に解釈すれば『違法』である事に間違いが無いが、如何せんカジノバーは、莫大な利益を生むその利益のお零れを戴こうとヤクザは、店の用心棒に成り用心棒代をあげ、チップを換金する権利を戴き、警察官は袖の下を貰いたいから、違法を承知で見逃し、取り締まらない状態でカジノの全盛期でもあった。

だから『東京夜の闇』で書いた東京都でも最大のカジノバーを経営した黄原のような怪物が生まれるのである。

岸本は、都内に浅草と新宿に事務所があったが、正式には自分の縄張りで無いのでカジノバーから掠りを貰う事は、個人的な交際があった黄原の錦糸町と新宿のカジノバー以外はやらなかった。

だが事もあろうに、黄原社長が経営する新宿のカジノバーで、岸本組が面倒を見ているのを知ってか、知らずか強盗が押し入った。

結果的に強盗は、住吉一家中村会の香山組長の弟とチャイニーズの女性と同棲をしている杉山と言う男及びチャイニーズの仕業と解かった。

事の顛末は東京夜の闇で前出した黄原勢蒿社長が、新宿でカジノバー「ラスベガス」を経営していた。

ある晩、三人の男が来てバカラを張り取りしていた。

その内、三人は示し合わせたように店をガタクリ始めた。

「ここは、如何様をしているのか。社長を呼べ社長は何処にいる」

「早く、社長を呼ばないと店をブチ壊すぞ!」

店の警備の者に詰め寄った。警備の者はどうも三人は、拳銃を持っている様子なので、取り押さえる事ができなかった。仕方が無いので社長のいる部屋に飛んでいった。

その隙に、三人は三つもあるキャッシャーの部屋の鍵を開け、拳銃を取り出しキャシャー室にいた者に突きつけた。

「命が欲しければ金を出せ!」

三人は金が入っている金庫を開けて換金用の金、参千万円を取り出すと用意したバックに入れ、捨て台詞を吐いて急いで店から出て行った。

「警察(さつ)に電話など掛けるとこれで弾くぞ!」

黄原社長から連絡を受けた新宿カジノバー「ラスベガス」の岸本一家「ラスベガス」担当の高野と三井は黄原社長の電話を受け慌てた。

(何処の野郎だ。家が面度を見ていると知りながら、たたき(強盗)に入るとは、いい根性をしている。だが、この件はただでは済まされない。捕まえてしっかり、ケジメをつけなければならない・・・)

高野と三井は「ラスベガス」の店員に事情を聞き尚且つ、監視カメラを何度も見た。

一諸に監視カメラに残っている強盗の姿を見るとキャッシャー室に、鍵をこじ開けて入ってきたのは三人であり、どうやらチャイニーズのようである。

(新宿はチャイニーズが跋扈していてやりたい放題だ。この辺で大鉄槌を浴びさせないと日本人のヤクザが舐められる・・・)

その日から高野と三井のチャイニーズ刈りは始まった。

二人の舎弟連中約三十人体制で「ラスベガス」がある新宿歌舞伎町周辺は、強盗の一員であるチャイニーズを探すために動き始めた。

この為の新宿にいるチャイニーズは全員姿を晦ませた。

同時に、モニターに写っている他の二人の顔写真をコピーして、店の者を始め岸本一家の東京にいる者達に見せた。

結果、一人は総長である岸本の舎弟で、住吉一家中村会の香山組長の実弟で光美(みつみ)ある事と、チャイニーズの女性と同棲をして、チャイニーズマファと何時も悪い事をしている杉山と言う男とチャイニーズである事が判明した。

直ぐに、高野と三井は杉山のマンションに行き拳銃を着きつけ、このために借りたマンションに杉山を拉致してきた。

高野は杉山に聞いた。

「お前は岸本一家が面倒を見ている「ラスベガス」に行き因縁をつけた上に、キャッシャーの鍵をこじ開け、換金係りに拳銃を突きつけ参千万円の金を強盗した。ただでは済まないのは解かっているだろう」

「何の事を言われているか解かりません」

「この野郎しらばっくれている野郎だ。しらばっくれていれば、命が無いものと思えよ」

「そんな事を行っても、知らないことは知りません」

「解かった。死んでもらうしかないようだ」

高野と三井は、若い者を三人ばかり連れて車のトランクに杉山を叩き込んで多摩湖の上流に連れて行った。

崖の近くで杉山をおろした。周囲は誰一人通る者はなく真っ暗闇である。

「杉山もう一度聞くが、お前は家が面倒を見ている新宿の「ラスベガス」行き参千万円強盗したな」

言うと同時に高野は、持っていたナイフで杉山の顔を切りつけた。

「ギャー」

杉山は叫びながら直ぐ傍の崖の上から下へダイビングした。

「この野郎。逃げやがって、直ぐ崖の下に行き杉山を見つけろ」

杉山をここへ連れて来た全員で崖の下の行き探したが、杉山は崖の途中の木の根に掴まり息を潜めていたので皆で幾ら探しても見つからなかった。

「逃げられたのでは、形がつかない。本部長の松田さんに連絡をしてみよう」

杉山を多摩湖の奥まで拉致してきて、顔をナイフで切ったまでの経緯を電話で説明すると松田本部長は直ぐに、現場まで来てくれた。

「おうっ、よく探してみろその辺に潜んでいるだろう」

「はいっ、杉山の野郎、何処に潜りこんでいるのだ」

この時、杉山は崖の途中の木の根に掴まりながら、息を潜め岸本組の者達が、早くいなくなってくれないかと考えていた。

全員で崖下を隈なく探したが、杉山の身体は見つからなかった。

「これだけ探して見つからないのは、崖にダイビングした時、直ぐに体勢を立て直し、走って逃げたのに違いがない。高野・三井引き上げだ」

 杉山は夜が明けるまで、崖の途中の木の根に掴まり息を潜めていたが、明るくなり周囲に人がいないのを確認すると崖を滑り降りた。

道が解からないので道路標識を確認し、青梅街道を新宿に向かって歩いて行った。

着ている服が汚れて所々破けているので、それを見た農家の者が百十番通報をした。

近くの交番のおまわりさんが来て、杉山を交番につれて行き事情聴収し開放した。

だが、この件は大きな広がりを見せた。

十日後、茨城県日立大田市の那珂川に、こめかみを拳銃で撃ちぬかれた杉山の死体が浮いた。

捜査を始めた茨城県警暴力団取締課は、杉山を拳銃でこめかみを撃ち那珂川の遺棄したのは、岸本一家の者ではないかと結論した。だが、誰が杉山を殺したのかは解からなかった。

「岸本一家の者が例え、罰金で済む様な事をしても直ちに、逮捕しろ」

茨城県警本部長は県内全署に通達を出した。

同時に、茨城県警と東京の警視庁は合同捜査を開始した。

高野・三井は「ラスベガス」の店の前に車を置いていたが、職務質問をされそうになったのでその場から逃れた。

 残った車の中を職務質問をした警官が捜索したら、拳銃があり後日、逮捕された。二人は懲役五・六年の判決を受けた。

運転手の者は、そのまま逃げて逃げ切り、警視庁に犯罪記録がなかった為に、逮捕を免れた。

もう一人中新田一家で北海道から来た元山口組にいた若い者は、警視庁新宿署に連行され、茨城県日立大田市の那珂川に浮いた杉山との関係をしっこく聞かれたが、何も知らないし、余計な事を喋らなかったのでその日の内に、釈放された。

若い者頭の田端要治は「ラスベガス」の件は何も知らなかったが、赤坂東急ホテルの喫茶ルームにいたら、茨城県警と警視庁の捜査員に『恐喝罪』で逮捕され結果拳銃を一挺所持していたので懲役七年を裁判所で言い渡された。

「ラスベガス」を強盗したのは、那珂川に浮いた杉山と中村会の香山組々長の実弟光美(みつみ)そして、杉山と杉山が同棲していたチャイニーズの女性の関係者である。

本来であるなら、中村会の香山組長に責任を取らせるのが当然ではあるが、岸本の舎弟分でもある中村会の島田会長が、参千万円の金を岸本のところに持ってきた。

「兄貴、香山の舎弟の光美が、とんでもない事をやりまして、本来ならこれだけでは済まないのは重々承知ですが、舎弟の私に免じてご勘弁願います」

島田会長は岸本の一番の舎弟である「ラスベガス」を面倒見ている者達の顔もあるが、島田会長の顔も立てなければ成らないヤクザ渡世でもある。

決断が早い岸本は可愛い舎弟の島田会長の顔を立てた。

「解かったよ。島田」

この話し合いを島田会長は「ラスベガス」強盗犯光美の兄である香山組長に一言も言わなかった。

香山は現在、引退をしたが数年前に香山組の片桐俊が、浅草ビューホテルの裏の喫茶店で山口組内倉本組幹部を二人拳銃で撃ちぬいた事は、東京ヤクザが賞賛する所となり、岸本は東京拘置所に入っている片桐俊に二度面会をして励ましてやった。