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拳銃無常再び


 二日後の新聞に群馬県警の総務部長の大原忠彦が、収賄罪で東京地検に逮捕されたと言う記事が出ていた。太田市の自宅で新聞を読んでいた樹木が何の事だろうかと思いながら、まさか、東京地検だから自分の事ではないなと都合の良いように考えていた。

処が、埼玉県警北部組織犯罪対策課では、白沢と桜場が島内権蔵から、しつこい位、微に入り細に入り、供述調書を取っていた。丸一日掛かり深夜までかけて供述させた調書を翌朝、一番で裁判所に送り、樹木の逮捕状の交付を受けた。罪名は殺人死体遺棄及び覚醒剤取り締まり違反並びに贈賄罪である。

従って、樹木が新聞を読み大原の逮捕を知った時は、熊谷署及び埼玉県警組織犯罪対策課総員が、応援の捜査官も含めて五十人から熊谷署を出発して樹木逮捕に向かい丁度、利根川に架る刀水橋を渡る所であった。

樹木は、ヤクザとしては腹が据わっていない人間である。外出の時は、離れたところに若い者を置いて拳銃を常に持たせていた。組のトップにいて覚醒剤を率先して若い者に販売をさせることにかけては長けている。ヤクザ同士の間でも会合などが有るたびに自分が如何に大物であるかを、会合が終わるまで喋っている。他人と相対した時は、喋らないと怖いと思っているのだろう。ヤクザ仲間でも多弁な人であると言い。悪く言うものは口舌の徒だと言う。

今日は配下の者の所に覚醒剤の売り上げの集金に行く予定でいる。

部屋住の若い者に出かける支度をするように命令した。

「用意する者は用意してゆけよ」

 拳銃の携帯を指示した。スーツを着かえ、さて、出かけようと思った時、愛 警部他五十人からの捜査員が、樹木の家を取り囲んでいた。

犯人逮捕に行く時は何時も白沢が愛警部の傍にいて、容疑者に逮捕状を交付するのであるが、今日は山中班長がピタリと傍に着いて開いている門の中に進んで行った。

玄関口に着いたので山中は大声を張り上げた。

「樹木兼三出てこい。殺人及び覚醒剤取締法違反並びに贈賄罪で逮捕する」

部屋住であろうか、未だ、二十歳にも満たない若い青い顔をした男が二人出てきた。

「親分はいねーよ」

「そんなことはない。車庫に車が有るじゃないか。しらばっくれると、お前たちも逮捕するぞ」

山中に迫力に意負けした部屋住の一人が、玄関先から奥の方へ戻って行った。

「親分。警察ですよ。何て言って追い返したらよいのでしょうか」

詭弁を弄することが上手な樹木は、本当は警察と会う事が嫌であるのだが、逮捕されては、仕方がないと思って警察の前に出て行き逮捕事実に対して反論してやろうと思っていた。

自分の部屋から廊下に出て玄関口に行った樹木は、そこには目を瞠るくらい綺麗な女性がいたのでなんであるのかと疑問に思った。

愛は、樹木が玄関に出てくるまでの動作の一部始終を観察していた。

(体は大きいが、肝は小さい様ね。眼がくるくる動くのは嘘をつく人の典型だわ・・・)

「態々、群馬の田舎までご苦労様です。して私に何か御用ですか」

百済観音みたいなアルカミックな微笑みを演出しているのが良く解かる。だが、禅を長くやり現在でも座っている愛は、天眼通を備えている。下手な小細工をして自分を善人に見せているのが手に取る様に解かる。

「樹木兼三、殺人死体遺棄及び覚醒剤取り締まり違反並びに、贈賄罪で逮捕する。無駄な言い訳は聞きません。覚悟を決めて同行しなさい」

「俺が何をしたと言うのだ。俺は何もしていないし、市の福祉課にも何度も寄付をしている人間だ。その俺を逮捕するとは可笑しいじゃねーか」

「笑わせないでよ。覚醒剤を売って得た利益を福祉に寄付をしたことが何が偉いの、汚れたお金の十万円より、爪に火を灯して生活をしている人の十円の方が彼方の十万円より、価値が有る物ですよ。とにかく、度胸を決めてわたし達と熊谷署に来なさい!」

凛とした態度で愛は、樹木に引導を渡した。

「ちょっと待ってくれ、洗面用具や下着の用意があるから・・・」

「駄目です。この場から一歩でも動いたら逃走したとして、拳銃を使うわ」

「おい、おいオッカナイことを言うなよ」

 樹木が振り向くと部屋住の若い者が、拳銃を愛に向けた。山中が、危ないと思った時である。愛は、愛銃のベレッタ92Fを腰から抜きトリガーを引いていた。弾丸は樹木の耳を飛ばし後ろで銃を構えた部屋住の若い者の手首をもぎ取ってしまった。

「痛てーうっ、うっ、うっ、うーん」

樹木は右耳のあった部分を両手で押さえながら、玄関先でドジ狂っていた。手首を飛ばされた若い者は既に、気絶をしていた。

素早い動作で山中は樹木に馬乗りになると後ろ手錠を掛けた。ドジ狂う樹木を無理やり立たせると手錠に着いた縄を持ちながら、よたよたしている樹木の腰を一発強かに蹴りを入れた。

「な・ん。だーよーこの察は、頭がいかれているんじゃねーかよー」

「頭がいかれているのは樹木お前だ、山中班長はもう一発けりを入れた。

護送車迄引きずるようにして樹木をずって来て、後部座席に乗せ山中と白沢の間に挟んで前に於いてある愛の車が発進すると樹木を乗せた車も動きだした。

一時間もしない内に熊谷署に着いた。

車が止まると山中が、樹木を座席から立たせた。

「おいっ、地獄に着いたぜ、親分よ。今日から閻魔大王と言われた埼玉県警組織犯罪対策課北部担当のこの俺が、緩みのない調べをしてやるからな」

樹木は上目使いでいかにも悲しいような顔をして蚊の泣くような声を出した。

「勘弁してくださいよー山中さん」

「何をいまさら、泣き言をいうのではない」

署内に入り組織犯罪対策課に行き調べ室で弁解録調書を取ったのは、愛と山中の二人である。

「逮捕事実の殺人死体遺棄及び覚醒剤取締法違反並びに贈賄罪のあったことは事実ですか」

血が固まり耳が亡くなったところは、止血した様子の樹木は弁解をした。

「そのような事実は私には関係がないことです」

「そんなことを言っても公判では通らないわよ」

「わたしはヤクザをやっていますけど人を殺したり傷つけたり絶対にしていません」

「弁解録調書のはそう書いておきましょう。だだ、一つだけ教えて置きましょう。1週間前に彼方と群馬県警の大原さんと伊勢崎市の『椿屋』に行きその後、ホストクラブのEIS(エリス)に行きその晩は、大原さんはホストとラブホテルに泊まったわね」

愛の言葉を聞き樹木の顔色が真っ青になった。眼は虚ろになり空中を彷徨っていた。肩は愕然としたのか、小学生が先生に叱られているように落ちていた。

項垂れていた顔を上げ上目使いに愛を見ると懇願をした。

「本当の事を申しあげます。弁解録調書をもう一度執ってくださいお願いいたします」

「駄目です。言い訳は公判廷ですればよいでしょう。でも彼方にどこまで否認ができるでしょうかね。山中さん」

「こんなクズのヤクザは未だ、であったことが有りません。警察人生でこのように腐ったヤクザがいるとは思いませんでした」

凛とした顔をして愛は樹木に最後の言葉を残した。

「中国の戦国時代口先一つで国を動かした人間はいるわ、蘇秦と張儀という人物よ。その人達を指して縦横家と言い。合従連衡を説いた人です。口が上手いならせめてその人のような人物になりなさい。今の彼方は唯の『口舌の徒』でしかないわ」               愛シリーズ第三弾  終り


お わ り に

皆様のご支援の賜物で組織犯罪対策課警部・鷹司 愛シリーズも第三作になりました。この度の冒頭には僕の作品である「蝉が哭く」熟年夫婦の愛と絆の物語の主人公・大沼剛史と妻静江を水死人発見者として、登場させてみました。

更に、愛の叔父であり、警察庁長官である中院を登場させてみた。

実はこの鷹司 愛警部シリーズは、九十パーセントの真実を元に書いているのです。従って、現在、居る者の多く登場している訳でして、一番苦労をするのは名前を如何に捩るかです。

「溯上した死体」はミステリー風に書きたかったのですが、力量不足で思うようには書き上げられませんでした。何時かは難航捜査で苦しむ愛や山中を書きたいと思っています。最後の最後まで犯人が解からない。必ず、愛シリーズで実現させますことをお約束いたしまして、愛シリーズ第三弾を終わります。


平成二十五年 五月  十七日

六天 舜